バルコニーから眺める空は、ウンスが森で見上げていた空と同じ色をしていました。
ひと続きに繋がっている暮れゆく空を見つめて、ミヌ王子は口を開きました。
「兄貴の方が僕なんかよりよっぽど男前だと思うんだけどな。剣は強いし、頭は切れるし。僕は兄貴みたいにストイックになれないからなぁ。何で僕の方が騒がれるのか、いつも不思議なんだ」
「そりゃあ、あの人、笑わないし仏頂面でいっつも怒ってて、女性に優しくないもの。沢山の人達に囲まれて公務をこなすミヌ王子の方が、よっぽど忙しくてお仕事大変そうだわ」
「でも僕はみんなが嬉しそうに手を振ってくれるの、結構好きなんだ。外交の仕事が性に合ってる気がするよ。いつか国同士の争いも無い、みんなが幸せに暮らせる世の中を作れたらなぁって。僕は兄貴みたいに格好良く剣を使って国を守ることができないから」
「でも・・・剣が使えるってだけじゃ、ね」
ウンスは自分の想いを打ち消すように言いました。
沈み切った夕陽がますますその存在を隠すように、空が暗くなってゆきます。
「・・・実は兄貴、小さい頃から強かったわけじゃないんだ。
幼い頃に亡くなった母から言われたらしいんだ。"強くなりなさい。強くなってこの国と民を守りなさい"って」
僕は小さかったからよく覚えていないんだけどね。
と笑ってミヌ王子は続けました。
「それで母との約束を守ろうと、毎日毎日こっそり森の奥へ行って、剣の訓練をしてたらしくて。ある時なんか顔に大怪我して帰ってきたこともあってね」
「・・・怪我って、もしかして頬っぺた?」
小さい頃に森で見ていた王子様は右側の頬に怪我をしていたことがウンスの頭を過ぎりました。
「気づいた?よくよく見ると傷の跡がまだ残ってるでしょ」
(ヨン王子の頬に傷があったなんて。私ったら、気づかなかった・・・)
「だから僕、兄貴を尊敬してるんだ。いつも険しい顔してるけど、それでもウンスちゃんが来てからよく笑うようになって、ウンスちゃんには感謝してるんだ。兄貴はその・・・ウンスちゃんのこと・・・なんじゃないかなぁ」
(じゃあ私の初恋の王子様って)
ウンスは驚きのあまり、もうミヌ王子の声は耳に届きませんでした。
一体どうしたらいいのか、ウンスは気持ちが混乱してしまいました。
初恋の王子様、ミヌ王子に会いたいという一心で人間になって。
夢は叶わなくてもいいから、せめて泡になる前に想いを告げたいと願っていて。
でも気づけば、いつも心にいるのはヨン王子で。
しかもヨン王子が、幼い頃に森へ来ていたあの男の子だったなんて。