今日は久しぶりに政策のお話をします。年金です。

     なお、この記事は千正が厚労省の公表資料や報道などを元に自分の知識で独自に書いています。分かりやすさと正しい説明を心がけていますが、厚労省に確認したものではなく、あくまで個人的な文章です

 

1.年金は75歳?

18日夜のネット記事や19日朝刊などに、年金の制度改正の記事が出ていました。

 

『年金、75歳からでも 65歳より月額8割増 厚労省案』 朝日新聞デジタル 

『年金受け取り開始時期、厚労省「75歳までの案」提示』 TBSニュース

など。

 

私が見たところ、報道に間違いはないと思いますが、やはり年金を理解するのは難しいですし、不安なイメージが先行しているからか、どうも「75歳にならないと年金がもらえなくなる。」と思っている方がいるようなので、簡単に解説してみたいと思います。

 

2.ニュースの元は?

10月18日に、来年の通常国会での年金改正に向けた検討をしている「厚生労働省社会保障審議会年金部会」の議論です。

 

報道をかいつまむと、

「厚労省は年金を受け取り始める時期を75歳からでも選択できる案を出して、目立った反対意見は出ず、厚労省はこの案に沿って改革案を取りまとめ、来年の通常国会への関連法改正案の提出を目指す。」

 

 

3.実際は何が変わるのか?

なるべく多くの方にわかりやすく理解していただくために、細かいところは思い切って省いて書きます。

現在の年金をもらう年齢の仕組みと、それがどう変わるのかを見てみましょう。

 

【現在の仕組み】

〇 年金をもらい始める時期は原則65歳

〇 ただし、実際にご自分が何歳からもらい始めるかは選べます。大きく分けると以下の3パターン

 

①原則通り65歳からもらい始める

②少し額が減ってもよいから、早めにもらい始める(60歳―65歳の間で選ぶ)

③遅くてもよいから、もっと後でより額の多い年金をもらい始める(65-70歳の間で選ぶ)

 

※いずれを選択しても、平均的な年齢まで生きた場合には一生にもらう年金額は同じように設計されています。もちろん個人によって、平均より長生きすれば一生にもらう総額は当然多くなります。早く亡くなってしまった場合は当然のことながらそこまでの年金額が一生分ということです

 

つまり、長い間少ない年金をもらい続けるか(②)、短い間だけど多い年金をもらい続けるか(③)を国民が自分で選ぶ仕組みなのです。

どれを選んでも得する可能性は理論上変わらないので、あとは本人のライフプランに応じて選んでくださいねということです。

 

【ニュースとなった改正案】

③の「65歳―70歳の間で選ぶ」 を 「65歳―75歳の間で選ぶ」 に変更

 

それだけです

 

高齢者の就業率が高まっており、今後も高まっていくと推計されています。また、平均寿命も延びていく見込みです。

それに合わせた『選択肢』を年金制度に増やそうというものです。

例えば、70歳を超えても元気で働いていて年金以外の収入がある場合に70歳よりももっと後に引退してから、より大きな額の年金を毎月もらえるようにすることが本人の希望で可能になるというお話です。

今と同様に65歳からもらい始めたい人には影響はありません。

 

(参考)高齢者の就業率の増加(10月18日年金部会の資料より)

 2017年と2040年の推計を比較

男性65-69歳 54.8%→70.1%  

男性70-74歳 34.2%→48.1%   

 

女性65-69歳 34.4%→53.7%

女性70-74歳 20.9%→32.4%

 

議事録がまだ厚労省HPに出ていないので報道以上の情報がありませんが、委員から目立った反対意見が出ていないようなのであれば、これから他の論点も検討した上で、今後改正法案につながる全体の報告書がとりまとまるのでしょう。

 

4.余談

私の母は、60歳になった時に「年金を早めにもらいますか?」というハガキが市役所から来ました。その当時の母は、テニスのコーチをしながら試合にも出ていて、本人は自分は現役バリバリだと思っているような人でした。

母は「冗談じゃない。私はまだそんな歳じゃない。これからまだまだ燃えてテニスをやっていくんだ。年寄扱いするんじゃない。」と怒っていました。

 

とても元気だった母ですが、60代後半で突然足腰が弱って歩けなくなり一時期寝たきりになりました。頑張ってリハビリをして、ある程度元気に歩けるようになったものの、その後進行した段階のガンが見つかり、結局女性の平均寿命よりだいぶ早く、77歳で亡くなりました。

 

もしかしたら、60歳からもらっていた方が、一生に受け取る年金の額は多かったのかもしれませんが、その頃は本人も元気でしたしおそらく経済的にも不要だったのでしょう。

 

スポーツが得意で元気だった母ように、予想外に平均寿命より早く病気で亡くなってしまうケースもあります。

 

逆に、60代から色々な病気で手術などをして、死にそうな時もあった父親は、幸いなことに今や男性の平均寿命くらいの年齢になっており、超元気というわけでもないけど今も普通に暮らしています。

 

このように、自分が何歳まで生きるかというのは中々見通しがつきません。

公的年金制度は、どんなに想定外に長生きしても、死ぬまで変わらずもらい続けられるというのが特徴で、高齢により働けなくなるというリスクをカバーするものです。

人生が長くなりライフプランや引退年齢が多様化する中で、その人に合った年齢からもらい始めようという考え方と思います。

(了)