「マジで危ないからね?」
「うん。分かった分かった。気をつけるよ。」
「頼むよ、ホントに。
…よし、、、じゃ、僕バイト行ってくるね。」
よいしょっ、とソファーから立ち上がり、1つ伸びをして支度を整える。
「行ってらっしゃい。」
玄関まで見送り、パタリと静かに閉められたドアを見つめる。
…潤がどんなバイトをしているかはよく知らない。
いや、えーっと…あまり詳しいことを知らないだけで、本人はアパレル販売と飲食店で働いてるって。
そう言うんだったら、そうなんだろう。
嘘つくなんて必要ないはず…だから。
結構忙しそうにしてるから、たくさんシフト詰めてる感じはする。
大学の授業終わりに…、授業が週5であるなら、週4で行ってるっぽい。
休日は2日ともシフト入れてるから、心配になる。
やっぱりお金足りてないんじゃないか、、、って。
でも、聞いても大丈夫って笑われるだけだろうし。
たまに腰さすってるから、身体とか無理してないか心配なんだよなぁ、、、
ーーー
「智さん?」
バーのカウンターでグラスを拭きながら、隣でカクテルを作っている、ここのマスターの大野智さんに話しかける。
「んー?」
慣れた手つきでグラスにウイスキーを注ぎ、ステアしている智さんはここのバーと雰囲気がピッタリ。
なんとも言えないような、、、人を寄せ付けない落ち着いたオーラを発している。
金髪にピアスに…チャラチャラしてこの場の雰囲気に浮いてるような俺とは大違い。
「ここのバー、、、って、出会い系のそういう感じですか、?」
周りに聞こえないようにこそーっと聞いてみる。
ずっと気になってたけど聞けなかったし、この前潤とそういう話をしたのを思い出したのだ。
「ふふっ、なんだよその聞き方。でもまぁ、、、そうだねぇ。」
「だって…、人入ってきたらみーんなこっそり入口見ますよね。」
「まぁ。」
「ちょっと話していい感じになったら、出てっちゃうし。…ちゃっかり腰抱いて出てく方もいますよね。」
「…よく見てんね。」
「ここもう3年目ですから。
…ん?智さんももしかしてソッチ系?」
オネエのように頬の横に手を逸らして持ってくる。
「さぁね。」
んふふと微笑む智さんは、本当にソッチなのかコッチなのかアッチ()なのか分からない。
「俺、…大学生の従兄弟に住まわせてもらってるんですけど、すぐ食われるから気をつけろって言われました。食わないでくださいよ?」
「えぇ〜?どうしよっかなぁ。」
スっと背中を撫でられる。
「ちょ、!!そんなのもうソッチ系の人がやることですよ!」
「大丈夫大丈夫。学生は食わないよ。」
「えっ?てことは…ソッチ系?」
「…さぁ?」
「んだよぉ、、、もう、、、、、」
ぜんっぜん分かんねー。
このマスター。
「というか、従兄弟と同居してるんだね。珍しい。」
「あっ、はい。まぁ、、、色々ありまして。」
「…あ、あんま触れちゃいけない感じ?」
「別にいいですよ。話せば長くなりますけど。」
「……苦労してんね。若いのに。」
「頑張ってます。でも、すっごい幸せです。」
「だよね。だって翔くん見てたら苦労してる風に見えないもん。」
「もうすごい、、、優しくて、かわ、いくて。」
「へぇ、可愛いんだ。」
…初めて口に出した。
潤のこと、"可愛い"って。