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痛みに「敏感」な状態とストレスが関係していることについて、過去の記事に書きました。

 

https://ameblo.jp/sekainokesiki/entry-12828066176.html

 

このことについて、具体例を挙げて、説明します。

 

交通事故による発症が代表的な例ですが、加速と減速が含まれる受傷機転(むち打ち損傷)によって引き起こされる症状のことを、whiplash-associated disorders(WAD)と呼びます。代表的な症状は痛みですが、他の症状も含まれます。

 

このような症状は、事故の大小にかかわらず、また、画像検査で骨折などの深刻な損傷がなくても現れるので、何が痛みと関係しているのか、議論が行われてきました。

 

過去の議論では、バイオメカニクス関連の研究結果を参考にした内容が多く、例えば車の衝突時に頸にかかる衝撃は結構大きいので、そのことが痛み等の症状と関係していると思われる等の内容が、関連する文献によく書かれていました。

 

しかし、エビデンスを集めて分析してみると、違った側面が見えてきます。

 

むち打ち損傷後(骨折や脱臼は含まない)の経過について、どのような要素が影響を及ぼしているのか、オーストラリアの大学や病院、研究機関に所属する専門家たちが、関連するシステマティック・レビューを集めて分析したメタ・レビューがあります(頸部の痛みの講習会で説明する予定)。

 

システマティック・レビュー自体が様々な研究を集めて分析したものですが、この研究はそうしたシステマティック・レビューを集めて更に分析しているので、いわゆるアンブレラ・レビューに近い方法と言えるでしょう(アンブレラ・レビューは、一般的に、エビデンスのレベルがとても高い手法と考えられている)。

 

このレビューでは、画像検査の結果(X線やMRI)や、運動機能の不全、衝突と関連する要素(加わった衝撃の方向、シートベルトやヘッドレストの使用、受傷時の車の速度など)は、受傷後の経過とは関連がないということが示されています。

 

つまり、衝突時の頸にかかる衝撃を含めた、身体的な要素やバイオメカニクス的な要素は、受傷後の経過にそれほど大きな影響を及ぼしていない可能性が考えられます。

 

身体的な要素が受傷後の経過に大きな影響を及ぼしていないということは、むち打ち損傷後に症状が現れる時期を考えても、理解できます。

 

むち打ち損傷後の症状について、早期に現れる場合もあれば、数日後、あるいはもっと遅くに現れる場合もあります。

 

むち打ち損傷後の症状について、もし身体的なダメージの影響が大きいのであれば、もっと早く症状が現れると思います。受傷直後は混乱して怪我や痛みに注意が向かなかったとしても、そうした効果は、それほど長く続かないでしょう。

 

例えば数日後に症状が現れるような場合、身体的な要素以外の何かが、症状に影響を及ぼしていることが考えられます。

 

むち打ち損傷後の経過に大きな影響を及ぼす可能性がある要因の一つとして、ストレスが挙げられます。

 

例えば、むち打ち損傷後に、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と関連する症状が現れる人がいることが、様々な研究で指摘されています(Al-Khazali et al. Psychiatric sequelae following whiplash injury: a systematic review. Front. Psychiatry 2022; 13: 814079)。

 

PTSDの症状について、受傷直後から現れる場合もあれば、数週間、あるいは数か月後に現れる場合もあります。むち打ち損傷後の症状も、遅れて現れることがあるので、ここに共通点を見出せます。

 

交通事故によるむち打ち損傷後は、ストレスが多くなりやすいです。受傷に加えて、保険会社とのやり取り等、様々なストレスを抱える場合が多いと考えられます。そうしたストレスが、痛みを含めた症状に影響を及ぼす可能性があります。

 

むち打ち損傷後における、痛みに「敏感」な状態とストレスの関係について、一つ例を挙げると、WADとPTSDのある研究参加者が、事故を想起させるような音声を聞くと、冷たさ等に関する痛覚過敏が悪化することが実験的な研究で示されています(Sterling M. Treatment of patients with whiplash-associated disorders. In: Turk DC, Gatchel RJ, editors. Psychological approaches to pain management: a practitioner’s handbook: The Guilford Press; 2018)。

 

このように、ストレスを感じることで、痛みに「敏感」な状態が強まる可能性があります。

 

痛みに「敏感」な状態について、例えば慢性的なWADのある患者では、中枢神経系の過敏性(hypersensitivity)が重要な役割を果たしていることが、システマティック・レビューによって示されています(頸部の痛みの講習会で説明する予定)。こうした変化に、ストレスも関係していることが考えられます。

 

この記事では、ストレスと痛みの関係について、むち打ち損傷後の痛みを例に挙げながら説明しました。

 

痛みがある患者さんと接する医療従事者は、身体的な要素だけでなく、ストレスを含めた心理的な要素などの影響についても勉強すべきだと思います。そうすることで、より効果的な医療を提供できるようになると思います。

 

(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp