はち切れんばかりに膨らむ白い雲。
ヨンは己の内に溢れくる想いを巨大な白雲に重ねると、苦々しく溜息をついた。
一緒に行こう?
あなたがこれ以上誰も殺さなくていい処へ。
ヨンが断ち切ろうとしていた叶うはずのない願いを、天の女人は躊躇いもなく口にする。
そんな姿が羨ましくもあり、苛立たしくもある。
頭上に広がる遠い空の彼方を見つめ、幼きあの方が永遠(とわ)の安寧を得ていることを切に願い、瞼を閉じる。
「あ、いたいた」
心の奥深くを抉られるような血の記憶が、突如降ってきた軽やかな声に遮られた。
「ここに居たのね」
ヨンの顔などもう見たくもないだろうに、額に汗を滲ませ笑顔で走り寄ってくる。
侍医の胸に顔を埋めて涙していたひととはまるで別人のようで、
ヨンは心にちくりと刺さるものを振り払うと、平素を装い口を開いた。
「なんです?」
如何して此処へ。と問う前に、ウンスが答える。
「トルベさん達に聞いたらこっちで見かけたって言うから」
少し走っただけだというのに息を切らせたそのひとは、膝に手をやり「ふう」と肩で息をつくと、嬉しそうにヨンを見上げた。
眩しい笑顔に魅入りそうになり、口元を引き締める。
気配がする方をひと睨みしてやると、夏の葉を色濃く茂らせた藪がぶるりと震えた。
誰も隠れていませんよ。という声が聞こえてきそうだ。
「ここで、何してたの?」
先程まで共に居た迂達赤達が消えたことに気づいているのかいないのか、真っ直ぐな笑みでヨンを見つめてくる。
「・・・何もしておりません」
ウンスは「ふうん」と告げると、先程までヨンが眺めていた遠く儚い空を見上げた。
天のひとに、この空はどのように映るのだろうか。
ヨンの胸にふとそんな思いが過ったが、言葉にはせず再び頭上に目をやる。
空を見上げる時、それはヨンにとって帰らぬ人を想う時だ。
もう二度と言葉を交わせぬ、大事なひとを想う時間。
それは青空も雨空も無い、色の無いただの空だ。
ややあって、ヨンの隣から白い腕が伸びると、細い指先がふわりと動いた。
何かを摘んだような動きをして微笑んでいる。
「何を」
何をしているのかと問う前に、薄紅の唇から白い歯がのぞいた。
「美味しそう」
そう言って指先を口元に寄せ、何かを食べる仕草をしている。
「雲が、ですか?」
「うん、綿飴みたい。ふわふわで」
楽しそうに"わたあめ"というものについて語るひとを横目で見ながら、
ヨンは目の前に広がる空が微かに色付いてゆく、そんな兆しを感じた。
終
あ、そういえば今日はシンイ初放送(@韓国)の5周年記念日だった!と思い立ち、書いて見ました。(日付的には昨日(8/13)ですが)
いつもは書いた後何度も読んだり時間を置いたりするのですが、今日は撮って出し状態の文章です。
はたから見たら大して変わりないかと思いますが、なんだか恥ずかしい…。
最近シンイがabemaTVで繰り返し放送されているようですね。また新しいファンの方が増えてくれますように!
〜追記〜
5周年おめでとう!ということで、昨夜から今日まで"いいね"やペタをいただいた方々にペタ(orいいね)をお返しさせていただきました(設定で出来ない方もいらっしゃいましたが、気持ちだけ送りました♡)。
皆さんと「おめでとうございます♪」と言いながらハイタッチしてる気分で楽しかったです。
って、ここでこっそり呟いても気づいてない方沢山いると思いますが…
すいません一人で楽しんじゃって。お邪魔しました^ ^ えへへ。