NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構の伊賀公一氏・田中陽介氏と共に、関根ジローが事務局を務めるカラーユニバーサルデザイン推進ネットワーク(CUDN)の取り組みによって、全国的に消防採用時における色覚検査の在り方の議論が加速しています。このことについて、下記の通り自治研ちばに寄稿しました。

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1.執筆者

カラーユニバーサルデザイン推進ネットワーク(事務局:松戸市議会議員 関根ジロー・NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構 伊賀公一・田中陽介)

2.タイトル

消防採用時における色覚検査について ~99%の消防本部が「色覚異常があっても消防業務に差し支えない」と回答~

3.本文

◆はじめに

北川正恭 早稲田大学名誉教授が審査委員長を務める第12回マニフェスト大賞において、カラーユニバーサルデザイン推進ネットワーク(以下、CUDN)の「消防職員採用時における色覚検査実施状況調査」が、優秀政策提言賞を受賞しました。CUDNの取り組みによって、全国的に消防職員採用時における色覚検査の在り方について、議論が加速しています。私、関根ジローはNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構の伊賀公一氏・田中陽介氏と共にCUDNの事務局を務めております。

◆50人以上の議員がSNSなどを通じた呼びかけに賛同

CUDNは「超党派議員」「NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構と関連団体」「学生」が協力して、消防職員の採用時における色覚検査の実態調査し、その合理性を問題提起する取り組みと、色弱者(眼科では色覚異常)にとっても色の識別がしやすくなったチョーク(いわゆる色覚チョーク)を全国の学校に普及させる取り組みを行っています。
調査のきっかけは、関根ジローが、色弱の松戸市消防職員から「故郷である東北のある消防本部に就職したかったが、採用時に色覚検査を求められ門前払いされる可能性があったため、色覚を求めない松戸市消防本部(学生時代に住んでいた街でもある)を希望し入局することができた」という声をいただいたことをきっかけです。「同じ消防業務なのに、地域によって色覚を理由に就職制限されるのはおかしい」と思い実態を調査することにしました。
Facebookなどを通じて仲間の議員たちに共有し、全国的な消防職員採用時における色覚検査の実施状況がどうなっているか調査をすることを呼びかけた結果、2017年8月にCUDNのWebサイトを立ち上げることになり、9月には36都道府県50人以上の超党派議員や、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構、北海道カラーユニバーサルデザイン機構、人に優しい色使いをすすめる会、CUDをすすめる会に協力していただけることになりました。

◆色覚が採用に影響する理由は合理的か疑わしい

36都道府県の532消防本部で、(1)採用時に色覚検査をするか(2)その結果は採用に影響するか、というアンケート調査を実施しました。結果は、消防職員採用時において「色覚が採用に影響されない」と回答した消防本部が半数近くを占め(表1)、かつその理由について「色弱があっても消防業務に支障がない」と回答しています。
また「色覚が採用に影響する」と答えた理由(表2)をCUDNで分析したところ「合理的であるかは疑わしく、カラーユニバーサルデザイン推進をはじめとした職場環境整備・配慮で解決できる可能性が高い」ことが明らかになりました。
例えば、「運転免許/青赤黄色判別」(信号機の識別)は、色弱が運転免許の欠格事項となっていないので、事実誤認の可能性が高いです。炎や煙の色判別は、すべての隊員が炎(または煙)の色の違いに対応する知見を持っているか極めて疑問があります。
実際にとある消防本部に問い合わせたところ、炎や煙の色の判別をするための色票や試験方法は無いとのことでした。顔色などの判別は、色弱が医師免許の欠格事項となっていないなかで、消防職員に色覚を求めることは合理的ではないと言えます。
トリアージ判別(手当ての緊急度に従って優先順をつけること)については、トリアージタグの判断は必ずしも色だけではなく、タグの切り取り状況から判別可能です。加えて、色弱者にも判別しやすい新JIS安全色Z9103:2018 が2018年4月より施行され、この規格の判りやすいトリアージタグが発売されています。
ロープの色判別は、多様な色覚に配慮したカラーユニバーサルデザインを採用すれば解決できます。
そのほかの理由も、合理的とは言えず、環境整備・配慮で解決できる可能性が極めて高いです。

◆横浜市・野田市などの自治体で色覚検査廃止へ

そもそも、2001年に厚生労働省が労働安全衛生規則を一部改正して、雇入時健康診断における色覚検査を廃止し、就職に際して根拠のない規制を行わないよう通達がなされています。消防職員採用時において、色覚検査を実施する合理性が疑われる調査結果が明らかになったことで、色覚検査を実施している消防本部は見直しを迫られるのではないでしょうか。
実際に、CUDNの調査がテレビをはじめ多くのメディアで報道されたこともあり、横浜市・野田市をはじめ全国の自治体で色覚検査の廃止の動きが加速しています。2017年12月7日付の東京新聞によると、合否に影響しないとしながらも色覚検査を実施している横浜市の林市長は、「色覚検査は必要ない。消防局に改善してもらうように話した」と述べています。
今回の取り組みを通じて、色弱の年配者から「昔、『リトマス紙を判断できない』との根も葉もない理由で理系の大学に入れないなどの差別を受けた。子どもや孫に同じ思いをさせたくない。色弱者を排除するのではなく、社会の色彩環境を、多様な色覚を持つ様々な人にとって使いやすいものに改善していくという考えに感謝したい」と言われました。反響の大きさを実感しています。

◆野田総務大臣(当時)が消防庁に対応を検討するよう指示

国に対して消防職員採用時における色覚検査の必要性の有無について見解を求めるべく、大西健介衆議院議員に協力していただき、2018年2月18日の衆議員予算委員会において「消防採用時における色覚検査に関する質疑」をしていただきました。大西議員が「同じ消防業務を行っているのに、各消防本部によって色覚を理由に就職制限しているところと、そうではないところがあるのはおかしい」等の質問を行い、それに対して野田聖子総務大臣は、「消防庁として一定の考え方を示すなど、対応を検討するように指示を出した」ことを明らかにしました。
その後、同年3月28日、大西議員とCUDN事務局で総務省の小倉まさのぶ総務大臣政務官(当時)に対して「消防職員採用時における色覚検査の見直しを求める要望書」を提出しました。要望書の内容は下記の2点です。
1点目として、カラーユニバーサルデザインをはじめとした職場環境整備・配慮を推進することを、全国の消防本部に通知することです。
2点目として、消防職員採用時において色覚検査を実施する理由(色弱者を排除する理由)を精査し、その結果を全国の消防で共有すると共に(その結果を公表すると共に)、理由の合理性を説明できない時、色覚検査を実施している消防本部に対し色覚検査の廃止を通知することです。
小倉政務官から「大変に意味のある問題提起を頂いた。総務省としても色覚を理由として過度な就職規制が行われないような方向性で、見解を練り、全国に通知したい」との発言がありました。

◆総務省による調査・通知について
 
 総務省は2018年9月、全消防本部に調査を行いその結果を大西議員に公開しました。その結果は下記の通りでした。

【調査結果1】 採用試験における色覚検査等の実施状況
 ・検査(石原色覚検査表等。診断書提出含む)実施 376本部(51.4%)
 ・簡易検査(赤青黄三色の識別等)実施       20本部(2.7%)
 ・運転免許の有無を確認              96本部(13.1%)
 ・口頭で異常の有無を確認             6本部(0.8%)
 ・検査未実施                  234本部(32.0%)

 【調査結果2】色覚異常を有する職員の有無
 ・色覚異常を有する職員がいる          133本部(18.3%)
 ・色覚異常を有する職員がいない         322本部(44.4%)
 ・色覚異常を有する職員の有無が不明       271本部(37.3%)

【調査結果3】色覚異常に起因する消防業務への支障の有無
 ・そういったことがあったと考える         8本部(1.1%)
  →うち4本部でヒヤリハット事案の報告(運転等)
   いずれも配置転換等の人事上の配慮などで対応
   運転免許を所有していても、ヒヤリハットの可能性
 ・そういったことがなかったと考える       721本部(98.9%)
  →その理由として、225本部が「あらかじめ採用時に色覚検査・簡易検査等を実施」、
433本部が「色覚による支障等があったという報告を受けていない」を選択

 これらの調査結果をうけて、総務省は同年9月14日、「消防吏員の色覚検査の基本的な考え方について」を、各都道府県消防防災主幹部長・東京消防庁・各指定都市消防庁に対して通知しました(添付1)。

◆今後のCUDNの取り組み

総務省の調査結果は、“色覚異常に起因する消防業務への支障があった→1.1%”“なかった→98.9%”と、採用要件として完全に正常な色覚を求めることは適切ではない(採用時の検査が必要とはいえない)ことを裏付ける内容でした。しかしながら、総務省の通知では、“本人の自覚と周囲のサポート等により事故の未然防止等につながることもできるため、最終合格発表後にあらかじめ状況を把握することは必要”また“採用試験における色覚検査については厚労省通知の内容を踏まえ当該消防本部の規模や職員配置の状況等を考慮し、各消防本部等においてその実施の必要性を検討すること”と列記しており、今まで検査してきた本部も検査してこなかった本部も、どちらも検査実施を検討すべき、ともとれる内容で、パーセンテージを把握した意味を疑わざるをえません。
前述の2018年3月28日に、CUDNから総務省に対して提出した要望について、1点目についてはまったくノーコメントで、2点目については色覚検査廃止を通知せず、採用後に検査することをむしろ奨励する内容で、石原式検査票とパネルD15など具体的な検査方法まで示しました。このことについて、人間の色覚は多様で、生まれつき赤と緑の区別がしづらいほかにも白内障や緑内障、糖尿病網膜症でも色の見え方は変化することが知られており、また照らす光によって色の見えは大きく影響を受けることも見過ごされていて、採用時の色覚検査のみでヒヤリハットが防止できるものではないことを認識すべきであり、総務省は通知を見直す必要があると思われます。
CUDNとしては、今まで採用時に色覚検査をしてこなかった消防本部がこの通知により色覚検査を再開し、募集要項で「色覚検査あり」を見た色覚異常の若者が最初から受験を諦める、もしくは検査の無い消防本部を日本国中探して受験する、といったことが無いことを願います。
そして、総務省の調査・通知を受けてCUDNでは今後、下記の取り組みを行ってまいります。
1点目として、「自動車運転免許取得時に使う色覚検査=信号機の識別検査(石原式検査票やパネルD15ではないもの)を全国の消防採用で使うこと、及び運転免許証既得者は検査を免除する」ことを総務省・各消防本部に働きかけます。
2点目として、「多様な色覚に対応した職場環境整備・配慮(職場のカラーユニバーサルデザイン化)の推進」を総務省・各消防本部に働きかけます。

◆まとめ

現在、日本に色弱者は約300万人いて、男性は20人に一人、女性は500人に一人の割合とされています。消防に限らず、色覚を理由に就職制限される多くの職業について、これまでその合理性を誰もチェックしてきませんでした。今回、CUDNの取り組みによって、色覚に対する公的機関の見解を引き出せたことは前進であると思います。消防に限らず、国は色覚を理由に就職規制している他の業種についても精査・検証し、「合理的な理由があり、カラーユニバーサルデザイン推進をはじめとした職場環境の整備・配慮で解決できない業種」を明確化し、可能な限り職業規制をなくすことで、児童生徒が特定の職種を諦める必要がない社会を実現すべきだと思いますし、そのような社会の実現にむけてCUDNは引き続き力を尽くしてまいります。

(別添)
表1 色覚検査をするか、採用に影響するか
表2 色覚検査をする理由の要素
添付1 総務省「消防吏員の色覚検査の基本的な考え方について(通知)」抜粋