「35. オウム真理教と統一教会(前編)」からの続きです。

 

 

(8)地下鉄に猛毒サリンの散布

 

事件2日前の1995年3月18日に麻原の第一弟子である村井は、サリン散布の実行役5人と準備調整役の井上に、こう告げた。「君たちにやってもらいたいことがある。近く強制調査あるから、騒ぎを起こして強制捜査の矛先をそらすため地下鉄にサリンを撒く」

 

そして3月20日、実行犯メンバーは、各自指定された列車でサリンを散布した。その結果、乗客や駅員ら14人死亡し、約6,300人の負傷者が出るという未曽有の大惨事となった。

 

 

(9)遂に麻原の呪縛が解けた井上

 

井上は逃亡の末、5月15日に逮捕された。逮捕された後も、井上は麻原を最終解脱者と信じて留置所内で黙々と修行を続けた。取調官はこの若者の目を覚まそうと心の交流を試みましたが、井上は全く心を開いてくれない。

 

ある日、父親から手紙が届いた。父親は息子の出家には大反対で、麻原に直談判して出家を辞めさせようとした人でした。手紙の内容は、簡潔にいうと

 

「家族の誰もが君を恨んでいない。それより何の罪もなく尊い命を失った人、その家族の悲しみを考えてほしい。その事実に向き合うことで、君が今、何をなすべきか見えてくるはずです。」

 

というものだった。この手紙は井上の心に届いたようだ。

 

その数日後に、母親が直接吹き込んだ音声テープが届いた。この母親は幼い頃より井上に愛情を注ぎ、出家にも理解を示した心優しい人であった。嘉浩(よしひろ)は母親の肉声に耳を傾けた。

 

(母親)

『よっちゃん、家族みんなで、よっちゃんのことを見守っています。だから、何も心配しなくていいです。 正直にすべてのことを話すのです。それが、被害に遭った方々にあなたができる唯一のことです。すべてを話して、罪を償ってください。そして、もし許されるなら、いつの日か、よっちゃんが幼い頃からの夢だったチベットへ行けるように、お母さんは一生懸命。折っていますからね……』

 

母の声を聴いた嘉浩の目からは、みるみる涙が溢れてきた。

テープを聴かせた警部も、号泣する嘉浩を目の当たりにして、むせび泣いた。

 

それからも井上の悶絶は続いたが、逮捕から200日あまり経った日に、井上は遂にオウムからの脱会を決意した。

 

 

(10)井上から部下へのメッセージ

 

井上は教団内では「修行の天才」として尊敬されていた。オウム信者の誰もが井上の霊性の高さを知っていた。その井上が脱会するとは信者にとっては信じがたいことだった。そんな井上は信者に次のような手紙を送った。

 

(書籍より)

私と関わりがあったサマナ(注、出家信者)、信徒へ 

 

私のいう事を聞いてほしい。

今みんなが取り巻く現状、これこそが尊師こと松本智津夫氏の教えが真理と似て非なる教えであった事の現れであることに気付くべきです。そして私たちは偽りのない気持ちで自分自身の過去と現実を見つめる必要があると思う。

 

私達が尊師の意思という名のもとにおいて行ってきた様々なワークという名のもとにおいての修行について、みんなもどこかでこれでいいのかと疑問に思ったがことがあると思います。

 

しかしみんはこう言うでしょう。

「尊師は最終解脱者あり救済者なのだから、尊師に帰依し尊師の意思を実践することが修行だし、尊師と合一することが全てなんだ。大体事件のことなんて私達には関係ないし、どんな状態になっても尊師は間違っているはずがない。今だからこそオウム真理教を守るんだ」

 

しかし、今の私は決してそう思わない。

私は逮捕されて以来様々な方達の助けや、数多くのオウム真理教以外の書物を読むこと等により、私自身のオウムの修行において自分自身に偽っていたもの、自分が何でも信じようとしていたものから少し離れて過去を見つめるようになりました。

 

私はこのように思います。

私達が覚醒を得ようとするなら「最終解脱」なんていらない。

「救済者」なんていらない。

「尊師」も「正大師」も「正悟師」も「サマナ」もそんな階級なんていらない。

「教団」なんて何一つとして必要ない。

 

(中略)

尊師こと松本智津夫氏がマハームドラ―の名において私達弟子をヴァジラヤーナの修行に追い詰め、彼の要求を「グルの意思」に置き換え、彼の個人的なエゴや煩悩としか見えない指示を私達弟子にマハームドラ―の修行という名において実践させたにすぎません。また、単にエゴから生じる怒りでしかないことを、「真理を迫害している」「悪行を積んでいる、許せない」と言って、私達弟子に「これが自愛の実践だ」と言ってヴァジラヤーナという名においてポアを指示したり、メチャクチャな指示をするだけでしかなかったのではないですか。

(中略)

私は、ヴァジラヤーナの修行に入り疑問を少しでも持ったときには、皆が信じられないような「グルの意思」という何において恐怖を与えられてきました。

私達弟子が、救済と信じて行ってきた「グルの意思」は、尊師こと松本智津夫氏のそばに行けば行くほど、本当の救済とは程遠いのではないかと思われることがあまりにも多すぎました。そして矛盾を感じる気持ちを尊師こと松本智津夫氏は、私達弟子のエゴとして置き換え、絶えず新しい指示をマハームドラ―の修行として与え続け、私達の良心や常識を「グルの意思」という名のもとにおける修行として破壊し続けました。

 

一体どれだけの人達がポアという名のもとに殺され、その家族の人々が苦しんでしまったのか。一体どれだけの弟子が大きな犯罪を犯し、苦しんでいるのか。それでも、みんなはオウム真理教の実態を見ようとせず自分達に都合のいい部分だけを見ようとし、「尊師は絶対である」と信じていまだにすがってしまっている。

早くこの現実を有りのままに見つめて欲しい。

(中略)

私は16歳から逮捕された25歳の現在まで、自己の覚醒と、少しでも多くの人達が覚醒を目指してくれたらいいと願って尊師こと松本智津夫氏の弟子となって修行をし、多くの方を入信に導き、出家に導きました。しかしオウム真理教の本質が私達弟子を覚醒に導くものでないことが判った今、私は私と関わりのあったサマナや信者の方々に心から申し訳ないことをしたと思っています。

(中略)

教団や尊師こと松本智津夫氏から離れることは決して真理からの下向ではないはずです。私達一人ひとりが何者にも依存することなく、自分で考え修行し覚醒を目指そう。私達の自分自身の内側に宿っている仏性こそが究極の真理であると思います。

 

私は今、教団を離れても菩提心を養う努力をし続ける限り、いずれは自然に覚醒が生じるであろうことを確信しています。むしろ教団を離れてこそ私達が現代社会の中で当初純粋に目指した覚醒を得るための修行ができるのではないでしょうか。

勇気と自信を持って自分で考え、なすべき償いをした上で覚醒を目指す修行を今度は間違えることなく実践してください。

 

                  1995年12月26日  井上嘉浩 

(以上)

 

グルに絶対帰依していた井上が、なぜ、脱会に至ったのか。そして、どこが間違っていたのか、彼が信者に語り掛けた内容です。私は特に次の言葉が印象的です。

 

私達が覚醒を得ようとするなら「最終解脱」なんていらない。

「救済者」なんていらない。

「尊師」も「正大師」も「正悟師」も「サマナ」もそんな階級なんていらない。

「教団」なんて何一つとして必要ない。

 

私は、祝福はセレモニーとしてあっていいが、「血統転換」は教祖の権威を高めようとするだけで全く意味がないと考えています。人の善悪を狂わすような「救世主」なら必要ない。

 

その後、井上は事件には不可欠な準備調整役ということで最高裁で死刑判決が確定した。25歳という若さで逮捕された彼は、その後の23年を拘置所の中で暮らし、死刑が執行された2018年7月6日に48歳で人生を閉じた。

 

 

(11)高額献金を強要したことを悔いる韓国人牧会者

 

信者に間違った指導して後悔している人は統一教会にもいます。

韓国から希望を持って来日した牧会者もその一人です。

 

2023年10月24日の「報道1930」で放送された韓国人元牧会者の証言です。

 

 

  「これはなんだ?」

  「私は牧会者として日本にきたのに」

  「これじゃあ 牧会者というより、まるで集金係のようじゃないか

 

この人は、90年代に韓国から来日して、各地で教会長、教区長を務めた男性です。この男性は、「日本の信者に求められていた献金が韓国とあまりに違うことに愕然とした」と言います。

 

元牧会者の話が続きます。

 

  「この教会にはいくらの献金ノルマを決めたから、

   いつまでにノルマを達成しろと、

   ひたすらその連絡が来るんです。」

 

  「信者の給料では賄えないほどの献金ノルマが

   課されるので、結局 借金をしてまで献金するような

   状況を目の当たりにして」

 

  「これはあんまりだ」

  「こんなの間違っているんじゃないかと」と

 

これは韓国ではありえない論理による献金の要求でした。

 

  「日本は40年間 韓国を迫害し 

   強奪し抑圧したのだから

   その罪を償ってこそ、子孫が

   無事でいられるという論理を持ち出し

   韓国にない献金摂理が日本人には必要だと

   献金を通じて罪を償うのだと」

 

さらに先祖を大切に思う日本人の特性を利用した献金の引出し方法があることを知ったということです。

 

   「先祖を刺激するのです。

    先祖の問題を引き合いに

    恐怖を与えたりすると

    日本人の大半は恐れたり、そうか、と納得する」

 

   「日本人の特徴をうまく掴んで

    統一教会はそれを利用してきたんです」

 

   「私は文鮮明氏がそれを若い時に

    それをしっかり把握していたと思います」

 

   「だから日本にストローをさしたんです」

   「ずっと金を吸い上げ続けられるんです」

 

   「こりゃ~ ずいぶん吸えるな!」と。

 

このノルマは、いったいどこからくるのか

 

   「日本の責任者の上に総会長がいて

    指示は総会長から下ります」

 

   「総会長は無条件に韓国人で、

    結局すべて全ての指示は韓国から下る」

 

   「上が間違っていましたと、と言わない限り

    日本人はただついて行きますよ」

 

   「解散命令が出され任意団体になっても

    全てを韓国の本部から指示される組織構造が

    ある限り何も変わらない」

 

   「どれだけのお金が韓国に渡ったでしょうか。

    すべて文鮮明たちの私利私欲に

    使われたじゃないですか」

 

   「だから、もどかしいし、腹立たしいし、

    涙が出そうになるんです」

 

   「あまりに申し訳なくて

    私が献金を促した人たちに

    本当に申し訳ないいです」

 

   「あの人たちは皆、心に

    恨みを抱いているはずです」

 

   「今は恨みだと思っていない人もいますが

    後で知ったら、恨みを抱くことになる」

 

   「何のために、こんなにたくさんの

    お金を献金してしまったのだろうかと」

 

韓国人元牧会者の証言はここまでです。

 

ストローで吸い上げるとは、的をえた表現だと思います。

先祖解怨は最初は7代のつもりだったが、

 

  「これは、まだ吸えるぞ」

  「このまま120代まで吸ってしまえ」

  「まだ吸える。次は210代だ」

  「210代でもいいが、まだ残っていそうだ」

  「430代まで吸ってしまえ」

  「これで全部、吸い尽くしたようだ」

  「この辺にしておくか」

 

こんな感じだったのではないかと思います。

 

私は韓国人牧会者は、韓国人というだけで日本人に敬られ、いい給料を貰って、日本では、さぞ、いい気分で生活を送っていたと思っていました。しかし、こういう証言を聞くと、希望を持って来日した韓国人牧会者も、統一教会の犠牲者であったようです。

 

韓国人元牧会者の証言は以下からご覧になれます。

45分頃から始まります。

 

2023年10月24日「報道1930」

 

 

(12)一度、教祖に心を掴まれたら逃れられないのか

 

オウムの話に戻ります。

 

私はオウムの井上嘉浩、林郁夫の生涯を知って、本当に可哀そうな人達だなとつくづく思いました。彼らは皆、心から世界平和に貢献したいという動機で宗教の道に進みましたが、その結果、多くの尊い命を奪うことになりました。それはどうしてなのか。出会った人が悪かったとしか言いようがありません。

 

麻原の人心掌握の力は、私達の想像を絶するものだったと思います。私も麻原に出会っていたら井上、林と同じ人生を歩んだかもしれません。それでは一度教祖に心を掴まれたら逃れられないのか。私はその術はあると思います。

 

それは「これは、おかしいぞ」と思った時に恐怖心を取り除き、良心と理性で考えてみることです。理性とは、物事を道理によって判断することです。

 

私は「これは、おかしいぞ」と思ったのは、1991年に文教祖が北朝鮮を電撃訪問した時でした。私は文教祖と金日成が抱き合う姿に感激しました。しかし文教祖は、ここで意外なことを発しました。金日成が神を受け入れれば、北朝鮮は理想の国だよ」ということです。私は、ここで「えっ、理想国家は独裁国家なの?」という疑問が生まれました。私は理想国家ができても、国のリーダーは選挙で選ばれるべきと思っていたからです。

 

次に、文教祖が「絶対信仰、絶対愛、絶対服従」を言い始めた時でした。絶対服従?人間には5%の責任分担があるのに絶対服従はおかしいのではないか。そもそも「服従」という言葉自体に違和感がありました。

 

そして、先祖解怨です。先にも書きましたが先祖解怨など原理講論には存在せず、これまで教わったこともない。「こんなことを行うために献身したのではない」。信じていた宗教が変わったと思いました。

 

決定的であったのは、転勤で仙台教会に始めて行った時のことです。そこでは信者の名前と献金額が壁に大きく張り出されていました。そうすることで献金を競争させていたのです。私は愕然としました。「この教会は完全に狂っている」。それ以降、私は統一教会と距離を置くようになりました。

 

この時の教会長は韓国人でしたが、張り紙は韓国本部からの指示だったのでしょう。

 

 

(13)どうして世間は統一教会を解散させたいのか

 

私がオウム真理教と統一教会を同一視するつもりはありません。確かに、統一教会は多くの家庭を破壊させましたが、オウムのように殺人を行ったり、殺人を肯定する教義を持っているわけではありません。

 

それでは何故、世間はオウム真理教と統一教会を同一視するのか。それは、両者が世間とは価値観がかけ離れていると見えるからです。安倍元首相の暗殺事件では、事件そのものも衝撃でしたが、容疑者の母親の発言にも世間は驚きました。記者が事件について問うと、「教会に申し訳ない」でした。世間は当然、「安倍元総理に申し訳ない」又は「息子をここまで追い詰めて申し訳ない」が返ってくると思っていました。

 

さらに衝撃の事実がありました。韓国での修練会中に息子の自殺未遂の知らせを聞いても日本に帰らず、修練会を続けていたということです。世間の感覚からすると、息子が自殺未遂をしたと聞いたら、全てを投げうって息子のそばに駆け付けるのが母親だろうと思います。

 

これらを聞いて世間は、統一教会の信仰は恐ろしいものだと思いました。かつてはあの霊感商法をやっていた宗教団体だ。聞けば霊感商法の後も方法を変え、信者に高額献金をさせていたというではないか。そこには貧乏で辛い思いをして、教会を恨んでいる二世がたくさんいるという。容疑者は確かに悪いが、容疑者をここまで追い詰めたのは統一教会だ。

 

その結果、統一教会に対する嫌悪感、憎悪感は、当時のオウムに対するものと同じになりました。そしてオウムを解散させたのなら、当然、統一教会も解散させるべきだという意見が国民の大多数となってしまいました。

 

最後に最高裁がどういう判決を下すかは私には全く予想がつきません。確率的には半々だと思います。ただ私の気持ちとしては、信者の皆さんは、穏やかに信仰生活を送っているし、二世には全く責任がないことから、そういう人達のためにも宗教法人は残されてほしいと思っています。

 

そのためには、統一教会も大きく変わらなければなりません。一番、国民に解りやすいのは韓国から独立することです。田中会長は記者会見で、「もともと日本と韓国は対等です」と言っていました。法人としての位置づけは独立していても、宗教的には主従の関係にあるのは信者であれば誰でも知っています。

 

日本が宗教的にも韓国から独立することは、不可能に近いほど難しいことですが、それができなければ国民の見方は変わらないでしょう。

 

 

(14)最後に

 

私は1998年頃に退会しました。その理由も書きました。

しかし、信者の信仰を揺さぶるような出来事は2000年以降の方が大きいと思います。

 

  「真の子女の堕落」

  「メシア家庭の分裂」

  「終わる事のない先祖解怨」

  「独生女誕生」

  「安倍元首相 暗殺事件」

  「世間からのバッシング」

  「宗教法人解散命令請求」

 

これらの出来事は、どれを取っても乗り越えるのは大変だったと思います。実際、この過程で多くの人が教会を去っていったのではないでしょうか。それでも、今も信者として残っている人は、もはや何があっても揺るがない信仰を持った人々なのでしょう。

 

しかし全く悩んでいないという人は、さすがにいないと思います。特に、文教祖を差し置いて、自分こそキリスト教が2000年待ち望んだ再臨のメシアだと主張する独生女論は、受け入れがたいのではないでしょうか。今も信仰の整理がつかない人が多いと思います。私は独生女論が悪いとは言いません。何を信じるかは本人の自由です。

 

ただし、韓国本部は、これまで日本で築き上げた利権を手放すとは思えません。資金難に陥ったら、日本人の盲目的な信仰心を利用して必ず手を打ってくるでしょう。


私は自分が進むべき道を真剣に考え、悩んでいる人がいるならこう伝えたい。「これは、おかしい」と思った時は、「この思いは、サタンから来た」などと思わないでください。教会やアベルの指示を鵜呑みにしないでください。

 

文教祖は、「良心は神様に勝る」という素晴らしい、み言葉を残してくれました。その時は、神様から与えられた「良心」と「理性」で、とことん考えてみてください。

 

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