眺める月は一つ 第八話〜再会〜確かめたい | 信の虹 ー신의 nijiー

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ここは韓国ドラマ「信義」の登場人物をお借りして楽しんでいる個人の趣味の場です。
主に二次小説がメインです。ちま(画像)の世界も大好きです。
もしも私個人の空想の産物に共感してくださる方がいらっしゃったら、
どうぞお付き合いください^ ^


「お茶が入りました」と呼ばれて二人で部屋を出ると、案内された広間には住職と若い男が控えていた。
ウンスがろくに挨拶もせずに上がり込んだ失礼を詫びると、住職は「構いませぬ」と穏やかに笑った。
ヨンは遠征でこの地を訪れるたびに、大樹の下で時を過ごし、寺へも足を運んだらしい。
長い年月を経て朽ち果てそうになっていたこの寺はチェ・ヨンの援助によって補修が施され「お陰様で更にあと百年保つやも知れません」と住職は告げた。
ウンスは突然の訪問に訳も聞かずに快く応じてくれる事に感謝はしたが、
根掘り葉掘り聞いてくる気配が一切無いのも、また落ち着かぬ心地がした。

この寺で世話になったミョンハクもそういった気遣いを見せる人だった。
言えぬ事情がある事を承知で、ウンスが返答に困って答えを濁すと決まって深く訊ねようとはしなかった。
天から来た医員だという噂が村に広まり、役人がウンスを引っ立てようとした時は体を張って守ってくれた。
部屋でミョンハクの文をヨンに読んでもらった時、ウンスは涙を堪えることができなかった。
流れてくる涙を拭うのも忘れ、ヨンの胸の中でただ震えた。
"チェ・ヨンに会いたい"というウンスのただ一つの切なる想いを掬い取り、代々引き継がれるよう守ってくれたのだ。
大声で天に叫ぶ事でミョンハクへ思いが届くならば、広い空へ声が枯れるまで叫びたかった。

ありがとう。やっと、やっと…会えました、この人に。
生きて再び会えました…ありがとう。

皆の前で思い出したように再び瞳を濡らすウンスに気づき、ヨンはウンスの背中を気遣うように優しく摩った。

そんな二人を目に留めながら、住職は目の前の一人の若者を示して口を開いた。
「実はこの者、ミョンハク様の血筋の者でして」

ウンスが驚いた面持ちで顔を上げた。
「やっぱり。どこか似てると思ってたの」

それを聞き、若者は自分の方こそ驚いたという顔でウンスを見つめた。
「高祖父の兄上様をご存知なのですか?」

「いえ、えっと…」

「信じ難いが…やはり貴方様はこの寺の言い伝えにある天女様なのでしょうか」
邪気の無い目で聞いてくる。

…何と言えば良いのだろうか。
一切聞かれぬのも落ち着かないが、かと言っていざ聞かれると返答に困る。

住職が静かに微笑み、口を開いた。
「申し訳ありません。若いせいかいささか好奇心が強いようです。
これウンギュ、夕餉の準備が整ったようじゃ。部屋へ用意して差し上げなさい」


ヨンの部屋に膳が二つ用意され、ウンスもそこで共に食事を取る事となった。

向かい合わせに座り箸を手に取ると、ヨンが口に米を放り込みながらじっとウンスを見ている。
汁を飲む時でさえ、目を離さない。

「…そんなに見ないでもらえません?」
ウンスが困った様子で笑って告げると

「ああ、すみません」
そう言って、しかし視線を離し難いという風にウンスをまじまじと見つめてくる。

「ちょっと、食べ辛いじゃない」
ウンスが頬を膨らますと、ヨンは少しだけ笑って

「随分と、痩せましたね」
と、憂う瞳をウンスへ向けた。

「そう?元々この辺が気になってたから、今ぐらいが丁度いいかなって思ってるんだけど」
とウンスは自分の腰周りの辺りを摩った。
「この一年、毎日粗食中の粗食だったから。今のこのお寺の献立すらご馳走に感じるわ」
口一杯に煮物を頬張ると、すぐにもとに戻っちゃうかも。と、ふふと笑った。

「それに髪も」

「ああ、これはカラーとパーマがすっかり落ちちゃっただけ」

「以前にもその天界語は聞きましたが…」

「前にも言ったでしょ?ただのお洒落。地上に染まったせいで色が変わってきた訳じゃないって」

「ですが…」

「こっちが生まれつきの色なんだけど…変?前みたいにもう少し赤い方がいいかな」

「いえ、俺は好きです」
その髪の色が。
と、続けるヨンの熱い視線にウンスは堪らなくなり、再び口を開いた。

「それにしてもこのお寺、修繕したとはいえ雰囲気はそっくりそのままだわ」

「…古いが元々頑丈な造りだったので、柱などは当時のままの物もあります」

「そうなの…本当に不思議。ついこの間まで一緒に居た人達が、百年も前の人だなんて…」
しかも一年程かと思っていた時の流れが、チェ・ヨンにとって四年の歳月が流れていたという。
ウンスは遠くを見るように再び想いを馳せたが、ヨンの案ずるような視線を感じて話題を変えた。

「それより、近衛のみんなは元気そうだったわね?テマン君やチュンソクさんに、トクマン君。
トルベさんは見かけなかったけど…」

「…ええ。数人、近衛の中にも戦いで命を落とした者もいましたが…みな元気です」

最後にトルベがキ・チョルの内攻に倒れたことはウンスには知らせぬまま、離れてしまった。
あの時は、共に都に帰り着いたら打ち明けるつもりだったのだ。
ヨンはウンスから視線を離し、目を伏せた。

ウンスはヨンの様子を見て、きっとチュソクとその部下達の事が過ぎったのだろうと考えた。
「そう…。」
とだけ言い、それ以上は聞かなくなった。


ウンギュが頃合いを見て、膳を下げにやって来た。
「湯浴みの準備ができましたのでどうぞ」と言って、下がっていく。

ヨンが「先に行ってください」と告げる。
ウンスがこの地へ戻った折にはこの寺で世話になるやも知れぬと見越して
ヨンは寺を補修する際、一つだけ注文を出した。
湯浴み用に、大きな湯船を作って欲しいと。

「…じゃあ私、先に入っちゃうね?」

「はい」

ウンスが部屋を出て扉を閉めるその時まで、ヨンはそれを追うようにじっと見据えていた。