今回は、痛みについての記事を書きます。

 

痛みは身体的な要素だけでなく、心理社会的な要素や睡眠の問題などの様々な要素と関係しています。そのため、痛みに関するアプローチにも、様々なものがあります。

 

痛みに関するアプローチの中で、ちょっと興味深いというか、「なぜ痛みが減るの?」と不思議に感じるようなアプローチの一つに、ミラーセラピーが挙げられます。

 

ミラーセラピーは、その名称が示すように、鏡を用いて治療を行います。

 

ミラーセラピーについて、脳による腕や脚の位置の把握は、体性感覚(触覚や振動覚など、皮膚や筋肉などと関係する感覚)によるフィードバックよりも、視覚によるフィードバックを好むという性質を利用しています。鏡を見ることで、視覚によるフィードバックが得られます。

 

具体的な方法として、例えば右手に痛みがあれば、右手を鏡の後ろに置いて見えないようにします。そして、左手は鏡面の前に置きます。それから、鏡に映る左手(鏡の中では、右手のように映っている)を見ます。その状態で、様々な課題を行います。

 

これだけ書くと、ほとんど鏡を見ているだけのように思えるかもしれません。

 

それでは、この治療にどのような効果があるのでしょうか(*)。

 

例えば、いくつかの有痛性の疾患に対して、研究で効果が示されています。

 

例えば、幻肢痛(病気や怪我などで、腕や脚の一部を切断した後に、生じることがある痛み。切断して、失われたはずの身体部位に、痛みを感じる)について、上肢と下肢の両方で痛みを減らす効果が示されています。

 

そして、CRPS(複合局所性疼痛症候群。外傷などの後に、痛みや浮腫、筋委縮などの様々な変化が起きる状態)の主にⅠ型(神経損傷が明確ではないもの)で、痛みを減らす効果が示されています。

 

また、脳卒中後の片麻痺についても、運動機能と感覚機能の向上に加えて、半側無視の改善も見られました。

 

このように、痛みに加えて、他の要素についても研究が行われてきた、興味深いアプローチです。

 

しかし、ミラーセラピーについて、ただ用いるだけでは、望ましい効果が得られないかもしれません。

 

なぜか。ミラーセラピーを脳への刺激の一種として考えると、刺激にも強弱があることが、理由の一つとして考えられます。

 

これはミラーセラピー以外の治療もそうですが、治療について、適切な負荷(強度)を考える必要があります。

 

例えば運動について、強すぎる負荷で行うと、怪我などが発生してしまい、望むような効果が得られない可能性があります。また、負荷が低すぎる場合にも、あまり良い効果は得られないでしょう。適切な負荷を用いることが、成功へのポイントの一つとして挙げられます。

 

ミラーセラピーも脳への刺激の一つと考えると、刺激が強すぎれば、望ましい効果は得られないでしょう。痛みがある人の状態は様々なので、ミラーセラピーが刺激として過剰である場合には、もう少し弱い、別のアプローチから治療を始めると良いかもしれません。

 

また、ミラーセラピー自体についても、その方法によって、刺激の強弱があると考えられています。患者さんの反応によって、様々な方法を使い分ける必要があるでしょう。

 

ミラーセラピーは興味深いアプローチですが、良い効果を期待するのであれば、工夫をすることが望ましいと思います。私が開催している講習会の中で、<痛みに「敏感」な状態への対応>という講習会で、ミラーセラピーについて説明しています。

 

痛みに「敏感」な状態は、生活の質の低下や、強い痛みの発生、痛みの長期化などに繋がることがあり、医療従事者は勉強しておくべきテーマだと思います。

 

痛みに苦しめられている患者さんは多いです。痛みに詳しい医療従事者が増えて、患者さんの苦しみが改善されることを期待しています。

 

 

*効果に関する、記事の中の三つの具体例について、以下の文献を参考に記載

Lamont et al. Mirror box therapy - seeing is believing. Explore 2011; 7: 369-372.

 

(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp