おおらかなひとたち。

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 季節の変わり目なのか、体調がよくなくて、今日は一日中うとうとしていました。
 家の中には絵本たちが出番を待って私を催促しています・・・。
 はやく、はやくオレを紹介しろと。

 そんなわけで、一番うるさかった絵本から紹介します。
 子供にオススメの絵本としてはたいてい名前の挙がる作品。
 『おちゃのじかんに きた とら』。

おちゃのじかんにきたとら/童話館出版
¥1,470
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 この、まるでオレンジ色のローブを着たようにでろんと大柄で、なぜかしつかり切れ長二重まぶたのトラと、素敵な服を着て興味津々の目をした可愛らしい女の子が目印です。
 
 話としてはこのようなあらすじです。
 ある日、小さな女の子、ソフィーとお母さんが台所でお茶の時間にしようとすると、玄関のチャイムが鳴る。
 ドアを開けてみるとそこには、大きなトラが!!
 トラが礼儀正しく「お茶の時間にご一緒させて下さい」と言うので、お母さんは「もちろんいいですよ」と答える。
 ・・・なんて肝の太いお母さんでしょう。
 そこで、二人と一匹はテーブルに着きます。
 和やかな雰囲気で始まったお茶の時間ですが、前もってトラが「とてもおなかがすいている」と予告した意味がはっきりするのはこれからでした。
 トラは差し出されたサンドイッチもパンもケーキもお茶もあっという間に丸呑みに。
 それだけでは足りなくて、台所にある食品から水に至るまで食べ尽くしてしまいます。
 お腹が満たされて満足したトラはきちんとお礼を言って、紳士的においとましました。
 しかし、残された二人は困惑します。
 夕ご飯もなくなってしまったし、水がなくてお風呂も入れない。
 そんななか、お父さんが帰ってきて話を聞き、三人で夜の町に繰り出してレストランで食事をして楽しく過ごしました。
 翌朝、ソフィーとお母さんはたくさん食料を買い込み、今度いつトラがやってきても良いようにそなえて話が終わります。
 この絵本の面白いところは、トラが何をしても二人は動じず、むしろ楽しんでいるところです。
 お母さんはもちろん言わずもがな。
 ソフィーに至っては戸棚をあさっているさまを座ってじっと観察したり、水道の蛇口で夢中になってがぶがぶ飲んでいるトラの尻尾に頬ずりしたりと、この母親にしてこの子ありと言った様子です。
 ヨーロッパの昔話は、『オテサーネク』などのようにお腹を空かせた何かが次々とあるものを丸呑みにして、最後には近くにいる人間も手当たり次第に・・・と言うタイプが多いのですが、この絵本はそれを覆し、台所を食べ尽くしたら『素敵な時間をありがとう』と礼を言う。
 そこが一番面白いと思います。
 食べ尽くされて、二度と来るなと怒ることなく、ただ困惑するだけのお母さん。
 そもそも、すんなり受け入れるあたりが若さを感じます。
 ・・・きっと、今の私よりずっと若いわ、この人、といらぬ推測すらしてしまいます。
 とてもおおらかで、柔軟で・・・。
 こんな人たちだからこそ、時には予想だにしない素敵な時間がやってくるのかなと思うのです。
 素敵な時間は、きっと一度きり。
 だからこそ楽しい。
 でも、またいつかひょっこりやってくるかも?
 そんな期待をついついしてしまう、素敵な絵本です。
 
 ここからは余談になりますが。
 作者のジュディス・カーは、ドイツナチスのユダヤ人迫害を逃れて転々とし、イギリスに辿り着いたという人です。
 そんな辛い経験がある人が、こんなおおらかな話を描く。
 呑気な母子と、自由奔放でどこか憎めないトラ。
 明るい色調とともに、その人となりを思わずにいられません。
 最近、常々思うのですが、子供の頃は何も考えずに絵本を楽しみましたが、大人になるとまた別の角度から楽しむことが出来ます。
 こういう時は、大人になって良かったなと・・・。
 絵本の力をしみじみ感じます。

 


 




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春の訪れ。

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 昨日の福岡はとんでもない暖かさで。
 子供たちの中には半袖ハーフパンツ姿が見受けられました。
 どことなく酸素がない感じで息苦しかったです。
 おかげで、それまでゆっくり花を付けたままだった黄水仙があっというまに枯れてしまいました・・・。
 毎日眺めて楽しんでいただけに残念。
 その代わり、物凄い勢いでフリージアが花芽を延ばしてきています。
 春はもうすぐ。
 いえ、一瞬だけ春が悪戯をしにやってきた感じかな。

 今回紹介する一冊は、私の住む九州のように簡単に春がやってくるような所ではなく、もう少しゆっくりゆっくり冬を過ごす土地の話。
 教育画劇の『もうすぐもうすぐ』です。
 
もうすぐもうすぐ/岡田 千晶
¥1,365
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 ・・・教育画劇というと、私の中では紙芝居を出している出版社というくくりしかなかったのですが、絵本も見たことある作品がちらほら・・・。
 まだまだ絵本に関する勉強が足りませんね。
 反省。

 更に調べてみてわかったのですが、挿絵の岡田千晶さんは2010年のポローニャ国際絵本原画展で入賞されているのですね。
 前に取り上げた今井彩乃さんやユン・ジンシルさんの入賞を思うと、審査員の中に優しい絵を好まれる方がおられるのかな、と、ちょっと思いましたがどうでしょう。
 表紙の絵のままの、とても柔らかく優しい作品です。
 話としては、うさぎ兄弟の中の末っ子ブブはまだ春を経験したことがなく、それがどんなものなのかわからない。
 お兄さん兎たちは俊敏で、高い木に登っては遠くに見える海、そして海辺の町にもう既に春が来たという。
 しかし、それが見られないことをとても悔しく思うブブ。
 ある朝、とても大きな音に目覚めたブブは一人で外に出て、大きな大きな白熊と出会い、尋ねます。
 「おじさん、はるなの?」
 白熊との短い交流と別れがほんわかと描かれて、本当に可愛らしい仕上がり。
 岡田千晶さんが挿絵をされた別の作品を一つ偶然読みましたが、優しい筆遣いはそのままにそれとはきちんと線引きされているような。
 春への期待を表すような、光に満ちた挿絵です。
 もちろん、おかだこうさんの文章も暖かく優しく、展開は夢のようでありながらうさぎの家族は今の私達の暮しに似て、誰が読んでも親しみやすいと思います。
 光の中に、未来への期待が満ちている。
 読み終わった時に、明るい気持ちにさせてくれる絵本だと思います。
 彼女たちの次の作品が楽しみです。

 ブブが、また次の冬の終わりに白熊のおじさんに会えますように。


 




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今、一番欲しい絵本たち。

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 一月の半ばに鹿児島の長島美術館へ「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展2012」を観に行った折に、心惹かれた作家さんがいます。

 それは、『いまいあやの』さん。

 本によっては『今井彩乃』さんと記されているようですね。



 まずは、表紙が印象的な『イソップ物語』から。

   

イソップ物語―13のおはなし/いまい あやの

¥1,575
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 文章は簡潔で、非常にシンプルです。

 その代わり、絵が全てを語り、さらなる想像へかき立てていく、不思議な絵本。

 まず、本は縦長なのに、絵とタイトルが横になっており、紙芝居を開く要領になっています。

 縦開きというのでしょうか。

 上の段(ページ)に劇場としての絵があり、下の段(ページ)に文章。

 しかし、下の段は文章だけではなく、上の挿絵に出てきたモチーフが一部添えられていて、上下を開いた状態で一つの話になります。

 これは膝の上に置いた宝箱を開くのに、似ているかもしれませんね。

 そして、なんと言っても彼女の作り出す独特の空間。

 丹念で可愛らしい絵なのに、どこかぽっかりとした静寂が漂っている。

 ・・・なんともアンバランスで、不思議な世界。

 もしもこの本を読み聞かせるなら、ひっそりと静かに語りたいと私は思います。

 どの絵も大変素敵ですが、今回の絵画展でポストカードになった『キツネとぶどう』と『ライオンとネズミ』が秀逸です。

 首にナプキンをつけたキツネが、フォークを片手に天井から生えているぶどうに向かってジャンプしている(そもそも部屋の天井にちょこっとぶどうが生えていること自体が不思議空間ですね)絵と、空から網にかかってぶら下がっているライオンが困惑の表情を浮かべている(遠くには新聞を読んでいるスーツ姿の男の人も・・・)絵。

 それだけでも、ちょっと手元に置いて時々めくって眺めたい気持ちにさせます。


 次に、『くつやのねこ』。


くつやのねこ/BL出版

¥1,575
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 おなじみの、『ながぐつをはいたねこ』のアレンジ版です。

 今井さんの私生活は存じませんが、猫と暮した経験がおありなのかもと、少し思いました。

 彼女の作品には動物がたくさん出てきますが、この中の猫は実に活き活きとしています。

 物凄く表情豊か。

 最初に靴屋と食い詰めて一つの缶詰を分け合って食べている時は、ちょっとしんみりと寄る辺ない表情、靴を作って貰って出かける時は物凄く得意げ、魔物を騙す時は非常に企み深く、ネズミを目の前にした時には目がらんらんと輝き・・・。

 務めを終えて満足げに横たわるその姿は、どこにでもいるただの猫。

 主人公の猫の個性と心情をこれほど雄弁に語っている絵は、なかなかお目にかかれません。

 今井さんの絵が好き理由の一つは、想像の余地を必ず残すところです。

 演出過多にしない。

 じっくりと絵を眺めて、登場人物の気持ちや状況を読者に想像する楽しさを味あわせてくれます。

 これは、最近の本作りではなかなか難しい事なのではないかと思います。

 ついつい、文章も絵もお節介に描き込みがちになってしまうと言うか・・・。

 そもそも私は猫が好きなので、この絵本に関してはその辺のバイアスがかかっている可能性はあります。

 でもですね。

 靴の素敵さと猫の愛らしさはなんとも抗えない魅力で。

 ぜひとも手元に欲しい一冊です。


 次はイソップ絵本シリーズの一端としての『いなかのネズミとまちのネズミ』。

いなかのネズミとまちのネズミ (イソップえほん 2)/岩崎書店
¥1,260
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 こちらは文章が蜂飼耳さん。

 この題材を取り扱った話では、ビアトリクス・ポターの『まちネズミのジョニーのおはなし』が秀逸だと思います。

まちねずみジョニーのおはなし (ピーターラビットの絵本 9)/福音館書店
¥735
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 しかし、蜂飼・今井組のシンプルさもなかなか良いと思うのです。

 基本的に二匹の会話がメイン。
 町でのスリルのあるシーンが絵と言葉から伝わってきます。
 ところで、田舎へ戻ったネズミがゆったりと座っている絵が最後のページにあります。
 ここに言葉がないからこそ、とても良い締めくくりだと思うのは、私だけではないでしょう。


 次は、今井さんのオリジナルに戻りまして、『チャッピィの家』。
  

チャッピィの家/BL出版
¥1,575
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 犬のチャッピィが居場所を求めてさまよう話です。
 子犬の頃は家族に可愛がられていたチャッピィは、時が経つにつれそれぞれの生活の忙しさから忘れ去られた存在に。
 そこで、彼は意を決して家出するのです。
 この話の面白いところは、チャッピィが家を抱えて家出する絵ですね。
 しかし、どこに行っても安住の地などなく。
 困り果てていたら、家族が探しに来てくれるという結末で・・・。
 よかったね、チャッピィ。
 やはり、今井さんの淡々とした文章と不思議な空間、そしてそこかしこにちりばめられた象徴的なキャラクター達が生きた素敵な本です。
 ところで夫も似たような経験をしておりまして。
 常々聞かされていただけに、ちょっと心にかかる話です。
 あ。
 誤解の無いように説明しますと、夫が居場所を求めて家出したのではなく、小学生の頃に飼っていた犬を中学生になって部活と勉強に忙しくなったところで、業を煮やした親が手放すと宣言し、最後は他県の親戚が引き取ったという話で・・・。
 当時は珍しい種類の洋犬で、ろくに手入れも出来なくて毛玉だらけになっていた可哀相な状況を、新しい家族が愛情深く迎えてくれ、幸せな余生だったそうです。
 途中で世話を放棄して申し訳ないことをしたけれど、あのまま自分のそばでろくに世話もされないまま放置されるよりかは良かったのではないかと夫は言います。
 彼がその話を良く口にするのは、その犬に対する愛情と、思い出と、罪悪感が今でも心の奥底にあるからでしょう。
 動物を飼うなら、一生を共にすることを肝に銘じることは大切です。
 しかし互いの関係がうまくいかない場合は、別の道を模索するしかないのでは、と最近は思います。
 チャッピィは元の家族の愛情を取り戻す事が出来ました。
 それは、一番幸せな結末です。
 しかし、それはなかなか得難いことなのだ・・・と、思うのは、私達がすっかり大人になってしまったから・・・なのかもしれません。

 最後に紹介するのは『108ぴきめのひつじ』です。  

108ぴきめのひつじ/文溪堂
¥1,575
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 これは、うっすらとしたクリームイエローの本。
 なにをやっても眠れない女の子がひつじを数え始めたところ、108匹目のひつじがどうにも通り過ぎることが出来ず、悪戦苦闘する話です。
 この、108匹目が出てきた段階ですでに女の子は夢の中だと思うのですが・・・。
 みそっかすのひつじのために、仲閒のひつじと女の子が色々知恵を絞り、最後にくたくたになって眠りに就く・・・のですが、最後に誇らしげに女のが毛布を掲げる場面が可愛らしいです。
 てんてんてん・・・と足跡の付いた毛布に、『ほら、夢じゃないんだからね!!』と語っているようです。
 おまけのページが更についていまして。
 見渡す限り、ひつじ、羊、ヒツジ・・・。
 眠れない時は、ここでひつじを数えるのも良いかもしれません。


 ざっと、突風のような紹介文で恐縮ですが、私の知る限りの、今井彩乃さんの現在発行されている絵本の数々です。
 それぞれ静かな空間はそのままながら、ちょっとずつ違う味わいの絵本たち。
 どれも手元に置きたい気持ちが強いのですが、今の私の本棚は飽和状態。
 いつかきっと・・・。
 きっと手に入れたいと、思います。
 まずは、本棚が課題ですよ・・・。


 


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