ごめんね…最後まで忘れることなんて出来ない

あなたの甘い言葉と熱い温もりはこの心臓と肌に残る


何も知らないあなたを目の前にすると

傷口はないのに痛くて涙が溢れそうになる


伝えたらどんなに楽だろう

伝えたらどんなに嬉しいだろう

伝えたら…どんな表情を魅せてくれる?


もう時間が無い…近づく電車の音

誰もいないホームで腕を引かれて

あなたの胸に包まれた


力強く抱き締める腕が温かくて、優しかった

どうしていつも押し殺してきた理性を壊そうとするの


伝えられない理由はあなたが一番知っているでしょう?あなたにはもう居場所がある…


私にはそれを壊す資格なんて無い

あなたの幸せを壊すなんて出来ない


だけど…せめてこの時だけは…あなたの腕の中に居させて


腕を離して名残惜しそうに…寂しそうに


「なんだよ…寂しくなるな…」


どうしてそんな事言うの?

何も思っていないくせに…何も知らないくせに…


「もう、一緒に仕事出来なくなりますね…今までありがとうございました」


気持ちを喉の奥に押し込んで私はそう言った


好きだと言ってやりたかった

あなたのその余裕を壊してやりたかった…

好きだって言われて困ればよかったのに


電車の音が止んだ。

これに乗れば、もう二度と会うことはない。


それなのに、最後まで思わせ振りでズルいあなた。

最後まで意地っ張りで素直じゃない私。


何度も何度も抱きしめて、頭を撫でて…甘やかして…


あなたも私の事、少しは意識してた…?

都合の良い女だった?


もう時間だ…


私はあなたの温もりから離れて電車に乗った。

あなたに背中を向けたまま、もうあなたのことは忘れる。そう、自分の胸に刻んだ


扉が締まったあと振り返ると、悲しそうに笑ったあなたが手を振っていた


私はそれに返すことが出来なかった


「ごめんなさい……あなたの事が好き」


喉の奥に押し込んでいた言葉を誰もいない車内でぽつりと呟いた