2026年8月20日、自民党の総合農林政策調査会・農林部会合同会議に「2027年度農林関係予算概算要求の重点事項案」が示され、翌21日には外交部会・外交調査会合同会議で外務省の「2027年度概算要求の概要」が配られた。

 

いずれも、表紙に「調整中」の朱字が残る、まさに作りかけの資料である。したがって、ここから最終的な予算額を論じることはできない。しかし、この2つの資料から、今回の予算編成がどのような方式で進められようとしているのかは見えてくる。

 

農水省の重点事項案は、冒頭に『「強く豊かな日本」投資枠』も活用すると宣言したうえで、新たな水田政策、農業構造転換集中対策、食料安全保障強化政策大綱、第1次国土強靱化実施中期計画、TPP等関連政策大綱、そして、飲食料品に係る消費税率の引下げへの対応という6項目を、揃って「予算編成過程で検討」としている。金額を書かない要求が、柱そのものに組み込まれている。

 

外務省は、約1兆2,000億円を要求する。2026年度当初の8,170億円と2025年度補正の1,844億円を足した1兆14億円に対し、およそ2割増である。しかもこれとは別に、OSA等の戦略3文書改定関連、ODAの為替コスト、中東情勢関連が事項要求として積まれる。為替前提も1ドル149円から158円へ、1ユーロ166円から185円へと置き直された。

 

つまり、現時点では「いくら要求するのか」以上に、金額がまだ決まっていない政策が数多く並んでいる。今は、最終的な総額を見る段階ではなく、予算の作り方がどう変わろうとしているのかを見る段階である。

まず見るべきは「過去最大」ではなく、シーリング撤廃

2026年7月30日に閣議了解された「2027年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針」は、戦後の予算編成を規律してきた考え方を明確に変えた。

 

通常歳出とは別に『「強く豊かな日本」投資枠』を創設し、この枠には要求上限を設けないとする。事項要求も含め、所要額をそのまま要求してよいとなっている。経済安全保障上とくに重要な分野は、複数年度で財源を確保したうえ、特別会計で別枠管理する。片山さつき財務相が会見で、「もはやシーリングと呼ぶべきものはない」と述べたのは、誇張ではないのがわかる。

 

ただし、ここで注意したい。要求上限を設けないことと、最終的な予算に上限がないことは同じではない。従来は、まず上限を設定し、その範囲内に政策を収めることが歳出規律の中心だった。

 

今回は、要求段階の上限を外す代わりに、年末の査定で一件ごとに「なぜ必要なのか」「何を生むのか」「どの程度の民間投資や成長につながるのか」を問う方式へ軸足を移そうとしている。

 

したがって、今回の改革の成否は、シーリングを外したこと自体ではなく、外した後にどれだけ中身を厳しく査定できるかによって決まる。

 

同じ文書にはもう1行、見落としてはならない記述がある。「補正予算依存から脱却し、恒常的な施策を当初予算に計上する」。これが今回の要求膨張の主因であり、同時に、数字の読み方を根本から変える一文でもある。

 

現時点で、公表資料や報道から確認できる範囲を整理しておきたい。報道では、一般会計の概算要求総額が初めて130兆円を超える可能性が伝えられている。ただし、これは各省庁の要求が出揃った後に、財務省が集計した確定値ではなく、現段階での見通しである。

財務省の国債費は約36兆6,000億円、経産省は一般会計・特別会計で約7兆7,000億円、外務省は約1兆2,000億円を軸に要求する方向が伝えられている。一方、防衛、外交、農林などには金額の確定していない事項要求も多い。厚労省、文科省、国交省などを含めた数字は8月最終週にさらに明らかになる。

したがって、130兆円という数字は現時点では結論ではなく、予算編成の途中経過を示す参考値として扱うべきである。全体の集計が公表された段階で、改めて数字は確認したい。

当初予算+補正予算は、答えではなく比較のための参考線

ここで、気になる点を検証しておきたい。概算要求額は、前年度当初と前々年度補正の合算を上回るのか、という問いである。これは、省庁ごとに見ると、答えは分かれる。

 

経産省は、明確に上回っているようだ。2026年度当初3兆693億円に、2025年度補正2兆2,009億円を足しても5兆2,702億円であり、要求の7兆7,000億円はこれを大きく超える。外務省も1兆14億円に対して1兆2,000億円+事項要求であるから上回っている。成長投資と危機管理投資を担う省ほど、この傾向がはっきり出る。

 

ここで、今後の検証に使う一つの数字を置いておきたい。2026年度当初予算は122兆3,092億円、2025年度補正予算の一般会計歳出は18兆3,034億円である。単純に合計すると140兆6,126億円となる。

 

ただし、ここは慎重に扱う必要がある。この140.6兆円をそのまま2027年度当初予算と比較し、「140兆円までは膨張ではない」と考えるのも適切ではない。当初予算と補正予算では性格が異なり、支出される時期や政策内容も完全には一致しないからである。それでも、この数字には意味がある。

今回、政府が補正予算に置いてきた恒常的な施策を当初予算へ移す方針を示している以上、2027年度当初予算を2026年度当初予算だけと比較すれば、実際以上に「増えた」ように見える可能性がある。

これまで当初予算と大型補正という「二階建て」で処理してきた支出の一部を、一階に当たる当初予算へ移せば、当然、一階は広く見える。しかし、見るべきなのは一階だけではなく、家全体が本当に大きくなったのかである。

したがって、最終的な検証では、「当初 vs 当初」だけではなく、補正から当初へ移った経費、本当に新しく増えた政策経費、一時的な補正経費、国債費など政策判断とは別に増えた経費を分解して見る必要がある。140.6兆円は「答え」ではなく、予算を測り直すための参考線の一つである。

 

補正予算は、概算要求基準の枠外にあり、これまで査定が甘くなりがちだと長く指摘されてきた。それを当初予算に移すということは、財務省の査定と国会の審議に晒すということだ。手続きとしては、明らかに前進である。

政策を増やさなくても予算は増える――国債費という要因

もう一つ、最終的な概算要求額が出た後に、必ず分けて見る必要があるのが国債費である。2027年度の国債費は、金利上昇を反映して大幅に増える見込みである。

 

仮に概算要求総額が130兆円前後となるのであれば、2026年度当初予算からの増加額のかなりの部分を国債費が占める計算になる。つまり、政策を増やさなくても、金利が上昇すれば予算総額は増える。そのため、「予算総額の増加」と「政策経費の膨張」は分けて考えなければならない。

各省庁の要求が出揃った段階では、総額の増加分のうち、国債費はいくらなのか、政策経費はいくらなのかを改めて計算する必要がある。

 

金利のある世界とは、成長の果実を利払いが先に食っていく世界のことである。これは積極財政か緊縮かという党派の話ではない。誰が政権を担っても同じ請求書が届く。

年末までに確認すべきもう一つの財源問題

2027年度予算では、飲食料品の消費税率引下げへの対応も、重要な論点になる。政府は2年間の時限措置とし、その後、給付付き税額控除へ接続する考えを示している。

 

財源については、特例公債には頼らず、租税特別措置・補助金の見直しや税外収入などで財源を確保する方針だが、その具体策は、年末の予算編成までに詰めることになる。地方財政への影響や制度終了後に税率を戻せるのかという問題も残る。

 

したがって、この政策についても、現時点で財源問題が解決したと見るべきではない。一方で、減税による可処分所得の増加が消費、企業収益、賃金、税収へどの程度波及するのかという動学的な効果も合わせて検証する必要がある。この点も、概算要求から年末の予算編成まで継続して追いたい。

プラス・マイナス両面を並べたうえで

マイナス面を先に整理すると、上限を外した要求は、査定能力が伴わなければ「言った者勝ち」に転落する。金額を示さない事項要求の多用は、年末に数字が膨らむ余地を残す。防衛省が8兆9,000億円の要求から10兆円超へ向かうと見られているのが典型だ。

 

市場の目も厳しい。国債発行総額は180兆円規模に達し、日銀の量的引締めで国債のネット供給は増え続ける。財政の先行きが見通しにくいという理由で長期金利が上がれば、それ自体が新たな歳出を生む。この循環にどう向き合うかが問われている。

 

そのうえで、プラス面を挙げる。第1に、名目成長による税収増は現実に起きている。税収は6年連続で過去最高を更新し、2025年度の実績は84.2兆円に達した。財務省の試算では2029年度に95兆5,000億円まで伸びる。名目GDPが拡大すれば税収は追随する。これは理屈ではなく、直近数年の実績である。

 

第2に、2026年度当初予算は、基礎的財政収支を1兆3,429億円の黒字に転じさせ、国の一般会計当初予算としては、28年ぶりの黒字化を達成した。新規国債発行額は29兆5,840億円と30兆円を下回り、公債依存度は24.2%まで低下している。上限を外したからといって、規律の枠がすべて消えたわけではない。

 

第3に、歳出のメリハリは実際に動き始めている。経産省は、クールジャパン機構について概算要求を見送り、廃止を含めて検討する方針を示した。外務省の資料には、国際機関の実績・評価や邦人職員数を要求に反映する、国際機関分担金の管理費を削減する、連携NGOの収支に外部有識者の審査を導入するといった記述が並ぶ。要求上限を外したからこそ、一件ごとの説明責任が財源論そのものになる。この転換は健全である。

 

第4に、内閣府の中長期試算は、毎年10兆円規模の追加財政支出を想定しても、十分な成長が実現すれば国・地方の債務残高対GDP比は概ね安定的に低下する姿を示している。骨太方針2026が掲げる、実質1%超・名目3%超の成長を早期に定着させ、2040年度にGDPを1,100兆円へ近づけるという目標は、財政の持続可能性と切り離せない一体の目標として設計されている。

出口はどこにあるか?

財源問題の出口は、単年度の資金繰りの中にはない。『「強く豊かな日本」投資枠』が、複数年度の計画を基本とし、特別会計での別枠管理を予定し、償還財源の裏付けを求めているのは、財源の1年ごとの帳尻ではなく、投資回収の時間軸で考えるという思想の表明である。

 

これは、GX債や半導体・AI債といった、償還財源をあらかじめ用意した「つなぎ国債」の系譜に連なる発想でもある。この思想が本物かどうかは、8月末の要求提出から年末の閣議決定までの4か月で判明する。

 

要求は、あくまで要求にすぎない。2027年度予算について、現時点で結論を出す必要はない。各省庁の概算要求は、まだ出揃っておらず、金額の入っていない事項要求も多い。

 

年末の査定で削られるものもあれば、新たに金額が入るものもある。従って、このコラムの初稿では、「膨張予算ではない」と結論づけるつもりもない。同時に、「過去最大だから膨張だ」と決めるのも早い。最終的に確認したいのは、以下の4点である。

① 前年度当初予算と比べてどうなったのか。
② 補正で措置してきた経費を含む通年ベースではどうなのか。
③ 増加した金額のうち、国債費と政策経費はそれぞれいくらなのか。
④ 新たに増やした投資に、成果と回収の道筋が示されているのか。

 

各省庁の概算要求が出揃い、全体の集計が明らかになった段階で、この4つの物差しを使って、もう一度実態を測りたいと思う。

 

その結果、「当初+補正」で見ても政策経費が大幅に増えているのであれば、「膨張」という評価には相応の根拠がある。反対に、増加のかなりの部分が補正から当初への移行や国債費の増加によるものであるなら、「過去最大」という数字だけでは実態を説明できない。

 

どちらになるのかを、今はまだ判定する前である。だからこそ、数字が出揃う前に、見るべき物差しを決めておきたい。2027年度予算は、金額が増えるか減るかだけではなく、長く続いてきた日本の予算編成の仕組みそのものが、本当に変わるのかを検証する予算になる。

 

まずは、2026年8月24日、概算要求段階の「初稿」として、ここまでを記録しておきたい。その上で、数字が出揃ったら、もう一度この物差しが正しかったかどうかを検証する予定である。