おじいちゃんの夢 | 小野田せっかくなんてどこにもいない

小野田せっかくなんてどこにもいない

小野田せっかく(拙鶴)俳優部 新潟県出身
▷ドラマ 「虎に翼」「Believeー君にかける橋ー」「Re:リベンジ-欲望の果てに-」
▷Prime Video「沈黙の艦隊」
▷CM 楽天トラベル/コメリリフォーム
▷再現VTR 「ザ!世界仰天ニュース」
▷映画 「ハケンアニメ!」

「ドリンクバー」


おじいちゃんは言った

みな、困惑した

「おじいちゃん・・」

すると、念を押すようにまた言う

「ドリンクバー」

「おじいちゃん、それはファミレスにあって、それ単体じゃ、どこにもないの」

「バカなことを言うな。ある。あった」

ピシリと言う。

「どこに」

「それは忘れた」

おじいちゃんは都合良く忘れる。

「おじいちゃんはそこで何飲んだ?」

眉間に皺をよせ、記憶をたどっているような間があった。

「メロンコーラ」

「混ぜたんだ」

「何それ?」

知らないおばあちゃんが聞いた。

「いや、ドリンクバーだから、メロンソーダとコーラを混ぜることができるんだよ」

「で、メロンコーラ」

「うん」

「コーラメロンじゃないのかい?」

「いや、どっちを先に入れたかにもよるけど、そこは今問題じゃない。おじいちゃん、やっぱりそれはファミレスの、でしょ?」

「いや、違う」

おじいちゃんは塾の先生だった。

なんだか間違いの答えを諭すような口調だった。

おじいちゃんは死ぬ前にそこに行きたいと言う。

ドリンクバー。

それはファミレスにあるものじゃなく、おじいちゃんは、「ドリンクバー」という店があると言うのだ。

「ドリンクバー」

そんな店が本当にあるのだろうか。

店に入ると、あの、ファミレスにあるドリンクバーのセットがあるらしい。

各種ジュースが出る機械、

紅茶、コーヒー、スープなど。

まず受付でお金を払って、あとはご自由に、ということらしい。

それでずっといられるのか。

時間制限はないのか。

だって、ずっといられたら、それは経営的にどうなんだろうか。

いや、あるのか?

あったとしても、おじいちゃんは何故そこまでこだわるのか。

死ぬ前に行きたいところが

「ドリンクバー」

一体何が気に入ったのか。

まずはそんな店があるのか、そこを調べるところからだ。

「どうしても行きたいって言ってんだから、あるんだろ、賢一、連れてっておくれやす」

母さんが何故いきなり舞妓はんみたいになったかは謎だが、僕は絶対見つける、と決めた。

大好きなおじいちゃんの最後の望みだ。

まさかこの時点で、「ドリンクバー」の闇に、

触れることになることを

まだ僕は知る由もなかった。