1月中旬になって ようやく出版社も いつもの活気が戻ってきた。
久美は、編集長からの思いがけないオファーに戸惑いながらも、
心弾ませながら編集部を後にした。
「金子さん、金子さんだよね!」
久美は地下鉄への階段を降りていると 背後から声をかけられ 立ち止まった。
「あ!村野くん」
振り向くと笑顔で手を挙げている。
「やっぱり金子さんか~交差点の向うからもしかしてと思って…」
村野は白い息を吐きながら階段を足早に降りてきた。
「金子さん、ひさしぶり。こんな所で会えるとは…
何かウキウキしながら歩いていたようだったけど、良いことでもあったのかな?」
「ちょっとね!」
久美はオレンジ色のブリーフケースを少し持ち上げ微笑みを返した。
「そうだ村野くんゴメンね。飲み会誘われていながら行けなくて…」
クラス会がきっかけで、その後気の合う 男共と飲んでいるらしく、
何度かメールをもらっていた。
「まあ夜はなかなか難しいよね。それより時間ある?良かったらお茶しない ?」
村野は遠慮がちに声を出した。
「そうね、お昼も食べてないし。村野君は?」
久美は、コートの襟を立てると 北風の吹き抜ける階段を 先にのぼり始めた。
)

