今回の記事は、最近のテーマとは異なる内容について書きます。
私は、海外で痛みの勉強をして、痛みに関する講習会を開催しています。今回の記事について、痛みの持つ様々な特徴の中から、一つ書いてみたいと思います。
それは、痛みは心理的な要素の影響を受けるということです。
痛みについての考え方は、時代によって変化してきました。
昔は、生物医学モデルという考え方が基本でした。痛みは病気や損傷によって生じるものであり、他の要素、例えば心理的な要素の変化は痛みによって二次的に生じるものという考え方でした。
しかし、このような考え方は、痛み関連の研究の蓄積によって変化していきます。様々な研究の結果、心理的な要素や不眠といった、従来は二次的な結果(痛み→他の要素)と考えられていた要素が、痛みに影響を及ぼしている(他の要素→痛み)ということが分かってきました。
今では、痛みと他の要素は互いに影響を及ぼし合っている(痛み⇆他の要素)という考え方が、痛みの専門分野では主流になっています。
これは治療効果も同様です。
例えば、痛みについて、「プラシーボ効果」と呼ばれる現象が起こることがあります。これについて、簡単に言うと、実際には効果がないこと(例えば、カプセルの中に小麦粉を入れた、薬のように見せかけているが薬ではない物)によって、痛みが減るという現象です。
プラシーボ効果について、それが表れやすい状況があります。例えば、医療従事者と患者の間に強い信頼関係がある、何かの治療について効果があると強く信じている、治療を行う設備が豪華であるといったことが挙げられます。
例えば、以下の二つの状況について、想像してみてください。
①建物と設備が豪華な大病院で、痛みの治療で有名な医療従事者に治療を受けた
②小さなクリニックで、名前が知られていない、経験の浅い医療従事者に痛みの治療を受けた
何となく、①の方が、効果はありそうな気がする人は、多いのではないでしょうか。
しかし、治療の内容について、もし①と②のどちらも全く同じ内容だとしたら、どうでしょうか。
このような場合、もし治療効果に心理的な要素が全く影響しないのであれば、治療の内容は同じなので、①と②は同じような効果になるはずです。
しかし、内容が同じであっても、①の方が、一般的には効果が出やすいだろうと思います。これは、心理的な要素が効果に影響を及ぼす可能性があるためです。特に、痛みのように心理的な要素が影響を及ぼしやすい症状では、このような傾向が現れやすいと思います(ちなみに、大病院に行くことを勧めている訳ではないことを、念のために書いておきます。あくまで、心理的な要素の影響についての話です)。
痛みに及ぼす心理的な影響について、もう一つ例を挙げます。痛みに関する著名な研究者を著者に含めた、痛みと関連する文献(Explain Pain)に、薬の外見と効果についての興味深い内容が記載されています。
薬の外見は、効果に影響を及ぼす可能性があります。例えば、着色された内容物が入っているカプセルは、白色の内容物が入っているカプセルよりも効果的であることが指摘されています。
このことは、痛みの持つ特徴を考えれば、ありうることだと思います。着色された、あるいは変わった形の薬は、いかにも普通といった外観の薬と比べると、薬の成分が同じであったとしても、心理的な要素の影響から効果が少し変わる可能性があると思います。これも、心理的な要素が影響を及ぼしやすい症状では、そのような傾向が現れやすいと思われます。
心理的な効果が及ぼす影響について、状況によって影響の程度は変わると思いますが、それでもその影響はとても大きいことが様々な文献で指摘されています。そして、心理的な要素の影響は、ポジティブな方向に働くこともあれば、ネガティブな方向に働くこともあります。
このように、痛みについて、損傷や病気による、身体組織の病的な変化だけでは理解できません。身体的な要素は重要ですが、それだけではなく、心理、社会、行動、睡眠の問題など、様々な要素を考慮することの重要性が、痛み関連のガイドラインを含めた様々な文献で指摘されています。
もし、ご興味があれば、痛みの持つ様々な特徴について、講習会でご説明します。
痛みについて、学べば学ぶほど、興味深い症状だと思います。痛みに悩まされている方はたくさんいらっしゃるので、多くの医療従事者が、痛みについての知識を深めることが大切だと思います。
(この記事について、当ブログの管理人が運営しているサイトにて、管理人自身が執筆した記事を見直して修正を加えたものです。https://www.tclassroom.jp)