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今回の記事は、痛みに対する考え方が及ぼす影響について書いてみます。
痛みに関して、様々な考え方があります。
例えば、腰痛(ここでは、深刻な病態のない、一般的な腰痛を指す)について、「いつものこと。そのうち治る」と楽観的に考える人もいれば、「どうしよう。医者は大丈夫と言っていたけれど、こんなに痛いのは、何か問題があるんじゃないか。いつまで、この痛みは続くんだろう。痛みが完全に消えるまでは、体を動かさない方がいいのでは」と悲観的に考える人もいます。
痛みに関して、興味深い特徴があります。恐怖は不安に繋がり、不安は注意を生み、注意を向けると痛みは悪化するという特徴です(Patrick Wall著、横田敏勝訳. 疼痛学序説 痛みの意味を考える. 南江堂 2001)。
怪我や痛み、回復等に関するネガティブな考えは、恐怖や不安に繋がります。このことは、痛みや、関連する問題の悪化に繋がる可能性があります。
このことに関して、首の痛み(頚部痛)を例に挙げて、説明します。
例えば、むち打ち損傷と関連した症状の経過について、大学病院で働く職員を対象として、医師と、医師ではない人(事務員など、多様な職種を含む)を比較した研究があります(「頚部の痛みのマネジメント」の講習会で説明の予定)。
この研究の結果について、いくつか例を挙げます。
①医師ではない人の方が急性期の症状をより訴え、医師と比べて、5倍の人々が仕事を休んだ
②仕事を休んだ医師たちは数日以内に全員が仕事に戻ったが、医師ではない人たちは仕事に戻るまでに数日から1年以上かかった
医師は医学的な知識が豊富で、様々な病気や怪我の経過を見てきた経験があります。むち打ち損傷について、多くの場合、良好な経過を辿ることを知っていると思われます。こうした知識や経験が、恐怖や不安を和らげ、経過に良い影響を及ぼした可能性があります。
痛みや怪我、回復等に関するネガティブな考え方は、痛み関連の経過に影響を及ぼす可能性があります。こうした考えについても、評価(アセスメント)やアプローチの対象とすることが勧められます。
例えば、痛みの分野における最大規模の国際学会であるInternational Association for the Study of Painの頚部痛に関するfact sheetsには、(筆者注:回復のために)役に立たない考え方(unhelpful thoughts)等は、持続的な頚部痛と関連している可能性があり、もしこれらがあれば、マネジメントの戦略に含めることを考慮すべきということが書かれています。
痛み関連の様々な研究の積み重ねにより、治療に関する概念は、変化しています。
痛みの治療に関する過去の概念は身体組織に偏っているので、そうした概念に影響を受けている医療従事者は、患者教育などのアプローチへの関心は低いことが多いと思います。
しかし、痛みの現代的な概念では、身体組織と同等、あるいはそれ以上に、他の要素も重視します。例えば、心理社会的な要素や、行動、睡眠、不適切な生活習慣などは、痛み関連の治療で大きな役割を持っています。
痛みの現代的な概念では、痛みに対する悲観的な考え方も、アプローチの対象の一つに含まれます。患者教育は、単なる情報伝達の手段ではなく、痛みに対する考え方等を変えるための手段になり得ます。
痛みに悩む患者さんを担当する医療従事者は、身体的な要素に加えて、それ以外の要素についての知識も深める必要があります。痛みの治療において、これはとても大切なことなので、これからも書いていくつもりです。
(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp)