国道9号線は鳥取市内を抜けるとすぐにトンネルがあり、この辺りから山間部に入る。
蒲生峠の長いトンネルの先は兵庫県新温泉町だ。
この次は香美町。
聞きなれない名前であるが、山陰海岸の香住町と山間部の村岡町が合併してできたようだ。
広い域内を持つかなり大胆な大合併だ。
国道9号線が深い山間の中、道の駅『ハチ北』に達する直前に、右側の窓から見える以前より気になっていた場所があった。
谷筋に沿った低い山並みの列が、少し切り開かれ、その向こうに棚田ができている。
国道から見れば180度のパノラマ風景を見ているような感じがする。
いつかここに行ってみたいと思っていたが、今回は時間があったので、車で登ってみることにした。
道は国道から外れ急な坂を川まで降りる。
そこで橋を渡り、川向うの村落の中を走る。
ここは香美町村岡区黒田地区。
狭く曲がりくねった道を登っていくと、棚田の中ほどに達した。
道も狭くなり、坂も急になった。
もうやめよう。
さらにこの上に行くことは冒険となる。
かなり危険な予感がした。
道が行き止まりなら、引き返すのが難しい。
急坂でのバックはスリルだけはある。
車が大きいので、脱輪の危険もある。
地元の人は軽の農業用のトラックで登っていくので、簡単に登れるだろうが、この車では無理だと判断した。
振り返って、今度は棚田の中腹から下のほうを見てみた。
向こうに国道9号線を行くトラックが見える。
その背後にも少し棚田があるようだ。
こちら側からは特に変哲もない風景である。
少し道を変えて、川沿いからもう少し大きな道を上のほうに向かってみた。
そうしたらそこは高原状の平地となっていた。
牧場などによくあるが、丘の山頂まで来たらその後ろは平らな土地が続くという地形だ。
もうだいぶ色づきかけた田んぼの向こうにはまた棚田があった。
棚田は今はブームになっている。
日本の美しい田園風景。
山里の村などのキーワードで写真集なども発売されている。
少し前までは見向きもされなかったが、もうある程度行き場所もなくなった観光客が、あるいはカメラ好きな人が、また観光旅行業者、ふるさと再生の地方行政当局などが新たな観光資源として発掘したものである。
古城、城跡、地方グルメ、鉄橋、寺、桜、紅葉、山里の温泉など探ればいくらでも見つけられる。
この関係では蒸気機関車が伝統的な対象物であったが、今ではもうなくなったので沈静化し、それに代わるものが続々と出てきた。
これも車とデジタルカメラのなすわざか。
趣味や観光の分野も段々と細密化、特化、マニア化していっている。
私自身は今の所、地産品、地方グルメ、棚田、傾斜地村落、天然水である。
この場所の背後には山頂までスキーリフトつながるハチ北高原スキー場が一望できる。
ハチ北の近くには別の鉢伏山スキー場があり、全部合わせると結構な規模になる。
雪質を特に問題にしなければ関西方面からはここが一番近い。
長野県方面へ行く高速道路ができる以前は、ここが関西スキーヤーのメッカだった。
それにしても電線邪魔だ。
景色を取るときに電線をいかに避けようかといつも悩む。
電線を消すソフトがあるそうだ。
ハチ北道の駅にも行ってみた。
この掲示板より、この辺り全体は通称兎塚で、行政的にはここが村岡区福岡、あるいは黒田だということが分かった。
なお兎塚の地名の由来には大蛇退治の邪魔をする兎退治の伝説があるようだ。
地図で紹介されているものには、棚田、古城跡、古墳、地蔵、古神社などがのっていた。
地方には探し出せば古いものはいくらでも出てくる。
左上の兎塚探訪マップの下の説明文の中にこんな言葉があった。
『ようこんさった。ごゆっくりしていきなはれ。』。
これは中国地方の方言ではないか。
それも因幡国、鳥取の言葉と似ている。
ここは兵庫県なのに関西弁ではない。
但馬地方の言葉は中国地方の方言であったとは新発見だ。
道の駅の中のベンチで二人の中年の女性が話をしていた。
聞こえてくるので、よく耳を澄ますと、それは完全にアクセントが関西弁ではない。
私と同じ中国地方のイントネーションだ。
明治時代に一時期、但馬地方は豊岡県として独立したこともあったそうだ。
しかし山越えにはなるが神戸のある兵庫県と一緒になったほうが良いだろうということは、財政面などからそういえる。
財政難の鳥取県と一緒になるよりかはそちらの方が良いだろう。
そしてさらにこの地域の車のナンバーは、姫路ナンバーだ。







