今日行われたA級順位戦の糸谷ー羽生は2勝3敗同士の寒い一戦。負けると下を向く戦いになる。この将棋も戦型は角換わり腰掛銀。先手糸谷がノータイムで飛ばし、1図はなんと10時42分断面のこと。

 

 指されてみるとなるほどではある。直前の局面の前例は4局で、実況欄によると『いずれも▲4四歩と取り込んでいる。そのうち2局は羽生が先手番、後手番で1局ずつ指したもの。』とのこと。その先手番というのが先日のNHK杯戦の対屋敷戦の惨敗譜である。羽生のことだから、敗戦後の総括は万全であろうと私は信じていたのだが、この手は読みの中に入っていたのだろうか。いずれにせよ、この手に対しては必然手の△5三玉しかなく、羽生は小考しつつも応戦を続ける。

 

 おや?と思ったのが、2図の△8六歩。一見して▲3二角成に△同飛が必然で歩の突き捨てが甘くなりそう。あるいは▲4三金△6二玉▲3二金の進行であれば金が遊ぶので余せると読んだか? 昼食をはさんでの長考の末の指し手だから、その辺は考慮されているのだろう。

 

 本譜は▲同歩となり突き捨てが通る。羽生はさらに自陣を顧みず、△4七歩。今度こそ通らないのではないか?と私はみたのだが、案の定で糸谷は角を切る。△同飛に糸谷は▲5四金。なるほど、筋がいい。と金ができてしまうと、後手玉への攻めは特に難しい筋もなく、後手は逆に渡せる駒の制約がある。これは羽生勝てない、と私ですら分かった。

 

 こうなるなら2図では△5一桂と受けておけばよかったのではないか。歩成りは△同桂が銀当たりになるので、相当な抵抗力がある。

 

 これで羽生は2勝4敗。かつて1回だけトータルで3勝5敗となったことがあったが、あの時は降級が1名だけ。以降順位戦で彼が2つ負け越したことはなかったはず。ましてNHK杯戦で先手をもってぼろ負けした戦型を後手でもぼろ負けとは、残念過ぎる。前名人と19世名人が降級をめぐって競り合うという稀有な状況。ファンはどう腹落ちができるだろう。