リオデジャネイロ五輪で女子レスリング4連覇を達成した伊調馨選手に、国民栄誉賞が授与されることが決まった。五輪での4大会連続の金メダルは、女子個人種目で世界初の偉業だ。

 「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があった者」が対象となる国民栄誉賞。国民に自信と勇気を与える偉業を成し遂げた伊調選手に相応(ふさわ)しい賞である。

 女子個人種目で世界初

 「五輪には魔物が棲(す)む」という言葉があるように、その大舞台で金メダルを獲得することの難しさは、世界の一流選手の多くが経験している。4大会連続金メダル獲得という偉業達成の背景には、人並み外れた努力と精進があった。北京五輪以降、東京に練習拠点を移し、ただ一人、男子選手を相手に練習を続けた。


レスリングで五輪4連覇を果たし、国民栄誉賞の受賞が決まった伊調馨選手が13日、東京都内で記者会見し、贈られた花束を手に、数字の4をつくって笑顔を見せた
 女子レスリングでは、五輪3連覇を含む世界大会16連勝を成し遂げた吉田沙保里選手が、2012年に国民栄誉賞を受賞している。「常勝」にこだわり続けた吉田選手に対し、伊調選手は「求道者」と呼ばれる。

 「こういう成績を出せたのも、レスリングの追求や研究を勝つこと以上にこだわってやってきたからだと思う」と、伊調選手は記者会見で語っている。

 感動的なリオ五輪決勝戦での逆転劇も「30点」と自己採点し、国民栄誉賞を受賞しても「自分にとっては通過点。まだ競技人生の半分かな」と語る。五輪4連覇は実に天晴(あっぱ)れな偉業だが、この求道精神こそ天晴れと言うべきである。

 リオ五輪で日本は史上最多のメダルを獲得し、大いに盛り上がったが、日本人が自信とすべきところは、この無欲・無償の探求心である。

 日本というよりも、世界の女子レスリングを牽引(けんいん)してきた伊調選手や吉田選手は、それぞれタイプこそ違え、「レスリング道」とでも呼ぶべき世界を築いてきた。

 日本では、柔道、剣道、茶道、華道など、一つの技芸をとことん極めようとする傾向があり、それらが一つの「道」となる。今なお生きるこのような精神、気風は、われわれ日本人の自信の源泉としていいものだ。

 14年に母トシさんを亡くした伊調選手は、リオ五輪で金メダル獲得直後、トシさんの遺影を胸に抱いた。吉田選手と父親の栄勝さん、シドニー五輪表彰台で母親の遺影を抱いた柔道の井上康生選手ほか、偉業達成の背景には、それらを支える多くの人々、とりわけ家族との強い絆がある。それらは「美談」に終わるものではなく、今の日本社会に示唆するところが小さくない。

 伊調選手は、5連覇が懸かる2020年東京五輪について「挑戦してみたいという気持ちになることもある」と意欲を示す一方、「若い世代にも指導していきたいという気持ちもある」と語っている。

 「レスリング道」継承を

 今後、現役を続けるかどうかについては「時間をかけて考える」という。いずれの道を進むにしても、伊調、吉田両選手が築いてきたレスリング道を、若い世代が継承し、極めてもらいたいものだ。

オピニオン&コラムの「ビューポイント」

応援団長の独り言

決勝戦の試合は、最後の最後まで諦めない!ということを学びました。感動を、勇気をありがとう!そして、国民栄誉賞受賞、おめでとう!