”懐かしい”と書いたのは、以前よく聴いたという意味です。何十年も前のことですが、買った当時は本当によく聴いた思い出のレコードです。

 

 

シェリングが弾いたベートーヴェンとブラームスの協奏曲が入った徳用盤です。バックはハイティンク/コンセルトヘボウ。

 

🔷ヴァイオリン協奏曲について

 

協奏曲の中では「ヴァイオリン協奏曲」が一番好きで色々聴いてきました。それに比べれば協奏曲の花形である「ピアノ協奏曲」で聴いたことこのある曲数はグッと下がります。

 

もちろん自分でも少々かじった経験があるというのも大きいですが、ヴァイオリンという楽器は人が顎と肩の間に挟んで演奏するもので、ピアノのように置かれているものを相手にするより、よほど人間味のある楽器だと感じています。

 

そしてピアニストが両手指、足を自在に操る姿を見て驚く以上に、元を押さえる左手の指の動き、弓を操る右手の動きには見惚れてしまいます。

 

俗に「3大ヴァイオリン協奏曲」と呼ばれるのが、ベートーヴェン、ブラームス、、メンデルスゾーンのもの。しかし、後に続く多彩極まるヴァイオリン協奏曲の数々を知っていしまうと、いつしかそれらから離れてしまっています。

 

だから今はもう殆ど聴きませんので、久しぶりに聴いてみたいと思います。

 

🔷ベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」

 

ティンパニが弱くタンタンタンタンと4つ叩くだけの開始。

 

開始の天才、ベートーヴェンにしても本当に天才的な始め方です。一度でも聴いた人はこのティンパニの静かな4つの音を待ち構えることになります。

 

レコードに針を下ろして音楽が始まると、”ああ、フィリップスの音だ”とまずその深々とした響きに驚かされます。

 

フィリップス録音のレコードを紹介する度に書いてますので、もうそろそろ止めてもいいかなとは思いますが、書かずにはいられません。

 

長めのオーケストラだけの序奏が終わってシェリングのヴァイオリンが出てきた時、”あれッ”という感じ。”シェリングの音ってこんなにか細かったっけ?”・

 

これは多分、その後多くのヴァイオリニストの音を聴いてきたことと、そもそもシェリングのスタイルが古いということからくる、ちょっとした違和感なのでしょう。

 

それはハイティンクの指揮にも原因がありそうです。少なくともこの録音した1973年当時のハイティンクには協奏曲の伴奏には不向きな指揮者だったと感じます。

 

カラヤンならもっとシェリングの個性に合わせた伴奏が出来ただろうと思います。

 

伴奏と書きましたが、ベートーヴェンはそれまでの協奏曲のスタイル、独奏楽器を歌手に見立ててオーケストラはひたすら伴奏に回るというスタイルが気に入らず、独奏付き管弦楽曲という形に変えてしまいました。

 

ハイティンクがオーケストラを始終主張させるので、かえって演奏に平板な印象を与え、せっかくのシェリングの繊細な音を時に邪魔しているように感じます。

 

第1楽章の終わりのカデンツァ。よく聞くのはクライスラーのものですが、シェリングはヨアヒムのものを採用しているのが珍しい。

 

第2楽章、この楽章は本当に素晴らしい。

 

ベートーヴェンはオーケストラに単純な伴奏をさせます。しかしベートーヴェンが単純な音楽を書く時、時に神秘的とも思える瞬間が生まれるのですこの楽章など正にそんな音楽になっています。

 

ここでのシェリングの音はピタッとはまっていますし、ハイティンクの支えも悪くありません。

 

第3楽章、流石にベートーヴェンの書いた曲だけあって、堂々としたエンディングが素晴らしい。

 

やっぱり「ヴァイオリン協奏曲」の枠を飛び越えてしまっていますね。

 

第2楽章と第3楽章を続けてお聴きください。

 

 

 

🔷ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」

 

ベートーヴェンが打ち出した新しい協奏曲のスタイルを継いだのは、結局ブラームス一人でした。

 

第一楽章、ベートーヴェン以上に長いオーケストラだけの序奏中、ヴァイオリニストはただそれを聞かされながら出番を待ちます。この扱いは第2楽章ではもっと顕著に現れます。

 

そんなヴァイオリニストには初っ端から難易度の高そうなフレーズを弾かせます。

 

そうやって出来上がった音楽は、ベートーヴェン以上に重厚なものに仕上がっています。ハイティンクもここではオーケストラの内声部の扱いに、ベートーヴェンの時とは人が変わったかのような繊細さを見せます。

 

気のせいか、シェリングのヴァイオリンにも艶が乗ってきたような感じです。

 

第2楽章でヴァイオリニストは主題のメロディを弾くことなく、オーボエが朗々とそれを奏でるのを聞かされます。そしてようやく出番が来た時にはその旋律は変奏されているのです。

 

ただ演奏自体はこちらの方が格段に優れていると思います。それはブラームスの書法がベートーヴェンに比べずっと複雑さを増しているせいかも知れません。

 

第3楽章の後半を聞いてみます。