まったく、柴太ほどおくびょうなやつはいない。もう五つにもなったんだから、朝イチに一人でパチ屋の並びぐらい行けたっていい。 

ところが柴太は、パチ屋は表にあるし、表には大きなマジハロの木がつっ立っていて、空いっぱいの箒の毛をバサバサとふるって、両手を「わあっ」とあげるからって、朝イチには、じさまについてってもらわないと、一人じゃしょうべん打ちもできないのだ。 

じさまは、ぐっすりねむっている朝イチに、柴太が「じさまぁ」って、どんなに小さい声で言っても、「リセット狙いか」と、すぐ目をさましてくれる。いっしょにねている一枚しかないふとんを、ぬらされちまうよりいいからなぁ。 


やい、木ぃ 


マジハロの木ってのはな、柴太がつけた名前だ。パチ屋の入口近くに立っている、でっかいでっかい木だ。 

秋になると、茶色いぴかぴか光ったメダルを、いっぱいふり落としてくれる。そのメダルを、じさまがカウンターに持っていって、換金所で交換して金にする。金にしたやつで市販のもちを買い上げて、ふかして食べると、ほっぺたが落っこちるほどうまいんだ。 


「やい、木ぃ、マジハロの木ぃ、メダル落とせぇ」


なんて、昼間は木の側の席に座って、かた足で足ぶみして、いばってさいそくしたりするくせに、夜になると、柴太はもうだめなんだ。木がおこって、両手で「お化けぇ」って、上のデータランプからおどかすんだ。夜のマジハロの木は、その低設定濃厚グラフを見ただけで、もう、しょんべんなんか出なくなっちまう。 



霜月二十日の朝イチ 

そのマジハロの木に、今朝は灯がともるひなんだそうだ。じさまが店舗ブログ瓦版を見ながら言った。 

「霜月の二十日の朝イチにゃぁ、マジハロの木に灯がともる。起きてて見てみろ。そりゃぁ、きれいだ。おらも専業のころに見たことがある。死んだおまえのおとうも見たそうだ。パチ屋の神様のお祭りなんだ。それは、一人のスロッターしか、見ることはできねえ。それも、勇気のあるスロッターだけだ。」 

「……それじゃぁ、おらは、とってもだめだ………」 

柴太は、ちっちゃい声で、なきそうに言った。だって、じさまもおとうも見たんなら、自分も見たかったけど、こんな冬の朝イチに、マジハロ5を、それも、たった一人で打ちに行くなんて、とんでもねえ話だ。ぶるぶるだ。 

柴太は、はじめっからあきらめて、ふとんにもぐりこむと、じさまのたばこくさいむねん中に鼻をおしつけて、よいの口からねてしまった。 



柴太は見た 

柴太は、朝イチにひょっと目をさました。頭の上でくまのうなり声が聞こえたからだ。 

「じさまぁっ」 

むちゅうでじさまにしがみつこうとしたが、じさまはいない。 

「し、柴太、心配すんな。じさまは、じさまは、ちょっとはらがいてえだけだ」 

まくら元で、くまみたいに体を丸めてうなっていたのは、じさまだった。 



「じさまっ」 

こわくて、びっくらして、柴太はじさまにとびついた。けれども、じさまは、ころりとたたみに転げると、歯を食いしばって、ますますすごくうなるだけだ。 

「店長をよばなくっちゃ」 

柴太は、子犬みたいに体を丸めて、表戸を体でふっとばして走りだした。 ねまきのまんま。はだしで。半道もあるふもとのパチ屋まで……。 


とうげの下りのパチ屋の駐車場は、一面の真っ白い霜で、雪みたいだった。霜が足にかみついた。足から血が出た。入場後、柴太は震えながらなきなきマジハロ5の元へと走った。いたくて、寒くてこわかったからなぁ。 

でも、大好きなじさまの死んじまうほうが、もっとこわかったから、台を確保した後、なきなき呼び出しボタンで店長を呼び出した。 

これも年よりのじさまの店長は、柴太からわけを聞くと、 

「おう、おう………」 

と言って、台を開けて店長ボタンを押すと、20スロから5スロコーナーへと続く通路をえっちら、おっちら、へと歩いてバックヤードへと戻った。


そうして柴太がメダルを入れてレバーを叩いたとき、ふしぎなものを見た。 



柴太「マジハロの木に、灯(当たり)がついてる………っ!」 




つまり?




マジハロの木に~~灯がともるぅ~~♪





マジハロの木に~~灯がともるぅ~~♪




柴太「やい、木ぃ、マジハロの木ぃ、ストック落とせぇ」











柴太「やい、木ぃ、マジハロの木ぃ、100Gの振り分け落とせぇ」
















つまり?




マジハロの木に~~~灯がとも




ドンッ




次の朝、はらいたがなおって元気になったじさまは、店長の帰った後でこう言った。 

「おまえは、パチ屋の神様の祭りを見たんだ。マジハロの木には、灯がついたんだ。おまえは一人で、朝イチに店長をよびに行けるほど、勇気のある子どもだったんだからな。自分で自分を弱虫だなんて思うな。人間、やさしさとヒキさえあれば、やらなきゃなんねえことは、きっとやるもんだ。それを見て、他人がびっくらするわけよ。は、は、は。」 

それでも、柴太は、じさまが元気になると、そのばんから、 

「じさまぁ」 

と、しょんべんに、じさまを起こしたとさ。