過去最大や大幅増では実態を見誤る

2027年度概算要求をめぐり、「過去最大」「大幅増」といった数字が出始めている。数字だけを見れば、確かに増えている省庁は多い。しかし、今年の予算は前年の当初予算だけと比較すると、かなり実態を見誤る可能性がある。

 

日本みらい研では、8月24日、2027年度概算要求は、前年の当初予算だけではなく、「前年当初+前年度補正」で見る必要があるのではないかという見方を示した。

 

今年は、補正予算への依存を減らし、恒常的な政策を当初予算へ移す方向に、予算編成そのものが変わろうとしているためだ。各省庁の要求額がほぼ出揃ってきたことから、先日示した「当初+補正」という物差しを、実際の数字に当てはめてみることにした。

 

結論から言えば、物差しそのものは間違っていなかった。しかし、それでも消えない大幅な増額がかなりある。

 

そのため、8月24日時点の見方は、一部修正する必要がある。そして、そこから見えてきた2027年度予算の姿は、単純な「膨張予算」という言葉だけでは説明しにくいものであった。


今年は、そもそも予算の作り方が違う

まず確認しておきたいのは、2027年度の予算編成が、従来と同じルールの延長ではないことである。政府は「責任ある積極財政」を具体化するため、これまでの一律抑制型の予算編成を見直す方針を示している。

 

特に、危機管理投資や成長投資を対象とする『「強く豊かな日本」投資枠』については、要求上限、いわゆるシーリングを設けず、事項要求も可能とする仕組みを導入した。

 

同時に、補正予算は真に緊要性の高い施策に限定し、恒常的な政策については当初予算に計上する方向も明記している。したがって、8月24日に「従来型シーリングの事実上の撤廃」と書いた点は、少し正確に言い直した方がよい。

 

全予算について、無制限に要求できるようになったわけではない。正確には、一律抑制型の考え方を見直し、特に「強く豊かな日本」投資枠では要求上限を設けない仕組みに転換した、ということである。この違いは重要である。


予算を「当初+補正」で見ると景色は変わる

8月24日に考えた仮説が最もよく当てはまったのが、環境省である。2026年度当初予算は4,875億円。これに対し、2027年度要求は1兆1,451億円+事項要求である。当初予算同士だけを比べれば、2倍を大きく超える。これだけを見れば、典型的な「膨張」に見える。

 

ところが、2025年度補正には5,711億円が計上されている。2026年度当初4,875億円と合わせると、1兆586億円である。2027年度要求との差は865億円であり、増加率にすると約8.2%まで縮む。環境省自身も、当初予算と補正予算を並べる形で資料を作成している。

 

つまり、「前年当初だけで比較すると、今年の増額を大きく見せすぎる場合がある」という8月24日の見方は、間違っていなかった。

 

外務省も同じである。外務省資料では、2026年度当初8,170億円と2025年度補正1,844億円を合わせた1兆14億円を比較の基準に置き、2027年度要求を約1兆2,000億円+事項要求としている。今年の予算を分析する上で、「当初+補正」という物差しはやはり必要である。


しかし、「補正から当初へ移しただけ」ではなかった

ここからが、今回の答え合わせである。8月24日時点では、「当初予算が大きく見える理由のかなりの部分は、補正から当初への移行で説明できるのではないか」と考えていた。しかし、各省庁の数字が揃うにつれ、それだけでは説明できないことが明確になってきた。

 

代表的なのが、経済産業省である。2027年度要求は7兆7,864億円。そのうち『「強く豊かな日本」投資枠』は6兆3,116億円に達する。

 

経済産業省は、2026年度当初3兆693億円と2025年度補正2兆2,009億円を合わせても5兆2,702億円である。それと比較しても2027年度要求は約2兆5,000億円、約48%多い。これは補正予算を当初へ移しただけでは説明できない。

 

AI、半導体、GX、経済安全保障などについて、政府が明確に政策的なアクセルを踏んでいる。つまり経済産業省については、「見かけの増額」ではなく、実質的な政策拡張であると考えるべきである。


国土交通省も「当初+補正」で見ても35%増

国土交通省も重要である。2027年度一般会計要求は8兆7,694億円。『「強く豊かな日本」投資枠』は1兆5,508億円である。

 

注目すべきなのは、国土交通省自身が前年当初だけではなく、2025年度補正のうち恒常的な経費まで含めた数字と比較していることである。

それでも、2027年度要求は約1.35倍となる。

 

ここでも、「補正を当初へ移したから大きく見えるだけ」という説明は成立しない。防災・減災、国土強靱化、インフラ更新、物流、交通網などを含め、明確に政策支出を増やそうとしている。


農林水産省も36.7%増

農林水産省も、大きく増やしている。2026年度予算2兆2,956億円に対し、2027年度概算要求は3兆1,377億円。36.7%増である。

 

公共事業費は7,026億円から9,003億円へ28.1%増。非公共事業費は1兆5,931億円から2兆2,374億円へ40.4%増となっている。投資枠も4,272億円規模である。

 

食料安全保障、農業構造転換、生産性向上などについて、農政も従来より強い投資型へ動いていることが見える。


総額3%増でも、中身は134%増

逆に、「総額だけを見ていると変化を見落とす」省庁もある。総務省である。総務省の所管要求額は約21.9兆円で、前年からの増加率は約3%にすぎない。一見すれば、大きな変化はないように見える。

 

ところが、一般歳出を見ると、3,923億円から9,196億円へ増え、134.4%増となる。その中心に5,033億円の「強く豊かな日本」投資枠がある。

 

つまり、総額は3%しか増えていないのに、一般歳出は2倍以上になっている。地方交付税など巨大な制度経費を含む省庁では、総額比較だけでは政策上の重点の変化が見えにくいのである。


厚生労働省も「社会保障費増」だけでは読めない

厚生労働省も似ている。一般会計は35兆433億円から36兆5,803億円へ4.4%増である。しかし、中を見ると、裁量的経費は7,300億円から1兆8,426億円へ増加する。そのうち1兆337億円が「強く豊かな日本」投資枠である。

 

厚生労働省というと、年金、医療、介護など社会保障費の自然増だけに目が向きやすい。しかし、今回は、それとは別に成長投資・危機管理投資の要素が大きく入っている。ここでも、総額だけでは、予算の性格変化は読み取れない。


財務省の国債費増=借金増ではない

さらに、別の増え方をしているのが財務省である。財務省所管の2027年度要求は38兆6,948億円で、前年から5兆832億円増える。これだけを見ると、「国の借金がさらに5兆円以上増える」と受け取る人もいるかもしれない。

 

しかし、ここは分けて考える必要がある。財務省所管の増額の中心は国債費である。国債費は31兆2,758億円から36兆6,386億円へ増え、増加額は5兆3,628億円となる。財務省所管全体の増加額を上回る。

 

ただし、国債費とは、新たに国債を発行して借金を増やすための支出ではない。国債費の中心は、これまで発行した国債について、元本を返す債務償還費と、利息を支払う利子及び割引料である。

 

今回の増加額5兆3,628億円の内訳を見ると、債務償還費が約1兆7,939億円増え、利子及び割引料が約3兆5,516億円増えている。つまり、増加分のかなりの部分は、過去の国債について支払う利息などの増加によるものである。

 

したがって、「国債費が5兆円以上増えた=国の新しい借金が5兆円以上増える」という理解は正しくない。新たに国がどれだけ借り入れるかを見るには、歳出の「国債費」ではなく、歳入側の公債金、すなわち新規国債発行額を見る必要がある。

 

もちろん、利払い費が大きく増えること自体は財政にとって軽い問題ではない。金利上昇によって、過去に積み上げた債務の負担が予算を圧迫し始めていることを示しているからである。しかし、それと「新たな借金を増やすこと」は別の問題である。

 

今回の概算要求を「5兆円も借金が増えた」と読むのではなく、「既存債務の償還と利払い、とりわけ利払い負担が大きく増えている」と読む方が実態に近い。


防衛省は逆に「数字にまだ出ていない」

防衛省は、これまでと少し違う。2026年度8兆8,093億円に対し、2027年度要求は8兆8,908億円。増加は815億円、約0.9%にとどまる。これだけを見れば、「防衛費はほとんど増えていない」と見える。

 

しかし、そうではない。防衛省の資料では、現行の防衛力整備計画に基づく部分について金額要求し、三文書改定に伴う重要な追加部分が、事項要求として残っている

 

つまり、防衛省では逆に、将来増える可能性のある部分が、現時点の要求総額に十分現れていない。今年は事項要求が多い。だからこそ、概算要求時点の「総額」だけで最終予算を予測することも難しい。


内閣官房等には「強い日本」が表れている

今回の資料で特に目を引いたのが、内閣官房である。内閣官房等の要求は1,227.9億円から3,138.1億円へ大幅に増加。投資枠は1,762.2億円である。

 

国家サイバー統括室は127.7億円から630.1億円へ。内閣衛星情報センターは622.3億円から1,833億円へ増える。AI、半導体、インフラ、農業だけではない。サイバー、情報収集、安全保障など、国家機能そのものの強化にもかなり明確に資金を振り向けている。

 

つまり、「強く豊かな日本」という言葉のうち、「豊かな日本」だけではなく、「強い日本」も予算要求に現れ始めていると読み取れる。


投資枠のシーリングを外せば「言った者勝ち」になるのか

ここも重要である。要求上限を設けない投資枠を作れば、「各省庁が好きなだけ予算を要求するのではないか」という懸念は当然出る。

 

しかし現時点で、そこまで断定するのは早い。政府は、一律抑制を見直す一方、PDCAやEBPMによる既存事業の見直しや、補助金・基金等の自己点検結果を要求に反映することも求めている。

 

実際、こども家庭庁では、補助金等について約130億円の見直しを概算要求へ反映している。金融庁でも行政事業レビューを踏まえた事業の見直しが示されている。

 

したがって、「投資枠の要求上限を外した=無規律になった」とは、今の段階では言えない。ただし、本当に査定が機能するのかは別問題である。概算要求から年末の政府予算案へ向かう過程で、どの事業が削られ、どの事業が残るのか。そこまで見て初めて評価できる。


8月24日の自分の仮説を採点する

ここで、8月24日に示した自分自身の見方を改めて採点しておきたい。

 

まず、「前年当初だけでなく、前年当初+補正で見るべきだ」これは維持する。環境省や外務省を見ると、その必要性はむしろ強く確認された。

 

次に、「補正依存から当初予算へ移す方向にある」これも維持してよい。政府方針にも明記されている。

 

一方、「大幅増のかなりの部分は、補正から当初への移行で説明できるのではないか」これは重要な修正が必要である。

 

経済産業省や国土交通省では、当初+補正で比較しても大幅な増額が残った。文部科学省も同様である。2026年度当初5兆8,809億円と2025年度補正1兆6,091億円を合わせても7兆4,900億円。2027年度要求8兆7,750億円は、それを約17%上回る。

 

つまり、2027年度概算要求には、補正から当初への移行だけでは説明できない、実質的な増額が相当規模で存在する

 

とりわけ、投資枠の規模を見ると、その中には政府が意図して拡大している政策支出が相当含まれている。ここは率直に認めて、8月24日の見方を更新するべきだと思う。


では、2027年度概算要求は「膨張」したのか

ここまで見てきた上で、「膨張したか」という問いを3つに分けて以下のように考えた。

 

金額は膨らんだのか?これは明らかに「はい」である。多くの省庁で要求額は増えている。

補正予算を当初予算へ移しただけなのか?これは「いいえ」である。補正を加えて比較しても、大幅な増額が残る省庁が複数ある。

では、無規律な放漫財政なのか?ここは、まだ答えを出せない。

 

今回の概算要求を見る限り、政府が成長投資、危機管理投資、AI・半導体、科学技術、食料安全保障、インフラ、サイバー、情報収集能力などに対して、意図的に支出を増やそうとしていることは明らかである。

 

したがって、2027年度概算要求は「見かけだけの膨張」ではなかった。政府は実際に、政策支出を拡張しようとしている。しかし、それを直ちに「放漫財政」と呼ぶこともできない。

 

補正から当初への移行。国債費。為替。特定財源。事項要求。そして、政策的な純増。性格の全く違う数字が、一つの概算要求の中に混在している。


問題は「増えたか」から「何を増やしたか」へ

今回、各省庁の資料を横断して見て感じるのは、2027年度予算を見る物差しそのものを変える必要があるということである。

 

これまでは、「前年より何兆円増えたか」が大きく取り上げられてきた。しかし、今年は、それだけでは足りない。問うべきなのは、何を増やしたのか。なぜ増やしたのか。その支出で何を変えようとしているのか。である。そして、最終的には、その支出に見合う成果が出るのか。ここまで検証しなければならない。

 

概算要求は、あくまで「要求」である。これから年末に向けて査定が行われる。「強く豊かな日本」投資枠による大規模な投資が、本当に日本の成長力や危機対応力を高めるのか。それとも、要求上限を外したことで効果の薄い事業まで膨らむのか。不要な事業を査定で落とすことができるのか。2027年度予算を評価する本当の勝負は、ここからである。

 

ただ、正式集計前の各省庁資料を並べただけでも、一つのことはかなり明確になった。2027年度予算編成は、単に前年より大きな予算を作ろうとしているのではない。予算の使い方と、政策の優先順位そのものを変えようとしている。

 

果たして、成功するのか?政府全体の正式な概算要求集計が公表された段階で、今回の先行検証と照合し、もう一度「答え合わせ」をしてみたい。


※本稿は、2026年8月27日時点で日本みらい研が入手・確認した各省庁、自民党部会等の資料を基にした先行分析である。政府全体の正式な概算要求集計ではなく、資料によっては事項要求や調整中の金額を含む。このため、各省庁の数字を単純に合算して政府全体の要求総額を算出することはしていない。概算要求が締め切られ、政府による正式な要求額の集計が公表された後、数字を再確認し、必要に応じて本稿を更新する予定である。

 

 

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