野良猫の矜持。

テーマ:
 むかし、白黒模様のネコがいました。
 ちょうど目元に仮面を付けたような感じだったので、夫が洋画の怪傑ゾロにちなんで『ゾロ』とつけました。
 彼女は野良猫で、近所のスーパーを根城にしており、買い物客を始め近所のネコ好きに大変可愛がられていました。
 人なつっこく、話しかけると控えめなか細い声で必ず答え、幼児の乱暴な手で撫でられても怒ることなく、どんなにお腹を空かせてもスーパーの中に乱入することはほとんどありません。
 中にはこっそり食べ物をやっていたファンが幾人もいて、一時期はそれを目当てにたくさんのネコが住み着いてしまいとうとう苦情が出たらしく、彼らは手分けして人慣れしている若い猫たちのもらい手を探したりもしていたようです。
 ただし。
 ゾロはあくまでも地域猫だったので。
 いや、看板猫と言っても良い存在でした。
 彼女が誰かの猫になる事は御法度。
 そんな暗黙の了解があったような気がします。
 しかし、野良猫の生活は厳しいもので、数年後には身体がどんどんボロボロになっていきました。
 正直なところ、触れることをためらうほどにすっかり薄汚れてしまい、彼女の寿命がもう尽きかけていることを誰もが感じていました。
 毛づやがなくなり、げっそりと痩せたゾロはある日、スーパーの入り口近くにちょこんと座りました。
 体調を崩して場所を選ばず道ばたでついつい下痢をするようになった彼女が、目立つ場所に出るのはその頃としては珍しいことでした。
 背筋を伸ばして、通り人々をじっくりと見つめるその目を、私は忘れません。
 それが、彼女を見た、最後でした。
 毎日の世話をしていた猫おばさんも、その周辺の掃除を請け負っていた業者の人も、彼女をしばらく捜しましたが見つけられませんでした。
 ゾロは、旅立ったのです。
 私達に、別れを告げて。
 言葉は通じないけれど。
 あれが、彼女なりのさよならだったのだと、信じています。

 前置きが長くなりましたが。
 そのような経緯があるので、ちょっとした話に涙ぐんでしまうことがあります。
 それは多分、作者の意図したことではなく、私の勝手な思い入れです。

 『ねこのなまえ』 いとうひろし作。

ねこのなまえ/徳間書店
¥1,404
Amazon.co.jp


 さっちゃんという女の子が散歩をしていると野良猫に出会います。
 その猫が言うのです。
 『ぼくに名前をつけてください』と。
 生まれた時から野良猫で、名前がなく、ほんとうの名前が欲しいという猫。
 さっちゃんは変なことになったなと思いつつも、話しているうちに名前って大切なんだなと思うようになります。

 ここからネタバレになるのはご容赦ください。
 さっちゃんは色々考えた末に、名前を付けました。
 猫はそのいわれを聞いて納得し、とても喜びました。
 お礼を言って草むらに去りかけた猫はまたすぐ顔を出してさっちゃんに言います。
 『さっちゃん、おねがいです。もういっかい、ぼくのなまえをよんでくれませんか』
 『ええ、なんどでもよんであげる。しっぽ』
 『はい』
 『しっぽ』
 『はい』
 『しっぽ』
 『はい』
 さっちゃんは何度も何度も呼んで、猫は何度も何度も嬉しそうに答えながらやがて消えていきます。

 猫は、「かぞくにしてください」とは言いませんでした。
 ただ、「なまえをつけてください」。
 そして、二度と会うことがないだろう二人の、奇蹟の会話。
 多くを望まないこの猫の心意気がどうしても切なくて、つい、鼻の奥がつんと痛くなります。
 
 いとうひろしさんは、きっとそんなこと意図されたのではなく、名前の大切さを語りたかったのだと思いますが・・・。
 つい、身近な猫のの悟りきった最後の瞳と重ね合わせてしまい、違う風景を見てしまうのです。

 ゾロ、と私達は呼んだけど。
 あなたのほんとうの名前はなんだったのかな。
 今でも、私達はあなたが大好きです。
 今でも、あなたに、会いたい。






AD
 紹介したい本が目白押しで、どれにしようか迷うところです。
 とりあえずクリスマスが近いということで今日はこちら(随分失礼な選択だな・・・)。

 『ルッキオトフリフリ はじめてのクリスマス』です。

ルッキオとフリフリ はじめてのクリスマス (講談社の創作絵本)/講談社
¥1,404
Amazon.co.jp



 夏に出た『ルッキオトフリフリ おおきなスイカ』の続編です。


ルッキオとフリフリ おおきなスイカ (講談社の創作絵本)/講談社
¥1,404
Amazon.co.jp


 帯の背は相変わらず『マグロが憧れ』ですよ。
 愛か掘らず貧乏な生活をしている、黒猫のルッキオとブチ猫フリフリ。
 オープニングだってこうですよ。
 『ルッキオと、フリフリは、きょうも おなかが ぺこぺこです。』
 ・・・切ない。
 腹ぺこの二人はお屋敷暮らしの猫から聞いた『ネコカン』の話にうっとりです。
 『マグロ・・・ネコカン・・・どんなあじだろう・・』
 そんな二人は大家さんにネズミ取りの仕事をもらってなんとか生活しています。
 御用聞きに行くと、仕事はなかったけれど、クリスマスツリーを初めて見た上にサンタさんの存在を教えてもらいました。
 さらになんと、お菓子を入れたくつしたまでくれたのです。
 帰り道に海辺で松の枝を折り、貝殻を拾ってオリジナルのクリスマスツリーを作る二人。
 とても立派なクリスマスツリーが出来たとワクワクしながら眠りに就きます。
 ところが。
 翌朝、小生意気な少年がやってきて、ネズミ取りの依頼をします。
 そして、『こんなへんなき、クリスマスツリーじゃないよ。それにサンタさんは ネコになんかプレゼントくれないよ』と、はきすてられ、しょんぼり。
 せっかくのツリーが恥ずかしくなって外に出してしまいました。
 その後、その男の子の家でくたくたになるまでネズミ取りに精を出し、掴まえたネズミを明日のごちそうにしようなといいながら帰り着き、ぐっすり眠ってしまいます。
 そうして二人が迎えたクリスマスの朝は・・・。
 ステキな二人には、ステキな朝が待っている、ステキなお話しです。
 今回は青が基調のどこか日本的な絵に仕上がっていて、普通のクリスマスを題材とした絵本と一線を画すかなと思います。
 迫力の点では一作目のスイカに正直劣りますが、友人はこちらの方が好きだと言いました。
 確かに読み返すと二人の善い部分がたくさん出ていて、愛着もわきます。
 前回はどちらかというと皮算用、今度は地道なお話しなんですよね。
 そして、相変わらずの貧乏ぶりと生活臭。
 でも、海辺の宝物で飾ったツリーは芸術的で、素敵だと思いますよ。
 読み聞かせクリスマス絵本の列の中にこの子たちを加えても良いのではないかと思います。
 たとえば、『子うさぎましろのお話』に飽きたクリスマス会の子供たちに如何でしょう(笑)。


子うさぎましろのお話 (おはなし名作絵本 3)/佐々木 たづ
¥1,080
Amazon.co.jp


 そういえば、フリフリはこの写真集のネコに似ています。
 『平太』。

平太―なにわのぶちゃいどる猫/ばん ひろみ
¥1,543
Amazon.co.jp


 黒猫ルッキオは毛並みが全く違うけれど、くるねこ大和さんの黒猫ぼんにいに、どことなく似てますね。

くるねこ/くるねこ大和
¥1,080
Amazon.co.jp


 猫が好きな方ならば、本棚に加えたくなる絵本です。






AD