初めまして。公認会計士・税理士のたけよしです。
現在、税務調査繁忙期になりまして毎日相談や立会いなど忙しくなってきています。
昨日、東京都知事選が行われ、大方の予想を裏切って小池氏が圧勝となりました。
小池氏には東京都民のためにぜひ頑張っていただきたいのですが、名勝負を勝ち抜いた小池氏の選挙の戦い方を自分なりに分析し、これを税務調査に応用しようという考察です。
まず、登場人物は以下のとおりです。
小池百合子:
今回の主人公で、元キャスター。元々は細川元総理の日本新党から当選し、小沢氏の新進党に入る。その後自民党に転身し、小泉元総理の下で郵政解散では刺客の第一人者として当選。更には女性初の●●(大臣や党三役)を歴任する。
今回、自民党都議連の推薦を得られなかったのに立候補
増田寛也:
小池氏にとって、今回の最大のライバル。東大法学部⇒官僚一筋から政治家転身のよくある経歴。父親も官僚から参議院議員であるので2世になる。
地元議員の小沢氏の支援により、岩手県知事に当選。その後、小沢氏と決別し、東北の知事仲間と連携して、改革派知事を謳う。知事としての支持率は全国の知事の中でもトップであった。その後、総務大臣に就任。地方知事からの転身である。
今回、小池氏が立候補した後に、自民公明の推薦を得て立候補
鳥越俊太郎:
テレビタレントでジャーナリスト。実家は鳥越製粉という会社であり、実業家の家系。
今回、民進や共産など野党連合の推薦を得て立候補。おそらく、知名度では3人中トップであろう。
石原伸晃:
自民党東京都連会長。父親は元知事の慎太郎氏。
今回、相談もなく立候補した小池氏を目の敵にする発言を繰り返し、小池氏を排除しようと前面に立つ。
内田茂:
通称、都議会のドン。都知事の自民党公認権を実質的に握っているとされる人物。
今回は自民都議に対し、「小池氏を応援すれば、本人だけではなく一族郎党処分する。」として増田氏を全力で支援するとともに、小池氏を全力で排除しようと画策する。
安倍晋三:
内閣総理大臣で、自民党と政府のトップ。
今回は、ビデオレターで増田氏を支援する、と言ったのみ。
都知事選直前には、憲法改正の件で橋下氏と会談しており、増田氏の応援演説よりも優先した。
<事前予想>
ということで、単純に考えれば増田氏の圧勝だったはずです。理由としては、
・都議連会長やドン、自民公明が全面的に応援している。
・自民党は、直前の参議院選挙で大勝しているので勢いがある。
・増田氏は知事としての実務経験があり、その当時の支持率も大変高かった。
などがあります。対戦相手についても、鳥越氏は野党連合ではあるが烏合の衆の感じがぬぐえなかったですね。
本人も言っていますが、「自民党に任せて憲法改正してもいいのか?」というような、都知事がやるべき話ではないところで盛り上がっており、政策も「がん検診受診」など的外れなものが多かったと思います。
要するに、彼は都知事をやりたいわけではなく原発と憲法にしか興味が無いうえ、発言についても最大野党である民進党と相容れないものがあり、野党連合のもろさを露呈した格好になったと思います。
小池氏についても、知名度と大臣経験者という実績はありますが、大臣経験という事であれば増田氏も同様ですし、何と言っても自民公明の応援が無い。
自民公明が応援してくれない、ということは、会社を突然追い出されて全部自分でやることを意味します。
応援演説をする場所を決める、ステージ作り、選挙カーの手配、ポスターの貼付等々全ての雑務をやらなければならないわけで、これは相当に厳しいはずです。
さらに追い打ちをかけるのが、会長やドンを敵に回したことで、おこぼれにあずかろうと思って近くにたくさんいる彼らの腰巾着をも敵に回さざるを得ず、自民党系の票が期待できないという事情があります。
<結果・分析>
結果はみなさんご存じのとおり、小池氏の圧勝でした。
彼女は非常に選挙が上手かったと思う反面、増田氏はあまりに選挙が下手すぎると思いました。
小池氏はかつて選挙で強かった小沢氏の下にいました。小沢氏は40代で党三役になるくらいの相当な実力者ですし、直近では政権交代による自民の野党転落を支えた選挙のプロです。
おそらく、小池氏は小沢氏の戦術を近くで学んでいたのでしょう。
その後、小池氏は小泉氏の側近になりました。小泉氏は郵政解散を見ればわかりますが、相当の選挙のやり手。
刺客の第一人者として、小池氏は彼の戦術を近くで学んでいたのでしょう。
このように、おそらく今の日本で最も選挙が上手い二人を手本にしっかり分析した結果が出たと言えるのではないでしょうか。
彼女の戦術は挙げればきりがないですが、主なものは以下のとおりです。
①他人がまねできないイメージカラーの緑を設定。
②対決・対立構造に持っていくことが上手い。(男vs女、年寄りvs次代、既得権益vs改革派)
③都民目線のアピールに徹底
④相手の非常識さ(一族郎党処分等)を利用し、常識面から大衆に訴える。
②と④は言うまでもなく郵政での小泉氏、③は政権交代時に「投票に行こう」をキャッチフレーズにした小沢氏の戦術です。
対して、増田氏はあまりに選挙が下手でした。総務相時代の実績アピールも届かず、竹下通りでの演説等もやりましたが、一言で言えば、華と自立性が無い「ボンボンの息子」的な感じです。
おそらく、自民や公明の支援者の指示に全て従い、自分でこうしたいとかああしたい、こうやって戦いたいという明確なプランが無かったのでしょう。
言ってみれば、会長やドンの言いなり、傀儡(クグツ)、操り人形感が否定できず、増田氏の奥にいる黒い"者"(注「物」ではない)が見えたような気がします。
岩手知事に当選したのも小沢氏のおかげであったことが明確になりましたし、小池氏とは反対に、そばにいて何も学ばなかったようにも思えます。
そしてとどめを刺したのは、石原慎太郎氏の応援演説でしょう。
小池氏を批判して、「年増厚化粧のうそつき女」とか言ったようですが、うそつきであることは別としても、年増であること、厚化粧であること、女であることは都知事の資質とは関係ありません。
この発言により、年配の人、女性を敵に回したことは明確です。
橋下氏が分析していましたが、この発言が出たときに増田氏が会見を遮り、石原氏に面と向かって公然に批判をすれば良かったと。
そうすることで、影響力のある石原氏にも注意できる度胸を披露できたわけですが、当人は陰で苦笑いしていたとか・・・
結局のところ、増田氏は実務を遂行する官僚出身であり、非常事態やマニュアルから外れることに対しては弱いという、「治世の能臣」ではあるが「乱世の奸雄」の器ではないことが判りました。
さらに、小池氏はこの敵による不意の空中戦を撃退するだけでなく、反計を打ってきたところが良かったですね。
厚化粧については、「男性にはわからないと思いますが、私は顔にあざがあるので医療用の化粧品を使っている。」⇒男vs女の対立構造。
翌日の演説で、「今日は薄化粧にしてきました。」と早速敵の弾薬を利用する機転。
結局、石原氏の発言は相手を利するだけになって何の効果も無かったどころか、女性や年配の人を敵に回しただけで、却って害が大きかったという事になります。
鳥越氏は、まあいいでしょう。
<その他の人>
石原氏:
今回の選挙敗北の総責任者。何らかの処分はあるでしょう。圧勝した小池氏を無視することはできないでしょう。
内田氏:
影響力の低下は避けられないでしょう。今回の選挙で悪者のレッテルを貼られてしまいましたので、小池派ではない都議は全体的に地盤沈下でしょう。
安倍氏:
逃げるのが上手かったですね。内田氏が勝てないと見るや直接応援演説をせず、敗北のダメージを最小限に抑えた。言ってみれば、増田氏をしっぽ切りした。
ということで、これを税務調査に応用してみますと、以下のような構図になります。
小池氏 ⇒ 被調査者(これを読んでいる読者)
増田氏 ⇒ 担当調査官
石原氏・内田氏 ⇒ 統括官
安倍氏 ⇒ 税務署
担当調査官も公務員ですから、マニュアル等にあることについては強いですが、想定外の事態には非常に脆い面があります。
例えば、調査官と関係がこじれて更正処分が出るかどうかというとき、こちらが「納得できないので不服申し立てや審査請求をする」と言ったとしても、相手はそれほど嫌に思いません。
これらの手続きは、税務署職員もよく触れている事ですから、相手に圧力をかけたつもりでも、「あ、あれね。面倒だが仕方ないか。」で終わってしまいます。
しかしながら、調査官の違法手続を追及し、「今回の税務調査には違法調査が多数ある。よって、調査自体が有効ではないので、そのような無効な調査に基づく処分は無効。それでも処分をするなら刑事告訴する。」とすると話は別です。
彼らは刑事告訴なんて想定していないわけですから、その慌て方は相当なものですし、何よりも「何をされるか分からない」という威圧を与えることができます。
もちろん、客観的証拠である録音があること、刑事告訴の筋道をしっかり立てていることは前提ですが、万一、職員が税務調査をやって起訴されようものなら、この国始まって以来の大事件ですから、色々な力が働きます。
安倍氏の対応を見ればわかりますが、最終的には、担当調査官と統括官を切り捨て、税務署や国に責任が及ばないようにしてくるとともに、被調査者の主張を認めるという(大したことない)代償は喜んで払ってきます。
ということで、このブログでも訴えていますが、最終手段ではありますが、刑事告訴という最後の秘策は手の中に置いておくべきでしょう。
また、マニュアルに嵌った公務員には空中戦を仕掛ける。
これは税務調査に限らず、他の行政手続きでも使えるのではないかと思います。
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