<番外編>回想〜繋ぐ糸④ | 信の虹 ー신의 nijiー

信の虹 ー신의 nijiー

ここは韓国ドラマ「信義」の登場人物をお借りして楽しんでいる個人の趣味の場です。
主に二次小説がメインです。ちま(画像)の世界も大好きです。
もしも私個人の空想の産物に共感してくださる方がいらっしゃったら、
どうぞお付き合いください^ ^


一年の最後の日だからと言って、特別な日だなどと思ったことは殆ど無かった。
少なくとも父上が逝き、屋敷を出てからは一度も無いだろう。

しかし、「今日は最後の日だから」「一年の終わりだから」などと、何かにつけてそれを言う、目の前の人を見ていると、なんだか特別な日のような気がして来る。

ヨンは屋敷に飾られた二つの婚礼の衣装に目を移しながら、祝言の事、江華島での誓い、自分の横で凛と佇むウンスの艶やかな花嫁姿を思い出していた。

ただ、あの"どれす"という衣装の、真っ白なまるで喪服か罪人のような色はさておき、深く開いた胸元に、申し訳程度の短い袖、そこから露わになった白い腕には面喰らったが。あれは誰にも見せられない。
あの場に居たのが自分だけで良かったと、心の底から安堵した。
光沢のある白い綿雪を思わせる衣に、外からの陽の光が反射して、その美しさと艶かしさが一層目に眩しく、
ヨン自身ですらも、まともにウンスの姿を直視する事が出来なかった。


「んっ、美味しい。あなたもどう?私今この桃色の、食べてみたんだけど。」
こっちの鶯色の菓子はどんな味だろうか。と、目の前の新妻は土産の包みを広げ、美味そうに茶をすすっている。

「あなたは本当に、、。」全く。女人のくせに雰囲気ってものが無い。
「何?食べないなら貰っちゃうわよ。」
「あなたは本当に、」あの艶姿、天女の様に麗しかった。と、言おうとしたが、
「たくましくなりました。」つい口が滑った。
「何よそれ、婚儀の前にも言ってなかった?失礼ね。
、、いいわよ。自分でもあなたと離れて過ごした間に、少し強くなれた気がするもの。」

それにね。と、ウンスも滑らかな真紅と、柔らかな純白の衣装に目をやった後、
「花嫁衣装は戦闘服ってね。言うじゃない。」と、わかる?という顔をしてヨンを見た。

何を言っているのかさっぱり理解出来ぬという顔をしたヨンに構わず、ウンスは
このセリフ、本で読んだんだっけ。それともドラマだったかな。と呟いた。

「だからつまり、改めて腹をくくったってこと。ここで一生あなたと生きていくんだって、ね。」



「あら、今年最後のお月様は少し太った半月ね。」
ウンスは屋敷の中庭に出ると口から白い息を吐き出した。
「またそんな格好で。ほら。」
とヨンは後ろからウンスの肩に上着をかける。

「こんな寒い日は、のんびり湯浴みして温かいお湯に浸かりたいわよね。
一年の垢を流すって意味でも。」
あ、お風呂と言えばさ、と、ウンスはヨンと離れていた間に暮らした、寺での出来事を話し出した。

「冬はさすがにお湯を沸かしてくれたんだけどね。夏はみんな川で身を清めるって言うから、私一人の為にお風呂の用意させられないじゃない。」

「まさか、、一緒に行水でもしたのですか。」ヨンが目を見開く。

「しないわよ。でも一人だと怖いから、見張りをつけてね。」

「見張りとは。」

「ほら、前に話した男の子。いつも護衛してるみたいについて来てくれてね。」
ウンスは懐かしそうに笑った。

「まっさか私が川でお風呂に入るなんてね。考えられなかったけど、郷に入れば郷に従えってもんで、人間って慣れれば何でも出来るようになるのね。ホント、たくましくなったわ。」

子供とは言え、男に見張りをさせるとは、、。
ヨンは苛立ちながらも呆れた顔で溜息をついた。
そういえば前に、ウンスが世話になった寺の住職が随分と若かった事が、
ずっと気にかかっていた。なかなかきっかけも無く聞けずにいたが、、。
寺に伝わる、その住職が書いたという書状。
ウンスへの感謝の念だけではなく、もっと他の、特別な感情が込められていた気がする。
たった一年、村人が世話になったというだけで、あそこまで熱を込めた文筆をするだろうか。

「全くあなたは危なっかしい。よく無事で戻ってこれましたね。
誰かが盗み見でもしてたらどうするんです。
それに、、俺が居ぬ間に、誰かに言い寄られて、その気になったりしてなかったでしょうね。」
わざと冗談の素振りをしながら、ウンスの瞳を探った。

「何よ。私はこう見えても結構お堅い方なんだから。独りぼっちで淋しい時に言い寄られても、全っ然なびかなかったんだから。」
ウンスは胸を張って、偉そうに答えた。

、、言い寄られた?
「やはり、その坊主にですか。」

ヨンの目の色が変わる。と同時に、すっかり葉が落ちたはずの庭の木々達が、ざわついた。