皆さんは、捻挫などの怪我(軟部組織の損傷)をした時の対応について、RICEという用語をご存じでしょうか。

 

怪我をした後の対応について、分かりやすい用語として、RICEは広く普及してきました。

 

しかし、RICEに関して、実はかなり古い用語であり、損傷の対応で重視される要素などの変化に伴い、別の用語が提唱されてきました。

 

 

<怪我をした後の対応>

・RICE:R(Rest:安静)、I(Ice:冷却)、C(Compression:圧迫)、E(Elevation:挙上) 

*後にP(Protection:保護)が加わり、PRICEになる

・POLICE:P(保護)、OL(Optimal Loading:最適な負荷)、I(冷却)、C(圧迫)、E(挙上)

・PEACE and LOVE:P(保護)、E(挙上)、A(Avoid anti-inflammatories:抗炎症薬を避ける、冷却も避ける)、C(圧迫)、E(Education:教育) & L(Load:負荷)、O(Optimism:楽観的な考え)、V(Vascularisation:血流の増大)、E(Exercise:運動)

*抗炎症薬について、特に、量が多い場合、回復にネガティブな影響を及ぼす可能性があると、この用語では考える

 

 

まずRICEという用語について、1978年に発表されたSportsmedicine Bookという文献に初めて記載されたようです。その後、この用語は様々な分野で広まり、医療関係者以外でも知られる用語になっていきました。

 

しかし、RICEについて、質の高いエビデンスの不足に加えて、回復の段階に応じた適度な負荷を加えていく方が好ましい等の観点から、RICE(PRICE)に代わってPOLICEという用語が2012年に提唱されました(Bleakley CM et al. PRICE needs updating, should we call the POLICE? Br J Sports Med 2012; 46: 220-221)。

 

POLICEについて、R(安静)がOL(最適な負荷)に代わっていることがポイントです。怪我の後の初期には安静も必要ですが、長期間の不必要な安静は回復にネガティブな影響を及ぼします。回復に応じて、徐々に負荷を増やしていくという考えが、この用語に反映されています(こうした考えは以前からあったが、このことを改めて用語に盛り込んでいる)。

 

そして、2020年(論文として発表された年。2019年、論文化される前に、British Journal of Sports Medicineのブログに既に掲載されている)に、新たな用語が提案されました。

 

RICEやPOLICEは急性期の対応に焦点を当てていて、亜急性期やそれ以降(chronic)の段階における対応は重視されていません。そのため、そうした段階も含めて、より効果的な対応ができるように、PEACE and LOVEという用語が作られました(Dubois B et al. Soft-tissue injuries simply need PEACE and LOVE. Br J Sports Med 2020; 54: 72-73)。

 

PEACE and LOVEを適用する際には、怪我の直後はPEACEに基づいた初期対応を行い、数日後からはLOVEに基づく対応を行うとされています。

 

この新しい用語は話題になり、様々な人々によって言及されています(例えば、海外のサイトでは、あちこちでこの用語が紹介されている)。

 

PEACE and LOVEについて、RICEやPOLICEにはない、注目すべき点が二つあります。

 

一つ目のポイントは、心理社会的な要素が含まれていることです。E(教育)やO(楽観的な考え)など、心理的な要素にも焦点を当てた内容になっています。

 

痛みの分野もそうですが、現代の医学は生物医学モデル(身体的な要素を重視したモデル)から、生物心理社会モデル(身体的な要素だけでなく、心理社会的な要素なども含めて、より全体的な視点から対応を考えるモデル)へと考え方が変化しています。この新しい用語は、そうしたポイントもしっかりと押さえている、より実用的なものだと思います。

 

そして、二つ目は、冷やすこと(Ice)が含まれていないという点です。

 

新しい用語では、炎症反応は組織の回復と関連しているので、冷やすことについて、標準的な治療としては再考を促しています。

 

冷やすことによって血管新生などが妨げられて、好中球やマクロファージなどの侵入を遅らせ、組織の回復に悪影響を及ぼす可能性があると、この用語では考えます(この説明について、Duboisらの論文を参考)。

 

寒冷療法(冷やすこと)について、痛みへの効果に関しては、私もブログに書いたことがあります。寒冷療法について、前向き研究(prospective studies)によるエビデンスはほとんどないということがアスリートの痛みに関するIOC(国際オリンピック委員会)の声明に書かれていることや、コクランのシステマティック・レビューも含めて寒冷療法の効果の低さを指摘する論文があること等をその記事で書きました。

 

https://ameblo.jp/sekainokesiki/entry-12815768150.html?frm=theme

 

冷やすことについて、いくつかの状況では部分的に有効かもしれませんが、その効果については、従来考えられていたものとは異なる部分がある可能性があります。今後、更なる研究が求められます。

 

医療従事者の勉強について、重要なのは、「常識」に捉われず、定期的に知識を更新していくことだと思います。医療の世界は日進月歩であり、古い知識が更新され、それまでの見解が変わるということはあります。新しい見解をどう捉えるのかは人によって異なるかもしれませんが、いずれにしても、医療従事者は、定期的に知識の更新をしていく必要があると思います。

 

(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp