「米中の狭間で動く韓国の苦悩について」(真田幸光氏) | 清話会

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「米中の狭間で動く韓国の苦悩について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

少なくとも表面的には、
「北朝鮮を意識して」
と前置きして実施されている、朝鮮半島有事を想定した恒例の「米韓合同軍事演習」が韓国全域で開始されている。

最近の相次ぐ北朝鮮の核実験や弾道ミサイルの発射を受け、今年は過去最大規模で行われていると報告されている。
北朝鮮は既にこれに対して強く反発しており、実際に、北朝鮮軍総参謀部は、上述した米韓合同軍事演習が始まったことを受けて、
「わが軍は超強硬対応措置で立ち向かう」
とした報道官談話を発表した上で、
「核戦力を中枢とした自衛国防力と先制攻撃能力の強化を図る」
ことも改めて確認している。
 
予想通りの北朝鮮の反応と言える。
 
しかし、今年はこうした北朝鮮の動きと共に、中国本土政府が米韓合同軍事演習を前後して、韓国を牽制しているとも見られる姿勢を強めている。

その背景には、この米韓軍事演習と共に、米韓両国軍による最新鋭ミサイル防衛システム「最終段階高高度地域防衛(THAAD)」配備が粛々と進められており、これに反対する中国本土の外交姿勢があると見られており、中国本土政府は、この配備用地を提供した韓国財閥・ロッテグループにまでも猛反発しているとの見方も、韓国国内では強まっている。
 
こうした結果として、ロッテグループに対する不買運動も中国本土で起き、ロッテグループは苦境に立たされている。

韓国の主要企業の一つであるロッテグループもこうしたことから経営が厳しくなっていると見られ、引き続き動向をフォローする必要があろう。
 
尚、日本の朝日新聞をはじめ、一部マスコミは、
「中国本土の国家旅遊局が、北京市内の旅行会社に3月15日以降の韓国への団体旅行を中止するよう口頭で指示を出していたことが旅行業界関係者の話で分かった」
といった主旨の報道を行っているが、これも、上述したTHAAD(サード)配備に中国本土政府が強く反発した結果であり、中国本土の韓国に対する報復の一環とも見られている。

こうして、現行の韓国政府が、米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「THAAD、サード)」の在韓米軍配備を進める中、これに反対する中国本土政府が韓国への「経済報復」を本格化させつつあると見られ、韓国経済の対中依存度に、韓国国内では、改めて関心が集まっている。

即ち、韓国は、経済成長の中核の一つに輸出があり、その輸出の約4分の1が中国本土向けと対中依存度が高い中、中国本土政府の事実上の報復がエスカレートすれば韓国の打撃は避けられないとの韓国の懸念である。

少なくとも、軍事的には、米国に依存すべきとする韓国の現政権の判断に対して、次期政権が中国本土寄りになるとの期待感も含めた見方を示す中国本土政府が、韓国に対してこのまま圧力を加えていくと、韓国は、米中の狭間で、所謂、
「股裂き状態」
ともなりかねない。

ここで、もう少しだけ詳細に眺めておきたい。

韓国経済は、第二次世界大戦以降は、対米、対日貿易依存度が高かった。
しかし、中国本土との国交を回復、その中国本土が「潜在的な消費者の数、潜在的な労働者の数」と言う視点から見た圧倒的な強みを徐々に発揮し始めた2000年代に入り、韓国にとっての最大貿易相手国は中国本土となり、また最大の直接投資相手国も中国本土となっている。

こうした状況下、韓国にとっては、中国本土の経済発展の持続は、最大の関心事となっているとも言え、また更に、韓国にとっては、中国本土との共存共栄をより強固にしていく上では、貿易、直接投資の拡大は最も有効な方法であるとの認識の下、韓国政府が対中外交姿勢を強めつつ、対中経済関係を強化してきた中にあって、上述したような、
「中国本土との事実上の関係悪化=中国本土の韓国に対する牽制、圧力の拡大」
は厳に回避したいところであろう。

韓国と中国本土の貿易総額は、中韓両国が国交を正常化した1992年には僅か64億米ドルであったが、今や中国本土は韓国の総貿易の約25%のシェアを占めており、韓国経済を牽引しているとも言える。

韓国の対中貿易の特徴をみると、輸出、輸入共に部品などの中間財が占めるシェアが高く、加工貿易による輸出、或いは中国本土国内で生産活動をしている韓国企業との貿易が多いからと見られているが、昨今は、
「中国本土企業の実力向上を背景にして、韓国からの中間財の輸入を、中国本土は敢えてしなくてもよい状況になりつつある」
とも見られている。

そして、むしろこれまでとは逆に、中国本土製品が技術向上に伴い、最近は韓国が中国本土から輸入する製品が多くなってきており、主導権は韓国から中国本土に移りつつあるとも言えるのである。

こうした主客逆転の中では、既に中国本土政府は韓国に対して、その主導権を発揮するかのように、多くの商品分野でダンピング調査を実施しており、中韓両国で貿易摩擦が増える可能性もある。

また、韓国に対する中国本土企業の投資も増加傾向を示しつつあり、こうした点からも、更に、
「主客逆転」
が進む可能性があると見られているのである。
 
このような状況に、上述したTHAAD(サード)配備と言う政治的、軍事的課題が中韓関係に起こり始めていることは、韓国政府にとっては正に「頭痛の種」となっているのではないだろうか。

しかし、韓国の悩みはこれに留まらないと思われる。
筆者の見るところでは、例えば、柳副首相兼企画財政部長官が、対米経済関係に関する苦悩の色を示しており、柳副首相は、
「対米黒字幅を減らすために努力する。」
と公言したものの具体策が示されておらず、米国・トランプ政権からの圧力も一方で、今後は強まる可能性もあるのである。

韓国政府・関税庁が分類した97の貿易品目のうち、韓国が黒字を出したのは39品目、赤字品目の58品目であるが、自動車と部品の韓国の黒字規模は197億1,300万米ドルとなっていると伝えられており、全貿易収支黒字の84.8%に達する。

更に、電子機器は73億3,200万米ドル、機械類は43億1,700万米ドルの黒字を記録しており、韓国が黒字を多く出した自動車産業などに対する米韓両国間の貿易不均衡解消がトランプ政権の大きな関心事となる中では、米国が優位性を持つ大型車が韓国では人気がなく、韓国製自動車は米国の中産層以下の階層を中心に価格競争力で高いシェアを占め、韓国製部品も米国企業に多く輸出されているという構造を、短時間に変えることはできないであろうと見られているのである。

トランプ政権の保護貿易主義的動きは表面的には強く、韓国はその対象国となっているが、これに政治・軍事的課題も加われば、韓国が更に、
「米国離れ」
を示せば、相対的弱者である韓国は、米国の動きによっても大きな被害を受けることは避けられないとも思われる。

最後に一点、こうした中、次期大統領選挙の行方が気に掛かる。
即ち、次期大統領が、「米国寄り」なのか「中国本土寄り」なのか、或いは「上手に米中の狭間で泳ぎきれる人物となるのか」を韓国ウォッチャーたちは気にしている。

そして、朴大統領弾劾決定は近く、今年上半期には次期大統領選挙が行われると見られる中、現在の最有力候補は、文在寅候補と見られている。

この文候補は、弁護士・市民活動家を前面に出した第19代国会議員で、ノ武鉉政権では青瓦台の民政首席や大統領秘書室長など大統領の側近として活躍した人物であり、THAAD(サード)配備が既成事実化しても中国本土と関係改善することが韓国外交の最優先事項と主張、象徴的な発言としては、共に民主党議員団の訪中を牽制した韓国大統領府を「情けない政府」と批判している人物であることから、
「中国本土寄り」
となるのではないかと見られているのである。

様々な不確定要因がある中、今後も米中の国際戦略の動きと、その狭間で韓国が如何に動くのかフォローしていく必要があろう。



真田幸光------------------------------------------------------------
清話会 1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・東京三菱銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している

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