中国が恐れる「迎合しない日本」

中国による日本批判が、常軌を逸した水準に達している。発端とされたのは、2025年11月、高市早苗首相が国会で、中国による台湾への武力行使が、状況によっては日本の「存立危機事態」になり得るとの認識を示したことである。

 

台湾海峡で大規模な武力衝突が起きれば、沖縄・南西諸島の安全、在留邦人の退避、海上交通路、半導体供給、そして日米同盟の運用に重大な影響が及ぶ。

 

高市首相の答弁は、特定の事態における法的可能性を説明したものであり、中国への宣戦布告でも、台湾独立を支持する表明でもない。ところが中国は、これを日中関係全体を揺さぶる政治問題へと意図的に拡大した。

 

中国外務省は発言の撤回を繰り返し要求し、在日中国大使館は公式ページに、「新型軍国主義」「再軍事化」「侵略の歴史を反省せよ」といった主張を日本語で大量に発信している。

 

中国政府は、日本への渡航抑制、文化交流の制限、輸出管理の強化など、言論への反論を超えた圧力も加えている。2026年には、日本企業40社を対象とした、軍民両用品の輸出規制まで実施している。

 

さらに、習近平国家主席自身が、5月の米中首脳会談で高市首相を名指しし、日本の防衛力強化を「軍国主義の復活」と批判したとも複数のメディアが報じた。中国外務省は報道内容が中国側の認識と一致しないと説明しているため、細部は確定していない。

 

しかし、中国の最高指導部が対日批判を米国との首脳会談にまで持ち込んだ可能性が報じられたこと自体が、北京がこの問題をいかに重大視しているかを示している。

大使館が反日機関になってよいのか

本来、大使館は、駐在国との対話を進め、相互理解を深め、対立が起きたときには意思疎通の回路となるべき機関である。

 

しかし、現在の在日中国大使館の発信を見ると、日本国民に中国側の立場を説明するというより、日本政府を断罪し、日本国内の世論を分断するための宣伝活動に近づいている。

 

日本の防衛政策を取り上げては「新型軍国主義」と呼び、日本がミサイルを配備すれば地域の平和への脅威と決めつける。国家情報機関を整備すれば戦前体制の復活と非難し、台湾について語れば内政干渉であるとし、日米同盟を強化すれば集団対抗という。

 

この論法に従えば、日本に許されるのは、中国の軍事的膨張を黙って見守り、台湾有事について考えず、防衛力を強化せず、日米同盟も機能させないことだけになる。それは外交ではない。日本の政策選択を、中国が事実上管理しようとする政治的威圧に他ならない。

歴史を反省すべきは日本だけなのか

日本が、過去の戦争と植民地支配を直視し、その教訓を継承することは当然である。歴史を忘れてはならず、戦争被害を軽視してもならない。

 

しかし、歴史への反省とは、中国共産党政権が、将来にわたって日本を一方的に裁き続ける権利を意味するものではない。

 

戦後の日本は、80年以上にわたり他国への侵略戦争を行わず、選挙と議会、法の支配、文民統制の下で歩んできた。国際協力、政府開発援助、災害支援、海上交通の安全確保などを通じ、アジアの安定と発展にも貢献してきた。

 

これに対し、中華人民共和国の戦後史を、一度も対外侵略を行わなかった平和国家と描くことには無理がある。

 

中国軍は、1950年に朝鮮戦争へ大規模介入し、同じ時期にチベットへ軍事進出した。1962年にはインドとの国境戦争、1979年にはベトナムへの軍事侵攻を行った。近年も台湾周辺で大規模演習を繰り返し、南シナ海では国際仲裁判断を受け入れず、東シナ海では尖閣諸島周辺で恒常的な圧力を加えている。

 

国内に目を向けても、新疆ウイグル自治区における恣意的拘禁や人権侵害について、国連人権高等弁務官事務所は「人道に対する罪」に相当する可能性を指摘している。チベットの言語、宗教、文化をめぐっても、国連の専門家から深刻な懸念が示されている。

 

もちろん、日本の過去の責任が、中国の現在の行動によって消えるわけではない。しかし、中国が自らの軍事行動や人権問題を棚に上げ、日本だけを永遠の被告席に座らせようとするなら、それは歴史認識ではなく、歴史を利用した政治工作である。

高市首相が原因だという責任転嫁

日本国内には、「高市首相の発言が中国を怒らせた」「日中関係悪化の原因は日本側にある」「発言を撤回し、中国に謝罪すべきだ」という声もある。

 

そのような意見を表明できること自体は、民主主義国家である日本の強さである。中国で最高指導者の台湾政策を公然と批判し、「日本の立場にも一理ある」と主張すれば、同じような自由が保障されるとは考えにくい。

 

しかし、言論の自由があることと、その主張が妥当であることは別問題である。高市首相が台湾有事について語らなければ、中国は穏健になったのだろうか。日本が防衛力を強化しなければ、中国は尖閣諸島周辺への進出をやめたのだろうか。日本が中国に謝罪すれば、台湾への軍事的圧力や東シナ海での活動は収まるのだろうか。答えは明らかである。

 

中国の軍事力増強も台湾統一への圧力も、高市政権の成立以前から続いている。日本の防衛省によれば、中国の公表国防費だけでも約43兆円に達し、4年間で15兆円以上増加した。

 

中国は台湾周辺での大規模演習、空母の遠洋展開、核・ミサイル戦力の増強を続ける一方、その意思決定や装備の実態について十分な透明性を確保していない。

 

つまり、日本の首相が問題を作ったのではないということだ。高市首相は、以前から存在していた問題を、今までのような曖昧な言葉で覆い隠さず、正面から語っただけである。

中国が本当に恐れているもの

中国は、日本の軍事力だけを恐れているのではない。中国が恐れているのは、日本が中国の顔色をうかがう国ではなくなり、台湾海峡の平和、自由な海洋秩序、法の支配を守るため、米国、豪州、インド、欧州、東南アジア諸国などと連携することである。

 

日本は、中国と地理的に近く、経済力、技術力、海洋能力を持ち、米国との同盟を有する。さらに、台湾と南西諸島は地政学的に連続している。

 

日本が沈黙せず、中国による武力行使の可能性を現実の安全保障問題として捉えれば、中国が台湾を孤立させることは難しくなる。だからこそ、中国は日本の防衛力強化をことさらに軍国主義と呼ぶ。

 

日本が本当に軍国主義国家だからではない。日本国民に過去への罪悪感を呼び起こし、防衛政策を議論すること自体をためらわせるためである。「歴史を反省せよ」という言葉を、反省を求めるためではなく、現在の日本を動けなくするために使っているのである。

 

中国側の過剰な反応は、高市首相の発言が中国の急所に触れたことを示している。日本は台湾問題に口を出さない、経済関係を恐れて最後には譲歩する、日本国内の親中的な言論を利用すれば政権を後退させられるという、北京が抱いていた前提が崩れ始めたためである。

虎の尾を踏んだのは中国である

中国は、高市首相が中国の踏んではならない虎の尾を踏んだと考えているのかもしれない。だが、実際は逆である。

 

中国は、日本を威圧し、日本企業を規制し、歴史問題を利用し、世界各国で日本を軍国主義国家と宣伝することによって、日本国民の中に眠っていた対中警戒感を呼び覚ました。

 

中国の圧力は、日本に対して「対話さえ続ければ関係は安定する」という幻想が通用しないことを教えた。経済関係を政治的な武器として使う国への依存を減らし、防衛力と情報力を高め、価値観を共有する国々との連携を強めなければならないことも明らかにした。

 

中国は、日本を黙らせようとして、逆に日本を目覚めさせたのである。これこそが、中国が踏んだ虎の尾である。

 

日本は、あえて中国を敵視する必要はない。中国人を排斥してもならず、外交対話の窓口も閉ざすべきではない。偶発的衝突を防ぐための意思疎通や、経済、環境、人的交流での協力は、今後も必要である。

 

しかし、対話と迎合は違う。中国が怒るから台湾有事を議論しない、中国が反発するから防衛力を整備しない、中国が歴史を持ち出すから現在の威圧行動に目をつぶる。そのような姿勢では、平和を守ることはできない。今回の事案は、それを気づかせるきっかけになった。

 

必要なのは、感情的な反中姿勢ではなく、事実と国際法に立脚した冷静な強さである。経済的威圧に耐えられる産業構造、外国からの情報工作を見抜く能力、南西諸島の防衛、台湾有事を想定した国民保護、同盟国・同志国との連携を着実に進めることである。

 

日本が自信を取り戻し、言うべきことを言い、守るべきものを守れる国になったとき、中国もまた、日本を威圧の対象ではなく、対等な交渉相手として扱わざるを得なくなる。

 

今回の問題は、高市首相が中国との関係悪化を生み出したのではない。誤魔化しをやめ、これまで見ないふりをしてきた現実を国民の前に示したのである。中国と正面から向き合う政権であれば、遅かれ早かれ同じ問題に直面したはずだ。

 

問われているのは、高市首相が中国に謝るかどうかではない。日本が、自らの安全保障と主権について、自ら考え、自ら決められる国であり続けるかどうかである。

 

虎の尾を踏んだのは、日本ではない。力と威圧によって日本を屈服させられると考え、日本人の覚悟を見誤った中国である。求められるのは、中国を大国として崇めたり危機を煽ることではない。日本の力強さを取り戻すことにある。日本人は、自信を持つべきだ。

 

参考となるコラム

SNS上の批判は多数の声なのか?(2026年8月3日)

日本は再び浮上できるか?(2026年7月30日)

多極化する世界で揺れる日本の現在地(2026年7月24日)