漸近線(ぜんきんせん)て、多くの皆さんにとって耳慣れない言葉だと思います。たぶん高校3年で数学を選択した人くらいしか縁が無い言葉のはず。でも、楽器に限らず何かを上達したくて努力している人ならば、必ずこの漸近線を意識する運命なのだ(謎)

 

まず、大きな誤解を解くことから始めましょう。世の中には「努力した分だけ必ず進歩する」と考える人が、少なからず存在します。その証拠に、野球で甲子園に行けなかったり、箱根駅伝のメンバーに漏れたり、吹奏楽コンクールで銅賞取ると、「自分の努力が足りなかったせいだ」と思う人が多いよな。ならばあと半年あって、その間ひたすら練習に励めば、その分だけ本当に進歩したのだろうか?たぶんそれは違います。練習量(練習時間)と上達の関係は、一次関数になりません。漸近線はご存じなくとも、一次関数は習ったはずだよな。これ↓

つまり、「練習すればするほど上手くなる」という関係だけど、これを信じてる人は、ハッキリ言って練習足りん(笑)。面白いように進歩するのは最初のうちで、そのうち必ず「いくら練習しても変わらん。進歩が止まった~」という感覚に陥る時が来るのです。グラフの形はこんな感じ↓

これは物理で必ず登場する「終端速度」のグラフ。雨が降る時、重力で加速するんだけど、同時に空気抵抗も増していくから、加速が鈍っていって、最後は一定の速度に向かうってやつ。自転車こぐ場合も同じで、速度に比例する風の抵抗を受けるから、漕いでも漕いでも加速しないって状況になるわけだ。一次関数だと思ってる人は、「自転車は漕げば漕ぐほどいくらでも速くなって、10分も漕げば超音速」って主張するに等しいです。

 さて、上のグラフの横1本点線で描かれているのが漸近線です。なんで漸近線て名前なのかというと、どんどん近づくけど永久に超えられないからなのだ。例えば y=x/x+1 なんて関数を考えてみよう。あ、この計算、難しくないからちょっとだけご辛抱ください。

x=1のとき y=1/2 (0.5)

x=2     y=2/3   (0.666)

x=3     y=3/4  (0.75)

  ・・・・・・・・・・

x=999   y=999/1000 (0.999)

 

って感じで、yの値は限りなく1に近づくけど、絶対に1に到達することはない。そしてお気づきのように、xが1増える際のyの増分も、最初は大きいけど、どんどん狭くなっていく・・・。これって、正に練習量と上達の関係そのもの(泣)。では、この性質を知ったうえで、私たちはどう楽器や競技と向き合うのか。ここまで我慢して読んでくれた方々、ありがとうございます。ここからが重要な本題です。

 

 夏の吹奏楽コンクールに向けた練習では、往々にして「煮詰まる」という状況に陥ります。いくら練習しても進歩が実感できず、本番が近い大事な時にモチベーション激下がりって経験ありますよね。これは、既に漸近線に非常に近い所まで来てる、裏返せばよく頑張って来た証拠と言えます。ただ、残念なことに、あと何百回通しても、録音聴き返して問題個所を練習しても、変化はたかが知れています。だって、もう漸近線に近いんだからな。

 

 例えば、そこらへんの普通の中学生のバンドが、初級向けの吹奏楽曲、例えばスウェアリンジェンの「センチュリア」を4月からず~っと練習して、夏休みも毎日朝から晩まで練習したとします。その同じ曲の譜面を、全国常連例えば東海大菅生高校のバンドいきなり配って、初見で合奏させたとします。この2つの演奏を比較したら、間違いなく後者の方が上手いでしょう。それも、圧倒的な差で・・・。

 では、前者の中学生は、どうすれば良かったのでしょうか?それは、漸近線に近づくのではなく、漸近線そのものの位置を上げることなのです。上級バンドやプロ奏者との差は、ズバリ漸近線の高さにあるのだ。具体的にどうすればいいかというのは、いろいろあり過ぎて一言で説明できないけど、確実に言えるのは、90%以上が基礎練習であり、残り10%弱は、他の曲から得たヒント等。少なくとも、今取り組んでる曲の練習量を増やすことでは無い。

 

 コンクール目指す楽団ではなく、私のように個人で楽器のレッスンを受ける場合もほぼ同じことが言えます。漸近線が近づいてる兆候は容易に察知できて、まずは自身の進歩が止まったという自覚、あとはレッスンで注意されることが毎回同じ(泣)。この2つが揃ったら、もうその曲のレッスンを継続すべきではありません。そうです。曲を代えるべき時なのです。

 これは、その曲を諦めるっていうのとはちょっと違う。実際、別の曲に代えてから半年後に、再び前の曲に戻ってきたりすると、以前より上手く弾けたとかいうの、しょっちゅうあるんだよな。他の曲を練習する中で、漸近線上がる何かがあったんだと思います。

 学校の吹奏楽部で、コンクール直前に別の曲も練習するのは、けっこう勇気が要ると思うし、何よりも生徒たちが不安になっちゃうでしょう。でも、漸近線を上げることの必要性を理解してもらえば、きっと気持ち的にも余裕が出て、楽しく練習に励めるのではないでしょうか。

 

【本日の手口】 信越化学工業18645円 100株買い。良品計画1802円 500株買い。年末まで気楽に流そうと思ってたけど、オミクロン暴落を見てもうひと勝負する気になったぜ。オミクロン大したことなくて、すぐに元の水準に戻る方に賭けます。