闇も光も。

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 夏休みも残りわずか。
 宿題の処遇に頭を悩ませるのも、あと僅かですね。
 夏休みの宿題と言えば、福岡は必ず、戦争と平和に関する事をまとめてくるようにという課題を出すようです。
 おそらく一部はネットに頼ることもあるでしょうが、本から、というのが主流ではないかと思います。

 この時、『出来ることなら、残酷な場面無いものを』というのが親御さんの要望だったりします。
 なんとなく、女親なら男児、男親なら女児の時がとくにつよいような・・・。
 統計を取ったわけではないので確かなことではありませんが。
 子どもに綺麗な世界しか見せたくないというのは、誰でも願うことと思うのですが・・・。
 物事の判断力を付けるためには、そうでないものも存在すること、そして、それはけっして遠い世界でないことを知る権利を阻んではならない、とも思います。

 昔のことなのですが・・・。
 知人に、『今の絵本会のスタンダードは、残酷な描写や不届きな言葉や絵を排除することだ』とこんこんと解かれたことがあります。
 彼女の親族がその運動をされていたのかな、それがとにかく当たり前で、私が『ありこのおつかい』の話で「このとんちき!!」などと罵るシーンを面白かったと語ると、そんな汚い言葉を喜ぶなんて不謹慎のなにものでもない、と、激怒されました。


ありこのおつかい (日本傑作絵本シリーズ)/福音館書店
¥1,365
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 その頃は私も本の世界から遠ざかっていたので、そうなのか、窮屈な風潮だなとぼんやりげんなりしただけでしたが、たしかに、昔話の改変されたものが、新しい版のものだと存在するのですね。

 それに対し、色濃い闇をきちんと描き上げた作品の一つが、田島征三の『かちかちやま』だと思います。
 表紙は、有名なやけどの場面。
 それにしても、この絵を見て狸だと思う人はどのくらいいるのでしょうか。
 どうみてもモノノケだとしか思えません。
 田島さんの絵はもともと、誰にも真似できない独創的な筆遣いです。
 それでも、この狸は、狸という枠を遙かに超えている気がするのです。
 なぜなら、彼の根性曲がりと極悪非道ぶりは、田島さんの絵だけではなく、文章の中にもおどろおどろしく表現され、救いがない悪党として描かれているので。
 真面目に働くものを揶揄して、傷つけて、つきまとい、不幸のどん底に突き落とす。
 おじいさんがすっかり生きる力を失ったからこそ、ウサギが立ち上がるのです。
 代わりに敵をとってやる、と。
 可愛らしい歌を唄う、ちいさなウサギ。
 しかし、やるとなったら、狸の上をいく残虐ぶりを見せます。

かちかちやま (ミキハウスの絵本)/三起商行
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 おそらく、狸は若いオスで、ウサギは若いメス。
 そこに、狸の隙が出来るのです。
 種族は違うけれど、ちょっと異性に対するときめきのようなものがあるのかもしれない。
 だから、まんまと、何度もウサギに翻弄されるのでしょう。
 ウサギの歌に背中を押されて、じいさまはようやく粟の収穫にかかります。
 奥付のページでちいさなしあわせを分け合う、じいさまとウサギの絵がほんわかとしていて、悲しい結末ではあるけれど、これで良かったんだと思わせてくれます。


 歌の読みかわしをしているかのような台詞運びが、読む人を引きつける不思議な本。
 「かちかちやま」を読むなら、いつか必ずこれを手にとって欲しいと思います。


 ところで、同じくお薦めなんだけど、敬遠されがちな本がもう一冊あります。


 

猫は生きている (理論社のカラー版愛蔵本)/理論社
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 東京大空襲の話です。
 私が子どもの頃は、戦争の本と言ったらこれ、という感じだったのですが、今はそうでもないような。
 爆撃されると、どんなことになるのかをきっちり描き込まれた作品です。
 火の海の中、人が次々と倒れ、行き場を失い、戦争とは何の関わりもない普通の母親も、子どもも死んでいくのが戦争なのだと、人は知っておく必要があると思います。
 人々は死に、焼け野原になった東京で、猫たちだけが生きている。
 一度戦争を始めたら、いつそうなるのかは解らない。
 戦争とは、どんな理由があるにしろ、あらゆるものをなぎ倒し、死体の山を築くだけなのだということを教えるための本でもあります。


 だけど、絵のインパクトの強さで避けられる本の一つです。
 たとえトラウマになったとしても、そこは、避けるべきではないような気がするのですが、こればかりはどうにもなりません。
 それでも。
 一人でも多くの人に読んで貰いたい本です。


 辛さも、悲しさも、目を覆うばかりの惨状も。
 全て、きちんと、受け止めて欲しい。
 そう願っています。


 家族を守りたいなら、武器を持って立ち上がるのではなく、戦争を避けるために、ありったけの知恵を絞れ。


 そんな私は、まだまだ世間知らずなのでしょうか。







 

 

 

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ペットもいろいろ。

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とっくの昔に取り上げたつもりだった絵本が、実はまだだったことに気が付いたので紹介します。

『ぼくのサイ』  ジョン・エイジー

ぼくのサイ/光村教育図書
¥1,470
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多分、ジョン・エイジーは初見・・・のつもりだったのですが、他に彼が携わった本の題名を検索したら、もしかしたら手に取ったことあるかもなあと今更思い、とりあえず他の作品をがーっと手配しています。
問題は、それについて論じる暇があるかどうかなんだけど・・・。
この間、がーっとかりたアイリーン・ハースの絵本についても、まだ書いていない・・・。
さすが、夏休みの宿題を踏み倒す女です。
(告白します。高校の時に夏休みの宿題を踏み倒しました。あの時はごめんなさい。ツケはたっぷりオトナになってから払いました・・と言うか、今も利子を払っているような気がしてならない)

ちなみに、モーリス・センダックがこの絵本を読んで『傑作』と評したとか・・・。


センダックと言えば、『かいじゅうたちのいるところ』ですね。

かいじゅうたちのいるところ/冨山房
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しかし、私は彼の挿絵の『あなはほるものおっこちるとこ』が一番印象に残っています。
ほんわかと可愛いのです。

あなはほるもの おっこちるとこ―ちいちゃいこどもたちのせつめい (岩波の子どもの本)/岩波書店
¥882
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話がを『ぼくのサイ』に戻しましょう。
出だしとしてはこうです。
『ぼく』が、「かわったペットのみせ」へ行き、サイを連れて帰ります。
私の記憶が確かならば、ショーウィンドウにいたのはカバだったような気がするのですが、いま手元に絵本がないので確認が出来ません。
そして、サイを庭に繋いで飼い始めるのですが、おとなしすぎてつまらない。
専門家を呼ぶと「なにかもんだいでも?」と逆に問われる。
問題行動すら起こさないからつまらないんだと答えると、「サイは、風船を割る、たこに穴をあける、ふたつのことしかしない」とだけ言われた。
しかし、いざ公園に連れて行って、風船や凧を見せても、なにもしない。

コイツはさいていだ。
カバにすれば良かった

(何故、ここでカバ?と首をかしげたのですが、おそらく前述の通り、看板商品はカバだったのでは・・・と)
そう、心の中でののしっていたら、ハプニングが起きて・・・。
ハッピーエンドになります。
何よりもこの本で気に入ったのは、最後の一行です。
これが何よりもパンチがきいているのと言うか、なんというか。
うまい!!と、思いました。
子どもにはどうかな。
楽しんでもらえるかな。

このサイはどうやら最初からオトナのサイ。
欧米では子猫や子犬の取引を禁じているところがあるので、それがスタンダードなのかなと推測したりしました。
日本だと、今はミドリガメなどがトラブルの元になっていますよね。
ミニブタがぜんぜんミニじゃなくなったとか・・・。
それに似たテーマで、日本の絵本なら、たしかウリ坊だった頃は家族に物凄く可愛がられていたのに、大きくなるとはじき出されたイノシシが傷ついて大暴れする話があります。
「ぼくのサイ」はそれとはまったく違う展開を見せ、私としてはこのナンセンスさ加減がものすごくツボでした。

一目惚れで連れて帰ったものの、おとなしくてはずかしがりやのサイをもてあます主人公。
こんなんじゃなかった。
がっかりだ。
・・・って、ひどい言いようだなと思いますが、人間なんてそんなもの。
これって、何にでも当てはまりますよね。
ペット然り。
友人、恋人、仕事・・・。
何事も付き合ってみないと、短所も長所も解らないのです。
願わくは、何事も、この絵本のように楽しい展開になりますように。






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 今の住まいへ転居しておよそ2年になります。
 部屋全体が前より狭くなったのですが、なかでも台所を狭く感じます。
 対して変わらない筈なんだけど、結婚以来長いこと馴染んできた前の台所への愛着が意外と強いのだと痛感しますが・・・。
 それを理由に料理が手抜きになるのはいけなことだと反省しています。
 コンパクトになってしまっても、それで全く料理が出来ないわけではない。
 知恵を絞って、それを楽しまないと色々な意味で損しているのだと己に説教しますが・・・。
 怠惰なもう一人の自分が布団に潜り込んで「・・・夏が終わったらな」と答える。
 ・・・分裂気味です。


 ところで、先月、銀座教文堂ナルニア国へ立ち寄った折に、絶版になる事を知って購入した絵本がこれです。
 『わたしのおふね マギーB』。 アイリーン・ハース作。


わたしのおふねマギーB (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)/福音館書店
¥1,365
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 実家に1冊ありますが、自分の手元に欲しくなり、購入してえっちらおっちら福岡まで持ち帰りました、ホフマンの『しあわせハンス』とともに。
 ・・・たかが絵本2冊とお思いでしょうが、絵本って、意外と重いのですよ。
 ハードカバーの本を私が持ち歩かないせいか、大変重く感じます。
 それはきっと、若い頃は皮の大きなバッグを持っていて平気だったのに、今は布製の軽い物しか持てないのと同じ事なのかもしれませんが・・・。
 
 話を戻して『わたしのおふね マギーB』について。

 (今回はかなり詳しく書きますので、ネタバレがお嫌いな方は回れ右して下さいね)

 この、表紙の絵が、物語の全てです。

 小さな船に、主人公のマーガレットと、にわとりとひよこと、ヤギとオオハシとリンゴと桃とオレンジの木、そして、可愛い弟のジェームス。
 ノアの方舟のコンパクト版とも言えるかもしれません。
 ある晩、マーガレットが星に願ったことが、翌朝目を覚ますと実現していたことにより始まる物語。
 夢、のわりにはとても現実的な、それでいて本当に夢でしかあり得ない素敵な一日。

 オレンジをもいで朝ご飯にして、
 船内と船外を掃除して、
 リンゴの木の下でピクニックランチ。
 船の上にある小さな畑の野菜を収穫して、
 魚とエビを捕り、
 それを小さなキッチンでブイヤベースを仕込みます。
 鍋をオーブンにかけている間、
 上の畑の木陰で弟は昼寝、
 マーガレットは弟をスケッチ。
 目を覚ましたらおやつ。
 
 もちろん、航海をしているからには嵐にも遭います。

 しかし、マーガレットは冷静に判断して船を操り、
 船内へ戻ると、
 マフィンを焼いて、
 桃のデザートを作り、
 ジェームスを暖かいタオルで綺麗にしてあげて
 静かな晩ご飯。
 外は荒れ狂っていても、
 船はびくともせず。
 やがて穏やかな夜を迎えます。

 この小さな船は、まるでメアリー・ポピンズのバッグのように無敵の収納力を誇ります。
 もちろん、リンゴと桃とオレンジが同じ季節に収穫できることも、動物たちも小さな弟も船の上で大人しくしているなんて不可能だと、子供心に(すれていたので・・・)思いましたが・・・。
 どこかにあるんじゃないか、こんな船がと、思わずにはいられないのです。
 何よりも、マーガレットの家事能力の素晴らしいこと。
 ブイヤベースもマフィンも桃のオーブン焼きも、クッキーもミルクもオレンジも・・・。
 全て美味しそうなのです。
 小さな台所でくるくると働いて、魔法のような料理をジェームズに提供するお姉さん。
 初めて読んだ時私は、、マーガレットに憧れる、と言うより、弟になりたかったような気がします。
 ページをめくる度に、旅に出たくなるのか、美味しいご飯が食べたくなるのか、はたまた素敵なお姉さんが欲しくなるのか、混乱してくるのが悩みどころでしょうか。

 児童文学の中で、美味しそうな料理が出てくる本ほど魅力的な物はないでしょう。
 とくに、この絵本の色使いの美しさは、本当に夢のようで。
 見開きで、カラーとモノクロの挿絵が交互に展開し、ハースさんの色彩を堪能したい私としては、全部カラーでないことがちょっと残念なのですが、それは浮き立つ部分をちょっと控えめに押さえるという効果がある・・・のでしょうか。
 ・・・単に予算上だったらどうしよう(つい、算盤勘定が覗いてしまうのが、オトナの悲しいところ)。
 

 また復刻して下さいね、福音館さん。
 そして、その折には是非、あなたの心の本棚へ。






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