コーラス・ワイドな REMIX
ビートルズの「SGT. PEPPER'S LONLY HEARTS CLUB BAND」、「THE BEATLES」(ホワイトアルバム)、のようにこのところ毎年のようにリミックス版などが登場して話題になっている。そして遂に実質上のラストアルバム「ABBY ROAD」のリミックス版が登場した。
子供の頃から聴いていたビートルズの初期の作品の多くは、左右のチャンネルが無茶苦茶なバランスのステレオで、センターにボーカルがないために一方のチャンネルではカラオケ状態になっていた(笑)。
やがて定位も次第にボーカルがセンターに定位するようになるが、60年代のサイケを表すかのような実験的な音造り志向の最中だったのか、意図的にセンターに配置しない楽曲も中にはあって、それは最後のアルバムに至るまで完全にしなかった点は興味深い。
2009年でのリマスターまでの音は、今や時代は耳元でのヘッドホンステレオが主流の今では適さない感じもあって、そこでサージェントからのリミックスは、片チャンネルの偏っていたボーカルトラックをセンターにして、コーラスをそのサイドに跨らせるような配置にして実に聴きやすい仕上がりになっている。
(以下、掲載動画はYouTubeより)
Her Comes The Sun
ボーカル、コーラスは右チャンネルにある。シンセ、ギターは左。
ドラム、ベースはセンターにある。
ボーカルはセンターに配置。コーラスも両側に跨るので、聴きやすい。
何よりも1969年にモーグ・シンセサイザーをスタジオに持ち込んだジョージに感謝です。
When I'm Sixty Four
ボーカルは左チャンネル。コーラスは右。
センターはベース、ピアノ、ドラム。
1999年のYellow Submarine Songtrack バージョン。
ボーカル、コーラスがセンターになって聴きやすくなった。
コーラスはセンターのボーカルを跨る配置で立体感を醸し出している。
リミックスは、リマスターと違って、いわゆるトラックダウンをし直して、楽器やボーカルのバランスを調整する。これは、曲の印象を変えることにもなるので、みんなの脳内にある印象を損なうことなく仕上げることが重要になる。
今回のシリーズは全体的に、両サイドに張り付いた楽器を、少しセンターより配置したバランスにして、ばらつき感をなくしているように見える。左右よりも奥行き方向に広がりを持たせている印象だ。
アナログレコードからの2009年のリマスターで、最終形の認識だったが、リミックスを聴くと今の時代ではこちらが自然で、おそらく今後はこちらのリミックス版の音源が好まれて、ラジオなどでも耳なじみになっていくと思う。ジョージ・マーティンの息子さんがプロデュースしている所縁からも、現代におけるオリジナルと称しても頷ける点である。
<追記>ホワイトアルバムから
こちらはボーカルと楽器の配置が真逆になる面白い現象。
Birthday
「Ob-La-Di, Ob-La-Da」と同様に、センターに全ての楽器、左右にボーカルとコーラスを配置するという、逆転の試みがなされている。イントロではモノラル状態で聴こえ、歌パートになってステレオだと認識するトリック的な要素もある。それぞれの楽器がミックス状態になってしまい際立たないが、これはこれでいい。
ボーカルとコーラスがセンターになって、センターに閉じ込められてミックス状態になっていたギターAとBが左右に分散された。この曲はギターのリフが大きな特徴でもあるので、こちらの方が好印象に思える。
LPレコード時代からの2009年リマスターのオリジナルに対して、近年のリミックス・シリーズは、痒い所に手が届く的な施しがされて、現代にマッチしたミキシングを提供してくれた関係者の方々に感謝するばかりで、50年もの前の音楽を新たに聴ける幸せはありがたいことです。