風のつぶやき

松本隆 書きかけの...1

詞のかけら、心の中で熟成

朝日新聞夕刊から

つんく♂(左)と初共作した「砂時計」。


クミコ(右)の抑制された歌で、かなしみの透明度が増した=東京・南青山のル・アンジェ教会

中嶌英雄氏撮影


海鳴りのもっと深くで

人魚たち 泣いてるみたい

無理やりに鋏(はさみ)で切った

愛だから逆に縺(もつ)れる

松本隆作詞・つんく♂作曲
「砂時計」から

 東京を離れて4年が経つ。いまは京都で多くの時間を過ごしている。


この街は人と人との距離が近い。そしてサブカルを応援する気風もある。


70年代の東京にはまだそんな空気があったけれど、このごろの東京ではどうもうまく書けない。


 「楽しく」がいまの僕のキーワード。思えばはっぴいえんども楽しいことを楽しくやっていた。


あのバンドの人気に火をつけたのも京都。


移住の背景には、東京一極集中への疑問だけでなく、原点に戻ろうという気持ちもあった。


 そんな新しい生活の中で、「初めての作曲家と組む」と掲げたプロジェクト、「クミコwith風街レビュー」が始まった。


クミコとは、様々な大人の愛を歌ってもらったアルバム「AURA」以来、18年のつきあいだ。


人の生死を歌って強い印象を残す彼女だが、そろそろいまの等身大のラブソングを歌ってもいいだろう。


 2100曲余り書いてきた僕が90年代以降に台頭してきたアーティストと組んだら、どんな化学反応が起きるのか。


昨年、秦基博(はたもとひろ)君や永積崇(ながづみたかし)君と作ったクミコのシングル2曲を第1弾として発表し、手応えをつかんだ。


続く4月19日発売の「砂時計」は、つんく♂に曲を委ねた。


 荒海を背に、ヒロインはたたずむ。


一見、演歌風な情景だが、光を感じるメロディーと浮遊感のある冨田恵一の編曲、そしてクミコの抑えた表現で都会的に仕上がった。


冒頭の2行は完全に中原中也へのリスペクト。



「海にゐるのは、/あれは人魚ではないのです。/海にゐるのは、/あれは、浪(なみ)ばかり。」で始まる「北の海」をイメージした。


 北欧の凍るような海の中、裸で泳ぐ人魚。かつて松田聖子の「小麦色のマーメイド」では、そんな人魚が人間に変身する痛みが意識下にはあったが、場面を南のビーチに置き換え、ある意味アンデルセンのパロディーともいえる。


『砂時計』のヒロイン

 恋人の定期入れを盗み見て、彼そっくりの息子と妻が写った家族写真に傷つき、関係を断ち切る決心をする。


不倫はもちろん悪いこと。


でも好きになってしまうのはしかたない。

そこにみんなで石を投げつけるような同調圧力が、どうも最近は強すぎるような気もする。


人間、生きていればつまずくこともある。


中年になっても恋はする。


60になっても、70になっても。


生きているのは痛いこと。

でも頑張る。

それしかない。

僕が描く人物たちも、みんなどこかでポジティブなのだ。


 詞に共感した人から、「よく女性の気持ちがわかりますね」と言われる。


僕をよく知る人に言わせれば「何もわかってない」らしいけれど。


曲の舞台を頭の中に整えると、主人公たちがすっと登場し、勝手に動き出す。


それがうまくいくと、女性にも男性にも届く普遍性のある詞になるらしい。


物語はだいたい妄想と願望
から出来ている

“こう書けばこう売れる”という計算は、とりわけ現代の音楽シーンでは成り立たなくなった。詞のかけらを思いつくと、メモはせず、心の中で熟成させる。


メモしないと忘れることは、忘れてしまった方がいい。


 そうだ、もうひとつ“計算外”のことがあった。

僕の詞を聞いて育ってきてしまった人たちが大勢いる、ということだ。


秋にアルバムとして完結する今回のプロジェクトの参加者たちも含めて。


これは、45年以上、詞を書き続けてきたご褒美かもしれない。

(構成・藤崎昭子)



 数々のヒット曲を手がけてきた作詞家・松本隆さんが、現在進行形の創作について語ります。

 次回は5月8日以降の掲載を予定しています。

本日28日(金)

松本隆TV出演
NHK《22:00~》


おまけ
はっぴいえんど

限定公開中の貴重なはっぴいえんどの映像(無声ですが)

管理者によって削除されるかもしれませんm(__)m

2015年 松本隆作詞家45周年コンサートで再結成された時の映像、松本隆さんのドラムソロ(1:49付近)が必見♪


昨日のユーミン
ポールのサイン♪




おしまい( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆