コロナ禍に入って以降もLINE CUBE SHIBUYA、日比谷野外音楽堂、昭和女子大学人見記念講堂とやや大きめな会場でライブしたり、フルアルバム「海底より愛を込めて」のリリース、小さなライブハウスでライブしたり、主催フェス「OOPARTS」の開催と止まらずに走り続けている印象があるcinema staff
そんなcinema staffも今年でデビュー15周年10周年の際は積極的にツーマンライブを敢行していたが、今回実行したのは7月から11月という長期に渡って開催される全国ツアー
実質、「I SAY NO」のレコ発ツアーでもあり、ファイナルはZepp Shinjuku、久々のZeppワンマンとなる

そのZeppワンマンのチケットは直前にソールドアウト
オオバコワンマンでソールドはシネマにとっては久々
ただ開演寸前まではBGMはほぼ無し
単純にそういう演出なのだろうか

定刻を少し過ぎたところで、お馴染みのSEが流れて飯田(Vo. & Gt.)達が一斉に現れると、三島(Ba.)に辻(Gt.)も深くお辞儀
もしかしたら久野(Dr.)もお辞儀してたかもしれないが、シネマは最後爆音を残して去る
だからこのように最初に丁寧にお辞儀しているのかもしれない

そうして客席に向けて挨拶を終えたところで轟音を鳴らし、のっけから久野が持ち前のパワフルなビートを刻む「フェノメナルマン」を始めるが、近年のシネマは映像演出に積極的
Eveみたいにほぼ全ての曲に映像が作られている訳ではないが、後方にLEDが備え付けられているO-EASTやこのZepp Shijukuは今のシネマにはとても相性が良い
クオリティの高さを知ってもらうべく、多くの人に見てもらいたいほど

同時にこのツアーのタイトルは「We are phenomenal」
キメに合わせて多くの人が拳を合わせるのは、すっかり定着したということだが、今のシネマにこの曲がどれくらい大切なのか、このライブを通して知ることに

イントロで歓声が起こりフルドライブ状態で突っ走ったと思いきやブレーキがかかり、また再始動するジェットコースターのような「想像力」で早くも辻のシャウトが炸裂し、「海底」は恒例となっている海をモチーフにした映像が流れるが、ここで印象的なのは辻が涙を拾うかのようにギターを空高く掲げるシーン
コロナ禍以降のシネマを見ている方にはお馴染みの景色
でもこれがコロナ禍初期のシーンを描写したことであるのが忘れてはならないこと
並びに、辻がそのままコーラスに入る曲が増えたのはコロナ禍前との大きな違い
「海底」はまともにライブ出来なかった頃のシーンを思い出させるファクターになるし久々にシネマを見る人からすれば、「辻って今コーラスもするんだ」
シネマの存在は、コロナ禍前とコロナ禍以降の違いも直視させるバンドにもなっている

飯田が軽く挨拶したあとは、今年に入ってからすっかり定番となり、映像演出も用いながらオルタナの教科書のようなアンサンブルを見せる「陸の孤島」、「drama」では飯田がパワーコードをガンガン鳴らしつつ、久野はハイハットとライドシンバルを駆使して緩急を付けているが、

三島「スーパーギターリスト、辻友貴!!」

と紹介されたように、主役は辻
この日はそこまでアグレッシブにギターを弾いているわけではないし、飯田もギターボーカルとして、ギターはかなり上手い方
でもシネマのサウンドの骨格は辻
彼のギターが無ければ、シネマのオルタナサウンドは成立しない

個人的に驚いたのは「lost/stand/alone」
収録アルバムの「eve」はシネマのアルバムの中で異色の立ち位置にあり、昔シネマのアルバムを聞き直した際には「これだけ…あわん…」となってしまったが、1つ1つで見れば話は別
しかも「lost/stand/alone」がセトリに組まれるのは、実に7年ぶし、今思えばストレイテナーの「Traveling Gargoyle」を参考にしたような曲調
前回Zeppワンマンしたツアーのセトリにも組み込まれてたようだし、懐かしさを覚えた方もいたと思う
その直後、

「付いてこれる人だけ付いてきて!!」

と飯田が煽ったのは、先日テレビシリーズが遂に完結した「進撃の巨人」の主題歌にも起用された「great escape」
血液をイメージさせる映像演出は、多分「進撃の巨人」の世界観を反映させたんだろうけど、途中で三島と辻が前に出て、久野の獰猛なビートに合わせて爆音を鳴らすように、ありのままのシネマで主題歌をやらせてくれたのはあまりに大きい
しかもリリースから相当な時間が経っても、「great escape」をやってくれる
アニメからシネマのワンマンに足を運んだものには、「生の「great escape」ってこんなにカッコいいんだ!!」、100%そう思わせてくれることだろう

「1ヶ月間、時間が空いたけど気を抜いてないよね?」

と飯田が確認するように、セミファイナルとファイナルの間に1ヶ月近くの空白があったこのツアー
もちろんファンは油断など微塵もしてないだろうが、重厚で暖かみがあり、三島に加えて辻もコーラスで参加する「flugel」の美しさにはじっと見惚れてるのも止む無し
ストリングスを使うこともなくオーソドックスなフォーピースでこのサウンドスケープはもっと広い会場で体感したいもの
それに芸術的なコーラスワークなんて見せられたら、じっと傍観するしかないから

「great escape」と「flugel」の幕間にはステージ下手に鍵盤が用意されており、そこに登場するのはandropのライブサポートでもお馴染みの佐藤航
佐藤を呼んだのは、鍵盤が無ければ演奏できない曲があるからで、「橙の日」なんて特にそう
サポートがいない場合、どのように演奏しているか気になるが、弾き語りだとこの「橙の日」はより化けそうな印象がある
歌謡的でノスタルジックだから
人見記念講堂と同じく、サックスも入れて欲しかったが、代わりにミラーボールは黄色く照らされたゆっくり回転
ダンスホールの役割を担うミラーボールというより、タイムリープさせる役割を持つミラーボールのようである

そのうえで佐藤がいることで、「Name of Love」で飯田はギターを背中に回し、嘘偽りもないであろう透明感ある歌声の披露に専念
シネマは同期をライブでほとんど入れないので、佐藤がいない際は飯田が鍵盤を担当しているんだろうけど、ギターが辻のみになってもシネマのアンサンブルは鉄壁
「ギター1本なのに、こんな凄まじいアンサンブルが出来るのか…!」
カッコよすぎて脱帽していた

2曲でサポートを行った佐藤が静かにお辞儀をしてステージを去ると、「青写真」では三島と久野からなるリズム隊が盤石に
シネマの音楽性はインディーロックやポストハードコアなどを含みつつも、基本的にはオルタナベース
だから音も凄まじいけど、かと言って耳が吹き飛ばしそうな感じはしない
どこら辺がちょうど良いかをシネマは熟知しているのだろう
それにしても「blue print」前後の曲をこんなにも聞けるとは…

「よくライブを見に、歌舞伎町まで来ましたね?(笑)」

と労いのようで、そうとも取れない言葉をかけるドコムスチャンネルこと、久野
飯田はこの日会場入りが20分遅れたらしく、その原因は新宿駅で道に迷ったということで

「それ、新人バンドの台詞(笑)」

と久野にツッコミをアビていたが(笑)

その飯田が15年以上バンドが続いていることから、

「俺がバンドマンです」

と謎発言をしたうえで、

飯田「楽屋でロックやろうか!って意気込んできた(笑)。オルタナティブロックの申し子です(笑)」
久野「それ絶対SNSに書くなよ!燃えるから!」
飯田「辻は名乗っていいんじゃない?ダイヤモンドユカイみたいに(笑)」
辻「それ酷くない?(笑)」

と飯田のMCは辻に被弾(笑)
流れ弾を喰らう形になる一方、三島は1人チューニングに専念していた
文字通り対照的

シネマは発声する曲はそこまで多くないので、一時期設けられていた発声禁止ガイドラインの影響は受けていない
でもシネマの曲の中で、特に合唱を求める「HYPER CHANT」は一時期やる機会が激減したので、発声解禁以降はやる機会が増えた
この曲でコラボしたサッカーチームの本拠地でライブすることもあったし、緑の照明はサッカーのグラウンドを連想させたり、極めつけは合唱がサッカーの応援そのものとサッカーと非常に縁が深かったりするが、自分はたまたま先日の仕事で自分の出生の地、福岡をホームに置くアビスパ福岡が優勝したことに衝撃を受けている
ホークスよりもアビスパ福岡ファンで有名な田村ゆかりは興奮したのでは?と妄想を抱くほどに

青い照明がステージを照らす中、闇を一切感じない飯田の歌声が高く響く「返して」と秋らしい、涼しさを感じる曲が続いたところで、

「ダンスタイム歌舞伎町へようこそ!」

と三島が宣言して、静と動が激しい「優しくないで」はフロアが揺れまくり
静のパートは飯田による儚げな歌声が響くも、動になった途端放たれる三島の歌声は強烈
こんな声をぶつけられたら優しくするどころか、近づきさえ出来ない

しかしその狂気は、久野が高速4つ打ちを刻む「Poltergeist」で更に暴走
ステージ背後に映る映像と共に解き放たれる三島のシャウトは、ゴジラの攻撃のように町を破壊尽くしてしまいそうだが、途中飯田は辻のマイクスタンドに移動したことで、辻は「どうすればいいの?」な顔をしていた
そのためエフェクターがなかなか踏めず、躊躇するのは少しシュール

「ポルターガイストを見たんだ…」

と三島が呟いて終わるのはよりシュール

ハードコアテイストの曲を2曲やったあとは、

「三島くんが「I SAY NO」ってアルバムタイトル持ってきたとき、俺は何も聞かなかった。「やりたい事だけやりたい」って意味じゃない。cinema staffをやるために、色んな選択をしてきた。それがこのタイトルに現れています。」

と最新EPのタイトルを解説する飯田
いきなりリリースされた作品なので、メディアを見てもインタビュー記事はほとんどない
てっきり自分は「イエスマンにはならない」という意味で捉えたが、全くの的外れだったようだ

そのうえで、

「現状に満足してない人たくさんいるでしょ?俺たちだってそう。でも楽しめる日も持たないと。その瞬間を掴まないと!」

と「それ、直訳するとあなた方の知人、LiSAの「Catch the Moment」になるんですが」といったMCをしつつ、

「アナログな視線も持たないと。こういう日があることを覚えておいて欲しいと思います。cinema staffでした。」

と楽しむことを忘れてはならないことを飯田は伝え、長く壮大なイントロから紡がれ、

「さあこれから僕は行くよ。
あの坂道を越えていくよ。
そのままあとに続け。
理由なんて最後に探せるよ。探せるよ。」
「もうすぐ朝は来るよ。間違いなく朝は来るよ。
そうしたらあなたは、
手を離しても歩いていけるだろう。」

と深夜から夜が明けるようなアンサンブルを見せ、旅立ちを促す「望郷」が終盤の合図

そして満を持して演奏される「I SAY NO」は、冒頭の「フェノメナルマン」に世界観が非常に近い曲
こちらも久野のパワーに寄ったビートが目立つ反面、辻はとても繊細な音色を奏でいいるが、ここで歌われているのは、

「僕らみんないつか死んでひとつになるのだろう」

と明確な死
どんなに逃れたくても死からは逃れることは出来ない
でもシネマはこのように死をネガティブに捉えていない
一度離散したものが再び1つになる
そう考えている
だから悲しみは感じない
むしろ恐れずに進もうという意味に
それが「フェノメナルマン」の

「僕らは加速しよう」

に繋がるのである

そのように前進を促し、

「俺たちが岐阜から来たフェノメナルバンド、cinema staff!!」

と三島が高らかに宣言し、最後に演奏されるのはどんな状況であっても、これがシネマのテーマソングに変わりない「theme of us」
LEDには昔のアメリカ映画を連想させるような映像演出が施さる反面、辻は何故か水分補給が長く、背中を見せている場面も多かったが、上手に大きく移動したと思いきや、

「我らがスーパーマン まだまだ飛べるさ」

に合わせて、大きく横飛びジャンプ
こうして主役の座をかっさらった後は、久野がスティックを大きく投げた後、いつものように辻はギターノイズを構築
ステージにノイズを残して、4人はステージから去っていった

アンコールで戻ってくると、まずは久野による恒例の開封の儀が取り行われるが、この日はすぐに辻も登場
辻は開封済みだったので、儀式は行えなかったものの、

久野「昔は辻くん、酒飲めなかったのにね?」
辻「弱すぎて吐いていた」

とあの辻が、昔は酒を飲めなかったことが判明

久野「いつから飲めるようになったの?」
辻「自然に飲めるようになってた」
久野「想定していた回答じゃん!!」

とトークはそこまで広がらなかったが、その間にステージに現れた飯田が照明に頼んで開封の儀を実行(笑)
ツアーファイナルだからか、やけにステージはにぎやか

そのうえで、本編でほとんど話さなかった三島はFC限定ラジオの初期は飯田が酔った状態で収録に参加したので、編集に苦労したようだが、この日のチケットがソールドアウトしたことに触れつつ、過去2回DiverCityでワンマンしたことに言及しながら、

「7年前にZeppでワンマンしたときのアンコールでも話したと思うけど、俺たちは愛を返すことには誰にも負けてない。でもあの時は悔しさも残った。飯田が話したように悔しいこともあったけど、愛や勇気を伝えることは今でも誰にも負けてない」

と過去2回、DiverCityでワンマンした際に完全燃焼出来なかったことに触れ、今回はそうではないこと、来年以降も前に進めるライブになったことを話した
要はこのライブが来年以降のライブに繋がる熱源になったということだ

それからアンコール、飯田が弾き語りのようにイントロを歌い上げたのは、

「星になったあの人に届けるような言葉を。
黒く塗ったあの日を肯定する歌を歌うよ。」
「負け犬の遠吠えに聴こえるならそれでいい。
それでも自分自身を肯定する歌を歌うよ。」

と自分も含め、ありとあらゆる人を肯定する「希望の残骸」
辻は客席にギターを持たせる初期衝動としか、捉えられないようなプレイを見せながら、最後は広大にギターをプレイ
辻がまたギターノイズを作り出している中、三島はメンバー紹介するが、辻󠄀を「スーパーギタリスト」と称えつつ、

「岐阜から来ました、フェノメナルマンバンド、cinema staffでした!!」

と自らが超常現象を起こすバンドと高らかに宣言する自己紹介に
辻󠄀が自ら生み出したノイズを止めて、ステージを去ると来年2月から8週かけてLIQUIDROOMでライブする「BATTLE OF LIQUIDROOM & MASTER OF LIQUIDROOM」を発表
更に恒例の「OOPARTS」を4月に開催することも告知したが、Wアンコールを求める声は止まず

しかし戻ってきた辻は、

「映像流れたあとに、やるバンドいないでしょ(笑)」

と流れた後にやるバンドこと、SUPER BEAVERをほぼ否定しながら(笑)、来年のライブの告知を改めて行い、

「以上、オルタナティブロックの申し子、辻でした(笑)」

と恥ずかしがっていた自己紹介で締める自虐撃を行い、ステージを去った

かつてLINE CUBE SHIBUYAでワンマンした際、明らかに客席は裁けていなかった
2021年、まだライブしづらかった状況とはいえ、indigo la Endやストレイテナーはソールドアウトさせていたから、よりガラガラぶりは目立った

けれども昨年の野音ワンマンから明らかに状況が変わりだした
最初の野音よりも明らかに人がいたし、ほぼ満員御礼
昭和女子大学人見記念講堂ワンマンも7割方動員と、大きなタイアップやバズるような出来事は無かったのに動員は戻り始めた
そして今回、Zepp Shinjukuソールドアウト
過去にSUPER BEAVERが初のZeppワンマンをソールドアウトさせた時のことを思い出した
以前飯田は、

「新作をリリースする度に「これで世界を変えられる!!」「僕たちは変われる」と思っていて、それは昔から変わってない」

と話していたが、世界を変えられる準備は出来た
反撃の狼煙は完全に上がり、次の作品で本当にシーンを変えられそうな予感がしている

ここまで順風満帆かと言われたら、そうではない
それは飯田達も自覚しているだろう
かつてはポニーキャニオンがマネジメントになるほど、期待されていたが気がつくとシネマはインディーズに戻っていた
今日の学生はシネマを知っているのかと、自分は恥ずかしながら思っているから

でも大きなトピックは無いにも関わらず、シネマはZeppをソールドアウトさせた
超常現象を自称するバンドがZeppを完売
どう見ても大事件
とんでもないことを起こす前兆の予感がしてならない

愛や勇気を伝えることは負けてないバンドの16年目は来年始まる
きっと凄いハイライトを起こす
自分は今からそれを楽しみにしている
だからこのレポを読んだ方は、来年のリキッドルームシリーズ、是非来てほしい
今からシネマを聞いても遅くない、遅くない

セトリ
フェノメナルマン
想像力
海底
陸の孤島
drama
lost/stand/alone
great escape
flugel
橙の日 w/佐藤航
Name of Love w/佐藤航
青写真
HYPER CHANT
返して
優しくしないで
Poltergeist
望郷
I SAY NO
theme of us
(Encore)
希望の残骸