今日はうれしい話を一つ。
政策の作り方について、このブログでも何度か書いていますが、12月に予算案も閣議決定されましたので、現場の取組がどのように国の政策につながっていくかという話を書いてみたいと思います。
1. 現場訪問の日々
僕は霞が関で政策を作るのが仕事なのですが、霞が関にばかりいると中々実態が分からず、自分が考えている政策(法律や予算など)が実態と合っているのか、つまり正しいかどうか判断がつきづらい、という悩みを若いころから抱えていました。
そこで、いつしか平日の夜や休日に、よくNPO法人などの現場にふらりと遊びに行くようになりました。そこで、たくさんのことを学び、政策を考える力をもらっていました。
2. 政策のシーズ
一口に現場といっても、いろいろな現場がありますが、特にNPO法人などの現場に行くと、学びが大きいと感じています。
制度や予算といった政策が光を当てることができていない社会課題をビジネスの手法を用いて解決しようとしているNPO法人が多くありますが、制度や予算といった政策が届いていない領域の情報というのが、最も霞が関で役所の中に座っていて届かない情報なのです。
そういう団体の活動には、必ず近い将来の政策ニーズがあります。そう、政策のシーズがあるのです。
3.居場所のない若い女性を支援するNPO法人bond project
今日は、その中でもNPO法人bond projectのことを紹介したいと思います。虐待を受けるなど家庭に居場所のない街をさまよっている女の子の相談に乗っている団体です。
代表の橘ジュンさんは、家出少女とか、座間の事件に関連して死にたい若い女の子についてなどについて、よくテレビや新聞などのメディアに出て発言されているので目にした方もいるかもしれません。
bond projectのことを書いた過去のエントリーはこちら
これを読んで、この頃から僕がこうした活動を政策に結びつけたいと強く願っていたことを改めて思い出しました。
4. 与党の提言
政策のシーズを発見したなら、なんとか予算化したり法律に位置付ける制度にできないかと思うのですが、新しい予算事業を作るためにも、たくさんの政策課題の中で法律改正を実現する過程も競争なのです。
つまり、政策に使えるお金(税収)が限られている中で、あらゆる政策課題の中のどれを優先して実施するかを政府全体のバランスの中で決めなければなりません。法律改正にしても毎年の国会の審議時間は有限ですから何十本も法案を国会に提出できるわけではありません。法案の多い厚生労働省でも、通常国会(1月から6月まで開催される長い国会)に提出できる法案の数は多くても10本がいいところです。必要性や緊急性の高いものを優先して提出することになります。
この政策の優先順位を決めるのに大きな役割を果たすのが政治であり、政治の意思決定を支える世論です。
行き場所のない、生きづらさを抱える若年女性がたくさんいること、支援の必要性があることをジュンさんたちはメディアにも政治にも伝え続けました。bond projectの他にも同じような素晴らしい活動をしている民間団体があり、そうした方々も伝え続けています。
こういう女の子たちを何とかして救いたい、支援する団体の活動が継続できるように国も支援しなければいけない、そんな思いを持つ政治家の方も多くなっていきました。そして、2016年12月に与党「性犯罪暴力被害者の支援体制充実に関するPT」の10の提言に以下のような内容が盛り込まれ、政府に検討要請がなされました。
6.被害が顕在化しにくい若年性暴力被害者支援
10代、20代の女性は性暴力にあっても、誰にも相談できず、自分だけで抱え込み、顕在化しにくく、支援になかなかつながらない。被害を未然に防ぐため、こうした若年性暴力被害者の実態及び相談・支援の現状を把握し、今後の相談・支援のあり方について検討を行うこと。
政治の側から行政に「支援策を考えろ」という宿題が出たのです。
5. ようやく予算案ができる
僕が最初にNPO法人bond projectに遊びに行ったのは2012年でした。その後、2013年夏から2016年夏まではインドの大使館に赴任していて、日本の国内政策には直接かかわっていませんでしたが、一時帰国の時に遊びに行って近況を交換したりしていました。
そして、僕は2016年夏にインドから厚労省に戻り、幸運にも古巣の若年女性や子どもの福祉の部局に戻ることができました。
そうした中で、与党からの宿題ももらってようやく若年女性の支援をする民間団体が継続的に活動できるような事業を予算案に盛り込むことができました。
【厚生労働省の予算案(抜粋)】
(5)配偶者からの暴力(DV)防止など婦人保護事業の推進 182億円(177億円)
・ 配偶者からの暴力(DV)被害者等に対して、婦人相談所等で行う相談、保護、 自立支援等の取組を推進する。
・ 婦人相談員による相談・支援の充実を図るため、一定の研修を修了した者につ いて勤務実態に応じた手当額となるよう、引上げを図る。
・ 若年被害女性等に対して、公的機関と民間の支援団体が密接に連携し、アウト リーチによる相談支援や居場所の確保等を行うモデル事業を実施する。
厚生労働省の予算案はこちら(上記の記載は72ページ)
6. むすび
予算案は、これから通常国会で審議されます。承認されると平成30年度にこの事業が実施されることとなります。
具体的にどのような活動をどのような団体が行うか、官民の連携や役割分担がどのように図られるかなど、関係者の努力は続きます。
さらには、30年度は数か所で実施するモデル事業ですが、よい形で運営され、さらに箇所数が増えて本格実施され、生きづらさを抱える女の子たちの安心できる居場所と未来に向かって生きる力を獲得できる場所がたくさんできることを望みます。
一例ですが、現場での取組が政策にどのように反映されるのか、一般の人には中々見えにくいと思いますし、もっと言うと現場の人にとっても想像がつきづらいように思います。そうしたことを知る一助になれば幸いです。