私の会社でその昔働いていてくれた女性から、年賀状が届いた。

彼女はふたりの子どもがいて、子育て中は専業主婦という道を選んだ。

その彼女が、フリーライターの仕事を再開したという話を、ちょっと前に聞いたような気がしていたが、

特に連絡をとりあうこともなく、久しぶりの賀状の差出し住所が

四国のある町だったことに驚いた。

 

小さいけれど丁寧な文字で、移住をしたと書いてあった。

実家の母親の介護をするためとのことだった。

 

田舎の時間は東京とは違ってゆるやかで、

慣れるまではなかなか大変だったが、

慣れてしまえば心地よいふるさとがそこにあったそうだ。

 

彼女だけではなく、

親の介護で地元にJターンする女性たちは少なくない。

 

彼女は家族そろっての移住で、

幸せな暮らしをしているようでよかったが、

親の介護のために仕事を辞めた友人知人もかなりいる。

 

ちょうど先週会った年上の旧友は、

本人が数年前にがんを患ったこともあり、再婚の妻と、遠方に独り暮らしをする90代の自分の母がいる男性である。

 

彼は毎月遠方の母のもとに通っていたものの、いよいよ覚悟を決めて

母を呼び寄せることにしたという。

 

自分たちのマンションを売って、
ずっと放置してあった都内近郊の一軒家を息子に譲り、

新しく土地を買って、家を建て、そこに親と同居する予定なのだそうだ。

 

その人自身がもう高齢者でもあるのだけれど、コンサルタントとして会社を経営していたが、

それはきっぱりと辞めて、親の介護に専念するという。

新しい家の周囲の人たちとも、早くも仲良くなり、

地域社会に溶け込む意欲満々といったところは、元やり手ビジネスマンだったころに難題をこなしていくくらいの

やりがいを感じているといった感じだった。

 

私自身、高齢の母がいて、

母との共生を考えるような年代になった。

母の資産を見直し、母の老後(もうすでに老人だが)を話し合うようになった。

 

いまは元気だけれど、怪我や病気になったらどうする。認知になったらどうする。動けなくなったらどうする。

 

実家の近所には病院はないし、買い物をするところもない。

 

東京に来てくれれば、住みやすいし、病院もたくさんあって安心であると何度話をしても、

絶対に家から離れるつもりはないと言うので、

ではその古くて、暮らしにくい家や地域で、

どうやって年をとっていくのかという相談を重ねている。

 

移住ができる人は、もともと「引っ越し」などを若いころに経験していたり、

古くからの家や伝統に縛られることがない暮らしを経験したことがある人たちだろう。

 

私自身も、古い家を継ぐのは長男であるならば、私は帰る家はないのだと、ずっと思っていた。

でも、実際に親が年をとって、あちこち不自由なところが出てくると、

家族のいない独り者の私にお鉢が回ってくるという覚悟もしてはいた。

 

自分の老後を心配する余裕もなく、まずは親の介護が目前にある。

 

「施設には絶対に入らない」と言う母は、

父の母(母にとっては義母)の老後を、在宅でケアした経験を持つ。
母の母(実際には戸籍上の母なのだけれど)は、脳梗塞で動けなくなった母を死ぬまで自宅でひとりで介護した。

ヘルパーなどいなかった時代に、母の母はパートで働きながら、寝たきりの(巨漢の)母親の面倒を十年以上みた。

そう考えると、母親の最後のケアをしるという宿命が課せられているのかもしれないけれど。

 

話は戻る。

 

別の方からの年賀状。

 

都心から離れたふるさとの古民家をなんとかしたい、と考えていた方ががんで亡くなった。
その方の友人からの年賀状だった。

 

古民家はみごと再生され、地域のコミュニティサロンとなっているという。

 

「ぜひ、遊びに来てください」とある。

 

亡くなった方は、体調が悪いときに、わざわざ私に会いに来てくれたのだった。

私はそんなに具合が悪いとも思わずに話をして、「お大事になさってくださいね」とあいさつしたのだけれど、

それからひとつきもせずに、静かに亡くなられてしまった。

その方のことを思うと、本当に本当に、申し訳ないという気持ちでいっぱいになるのだけれど、

想いをつなぐ人たちがいてよかったと思う。

 

私がもし、もっともっと若かったら、

地方に生きるお年寄りに、何ができたろう。

 

いまとなっては、私自身は親から離れた地域に移住することは不可能であり、

いまは親のそばで過ごす方法を考えるしかないのだけれど、

私が考えることは、いろいろな人たちも考え、悩んでいることなのかもしれない。

 

見知らぬ土地に移住するという勇気があるのであれば、

生まれ育った地を再生することが、

若い人たちの新しい移住の形かもしれないなあ。

 

 

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