このブログ史上、最もわけわからんタイトルです(笑)。

私の本業は物理を教えることなので、速度計算といえば「距離÷時間」なんだけど、私の日課の1つである将棋でも、速度計算という言葉が使われています。

 将棋は、相手の王様を詰ます(逃げ道が皆無の状態に追い込む)のが目的のゲームで、1手でも早くその状況を作れば勝ちです。ということは、終盤戦になると、相手の王様を詰ますのにかかる手数と、自分の王様が詰むのにかかる手数を比較する必要があるわけだ。自分の王様に1手の猶予も無いならば、相手に対して「王手」の連続で詰ます必要があり、これは「即詰みに討ち取る」という言い方で表されます。もちろん、討ち取るのに失敗すれば、自分が詰まされて負け。だから自分の王様に即詰みがない、つまり1手余裕があると判断すれば、相手の王様に対しては王手を続ける必要は無く、「必至」という、相手の王様を完全包囲するような、安全確実にに勝てる手を選択することになります。ハッキリ言って、速度計算が上手い、つまり終盤が強い人=強い人、と言えます。藤井聡太新竜王は、終盤力が桁違いに強くて、少しくらいの劣勢を、最後の最後にひっくり返す逆転勝ちが多いのだ。私の場合は真逆で、終盤で大逆転負けを喫することが多いので(泣)、将棋ウォーズで2級に上がってから、ず~っと足踏み状態。詰将棋は得意な方だから、相手の王様を詰ます手順はけっこう読めるんだけど、自分の王様の危険度を過小評価する傾向があるのが弱点だ。「何とか耐えられるだろう」って、楽観的に判断しがちなわけだから、実生活が破綻してないのが不思議だ(笑)。

 

 さて、楽器における速度計算について述べましょう。速いパッセージを弾けるようにするためには、とにかくゆっくりのテンポで練習して、ちゃんと弾けるようになったら徐々にテンポを上げる・・・。それ以外の方法は絶対に無いです。って頭で解っちゃいても、これまで何度訊いたことか・・・。「どうしたらそんなに速く弾けるようになるんですか?」

 答は、ありとあらゆる楽器の100人中100人が「テンポを落として練習して、弾けるようになったら少しずつテンポを上げてください」。まあ、付点つけたりアクセントを移動したりというバリエーションはあるけど、とにかくテンポを落とす・・・それが全てです。遅いテンポで弾けてないものが、速いテンポだったら弾けるってことは絶対にあり得ないのだ。だから、倍以上のろのろテンポでもいいから、正確に弾く練習をして、クリアしたらメトロノームのテンポ設定を1日1ずつ上げて行く・・・。そんな地道な練習だけが、速弾きへの唯一の道なのだ。

 

 さて、今私が直面している、速いテンポの難曲がいくつかあります。ピアノでは、ショパンエチュード10の1。バイオリンでは、オケの演目である「ウイリアムテル序曲」「魔法使いの弟子」ブリテンの「管弦楽入門」等です。

 エチュード10の1の指定テンポは四分音符=160なんだけど、私が弾けたテンポは70でした(笑)。ハーフマラソンだったら、トップアスリートのちょうど半分よりは少し速いタイムが出せているから、10の1もせめて半分の80では弾きたかったが、中盤の難所が越えられず、屈辱の2倍超え(泣)。救いなのは、とりあえず70ならフルコンボ(ノーミス完走)できたことで、しかも、あっという間に暗譜しちゃった。あとは、メトロノームの目盛りを、1日につき1ずつ上げて行けば、90日後には160フルコンボ達成だよな。ただ、70を71にするのと比べて、159を160にする方が大変なはずだ。チロルチョコみたいなお菓子を、70個食べた人が71個目を食べるのに比べて、159個食べた人が160個目を食べるのが辛いのと同じだ(謎)。だから、90日で達成できるというのは楽観的で、実際は後半になるほど進歩が鈍ること見込んでおく必要がある。これが単純に「テンポと難易度が比例」ってことなら、速くなればなるほど進歩が鈍るから、160で弾けるようになるのは、倍の180日(半年)後ってところじゃないかな。幸い、10の1を人前で発表する予定は今のところ無いから、別に半年でも1年でも何ら問題ないけど、これが期限付きとなるとそうはいきません。

 「ウイリアムテル序曲」の終盤のアレグロビバーチェは、指定テンポ152です。本番はテンションアゲアゲで、160を超えてくることが予想される。・・・で、今弾けるテンポは倍の80。10の1と同様の計算を施すと、160までテンポアップできるのは4か月と20日後。今日を起点にすると、4月の1週目頃でしょうか。ところが、本番は2月27日なんだよな。だから、この速度計算の結果は「間に合わない」という結論になります(笑)。じゃあどうするかというと、ズバリ、うまくごまかす方向に方針転換するのだ。

 つまり、全部をちゃんと弾ききることが不可能なのが明白になった以上、そこを深追いしたがために、本来弾ける箇所まで犠牲にする・・・ということは避けるべきだと思うのです。間に合わないと判断した部分はスパッと諦めて、弾けそうな箇所を確実にモノにしてゆく方が、トータルで考えれば自分も楽しいし、オーケストラ全体のためにもなるでしょう。

 

 学校という世界では、「努力は必ず報われる」という幻想を植え付けることが、いまだに横行しているように思います。大切なことは速度計算であって、100点目指して玉砕するよりは、超難問をさっさと捨てて確実に70点取るとか、適性が無いことは程々でいいから、本当に好きなことや向いてることに没頭させる、とかの方が大切ではないだろうか・・・。