某シネコンにて『僕たちは世界を変えることができない。But, We wanna build a school in Cambodia』を鑑賞。

【出演】
向井理、松坂桃李、柄本佑、窪田正孝、村川絵梨、黒川芽以、江口のりこ、黄川田将也、リリー・フランキー、阿部寛
【監督】
深作健太
“僕たちは世界を変えることができない……だから、みんなで笑顔をつくった”
2005年8月、医大に通う大学2年生の田中甲太は、同じ大学の友人、芝山匡史、矢野雅之とそれなりに楽しい日常を過ごしていたが、何か物足りなくも感じていた。
「大学に通って、バイトして、卒業して社会人になって……若いうちにしかできないことをやりたい!でも……何をやればいいんだ?」
彼女からは、
「別れよう。甲太を嫌いになった訳じゃないんだけどさ、何か物足りないんだよね。何が物足りないんだろうね?」
「……さあ?」
ありきたりの毎日を変える何かがないだろうか?
今の自分を変えることができるものはないだろうか?
そんなことを頭の隅で考えていたある日、ふと立ち寄った郵便局で海外支援案内のパンフレットに目がとまる。
‘カンボジアの子どもたちに屋根のある学校を。あなたの150万の寄付で屋根がある学校が建ちます!’
そのパンフレットを手に取った瞬間、甲太の明日は変わった!
すぐに知り合い全員にメールで「カンボジアに学校を建てよう!」と送信。
大半の友達が相手にしない中、芝山と矢野に加え、合コンで知り合ったチャラ男の本田や看護師志望の村山かおりが仲間に加わってくれた。
こうして‘そらまめプロジェクト’が立ち上がる。
「何でそらまめなの?」
「お前は、まめに空ばっかり見てるからさ」

本田の発案で、学校設立のためのクラブでのチャリティーイベント行うため、夜のクラブでの慣れないナンパ、学校でのビラ配りなどで人集めに奔走し、何とか初のイベントも成功。
「ところでさ、カンボジアに行ったことあるの?」
「ないけど」
「え!ないの!?それなのに、カンボジアに学校を建てようとしてるわけ?」
‘そうだ!こうなったら、まずは行くっきゃない……カンボジアへ!’
こうして「単なるお金集めだけでは意味がない。カンボジアのことも知らなければ」と、今度は現地のリサーチをするためにカンボジアへスタディー・ツアーを敢行する。

しかし、到着したカンボジアでは、彼らが想像していた以上の厳しすぎる現実が横たわっていた。
世界一多いHIV感染者の現実、貧困、ポルポト政権による大量虐殺の忌まわしい過去、未だに無数に埋められてある地雷、その地雷原で生活せざるを得ない人たち、学校に行きたくても行けない子どもたち……。
自分たちの悩みのなんと小さいことか。
農村の少年に「学校を建てる」と約束したものの、すっかり非力を感じて帰国した甲太たちに追い打ちをかけるような事態が日本では起きていた。
イベントに協力してくれていたIT企業の社長が株式の不正取引で逮捕され、サークルの評判はガタ落ち。
「偽善者!詐欺師!」
やがて、それぞれが生き方や恋愛や将来に悩み苦しむことで、衝突が発生し……遂には仲間割れを起こしてしまう。
果たして、甲太たちは目標額を集めることができるのか?

カンボジアの子どもたちのために学校を建てることができるのだろうか?

「生きる希望をありがとう」
普通の大学生たちが、カンボジアに小学校を建てるまでの奮闘を描いた青春トゥルー・ストーリー。

「普通の大学生が学校建てたら凄くないか?世界で勝負するんだぜ!」
自分を変えるために何かをしたい甲太は最初はあくまでも自己満足のため、仲間たちは「なんか面白そうかも」……そんな軽い気持ちで立ち上げたプロジェクト。
ところが、実際にカンボジアの現状を目の当たりにした時、激しいショックを受ける。
「俺たちは甘すぎた。世界を変えるなんてできっこない」
でもカンボジアで出会った人たちの笑顔は、真実だ。
「世界は変えられなくても、笑顔をつくることはできる!」
ほんの小さな希望でも小さな幸せが生まれて、その積み重ねが少しずつ何かを変えていけると、甲太たちは気付くのです。
帰国後のチャリティイベントでスピーチをする甲太だったが、真剣に聞いてくれる人はほとんどいない。
するとやおら服を脱ぎ出し、時計やアクセサリー類を外し、パンツ一丁になって泣きながら訴えかける!
「僕は何も持ってません!ダメな人間です。本当にダメな奴なんですよ。でも、カンボジアの子どもたちに学校を建ててあげたい!人のために何かをしたことで、その人が希望を感じてくれたりする。そしてその人たちの幸せな笑顔に自分も希望をもらえる。人のために何かをする喜びが、自分のために何かをする喜びに勝るときがある。そう思うんです」
このシーンの向井理の演技には、泣かされた。
また、カンボジアの子どもたちを前にブルーハーツの「青空」を歌うシーンも涙モノ。(なぜ泣けるかは……映画を観て確認してください

)
深作監督はドキュメントタッチのライブ感に拘ったようで、撮影現場では状況に応じて台詞の変更、アドリブ演技もさせている。
現地ガイドに(実際のガイドらしいのですが、この人がメチャメチャいい!助演男優賞級!)案内され話を聞くシーンは、演技ではなく完全にマジのリアクションです。
ポルポト政権時代の収容所跡を訪問するシーンなどは、役者陣のリアルな感情がそのまま映し出されており、観ている方も同じ感情を共有する事ができます。
カンボジアの悲しい歴史、辛い現実を描いているからこそ、彼らとカンボジアの子どもたちが最後に見せる笑顔が心を打つ!
「僕たちは世界を変えることができない……でも、あの日の子どもたちの笑顔は、僕たちの笑顔は真実だ」
ラストのこの台詞に、物語のすべてが集約されています。
登場人物が歩く後ろを手持ちカメラが追い、それが微妙に手ブレするあたりは、深作欣二監督のそれそのもの!
さすが親子だ。独特の演出のDNAをしっかりと受け継いでいる。
自分の無力さを実感し、恋や友情に悩む若者を演じる向井理の等身大の演技は秀逸。(年齢的に大学生役は、ぎりぎりセーフか?)
ただこの作品での向井理の演じる甲太は決してカッコよくない。むしろカッコ悪い、ちょっと情けない男である。
肝心な場面ではいつもオドオドしているし、ナンパも苦手で好きな女の子に告白もできない、しかもすぐ泣く。
プロジェクトのリーダーなのにリーダーシップも取れず、人に頼ること多し。
そんな彼の成長物語でもあるのだけど、だんだん男らしく精神的にも強くなっていくに従って、俄然輝き出す。
逞しい男の顔に変貌していくのです。
それから、子どもたちに向ける笑顔も抜群によい。
『パラダイス☆キス』の時のようなとにかくカッコイイ向井理を期待すると、ひょっとしたら肩透かし感を食らうかもしれないけれど、映画の後半からの向井理は、男から観てもカッコよくて人間くさくて、とても魅力的でした。
イケメン揃いのキャスティングですが(「ネズミに似てるね」と言われていた柄本佑は除く?)~~自分のお目当てはもちろん、黒川芽以



なんとデリヘル嬢役での登場!
無力感、失恋で心がボロボロになった甲太は、言いようのない淋しさを癒したくて自宅にデリヘル嬢を呼ぶ……が、カンボジアのことが頭に浮かび……。
「すいません……60分、胸だけ貸してください」
「え?……いいよ」
甲太は彼女の胸に顔をうずめ、ひざ枕されて子どものようにひたすら泣き続ける。
その甲太を優しく受けとめてあげるデリヘル嬢。
この時の黒川芽以は、母性愛を感じさせてとても美しい。
このデリヘル嬢が来て、服を脱ぎ始めるまでのくだりが妙にリアル。
ファッションも如何にもっぽいし(チェックの超ミニスカを穿いてるとことか)お店に確認の電話をかけている際の雰囲気、事務的な口調から、お金を受け取りお釣りを渡した瞬間に一転してくだけた口調に様変わりするあたりなど……漂ってる空気感が不必要なくらい超リアルなんです


唯一リアルでない点は、黒川芽以みたいにあんなに可愛いコは、そうそう来ないだろう……というところでしょうかね(笑)。
デリヘル嬢が到着するまでの間、やたらめったら異常に落ち着かない向井理の姿も……ああ、やっぱみんな同じなんだなぁと思わせて安心させるものが!?
もう一人のお目当て、江口のりこは無謀にも(?)彼氏である向井理をあっさりフッてしまう役!
逆なら分かるけど、あんたがフッてどうすんだよ的な(笑)。
あとバーのレゲエマスター役のリリー・フランキーが、かなりいい味を出してます。(『モテキ』を観たばっかりだから、どうしても墨さんのイメージが抜けなかったけど

)
自費出版された現役大学生(当時)の体験記が基になっているだけに、ひょんなことから始めたカンボジアでの学校建設ボランティアを通して、自分自身と社会を見つめ直す姿がまるでノンフィクションのように活き活きと描き出されている秀作でした。