葬儀の後で(1971年1月 ローマ)

 



ギュンティの葬儀の後で、永山はフラナガンから家族を紹介された。
「永山君、改めて自己紹介させていただきます。私は、スクーデリア・ローマ代表のジム・フラナガンです。カリフォルニア出身のアメリカ人ですが、中国系なので、アジア系の顔に金髪というユニークな外見をしています」
「あ、永山です。どうも・・・私は・・・」
ところが、フラナガンは永山の話を遮ると、そのまま自分の家族を紹介した。その表情には(君のことは知っているよ)という意思が現れていた。口下手な永山としては、助かった、という気持ちが強かったようで、彼の顔には安堵の表情が浮かんだ。
「こちらは、妻のラウラです。彼女の一族は代々ローマに暮らしてきました。典型的なローマっ子です」
 フラナガンの妻は、彼や娘と違い黒髪で細面だった。ソフィア・ローレンを地味にしたような美人で、実際にデ・シーカの映画か何かに出てきそうな雰囲気だ。

(この娘は、どう見ても父親似だな)

と永山は思った。
「初めまして、永山さん!ラウラです!これからよろしくね!それから・・・」
 いやあ、典型的なイタリア人女性だ。語尾に必ず感嘆符が付いた。彼女はまだ話たいことがあったようだが、夫に遮られた。フラナガンに話を遮られたところは永山と同じだが、口下手な永山の顔がホッとしたのとは対照的に、ラウラは話好きなのだろう、不満そうにしていた。
「最後に、娘のアレッサンドラです」
 いよいよ、永山のお目当ての女性を紹介してもらえる。葬儀中はレッサー・パンダに似ていると思ったが、間近に見ると金髪ではあるが、むしろジャイアント・パンダに似ている。少したれた目が優しい。ま、ますます可愛い・・・
「私たちの自慢の娘で、イタリア語の他、英語、ドイツ語、中国語、それから日本語の5か国語を話すのですよ。今、日本の大学に留学しています」
娘からは、少し恥じらいが感じられる。それがますます可愛い!
「初めまして、ヒロ。アレッサンドラです」
と思ったら、いきなりファースト・ネームか!とはいえ、” h “ の音をきちんと発音してくれた!好感度はますます上がった。
「これ、アレッサンドラ。初対面の方、それも歳上の方にファースト・ネームはないでしょう」
両親は注意したが、永山は、
「いえ、うれしいです。きちんと発音してくれて」
その言葉に気をよくして、彼女は、
「今、貴方の国の千葉大学に留学しています」
な、何と自分の地元だ。永山は、完全に舞い上がった。
それ以降のことは覚えていない。気がつくと、フラナガンから、
「それじゃあ、また。今度は敬語は抜きで、ファースト・ネームで話しましょう」
ただただ、舞い上がり、幸福感で一杯の永山だった。


(続く)