政府の方針を読み解く

日本経済は、長く「守り」の発想に縛られてきた。財政規律を重視するあまり、将来への投資は先送りされ、国内設備投資は伸び悩み、地方では人口減少と産業基盤の弱体化が同時に進んできた。

 

今回示された「骨太の方針2026」「日本成長戦略」「地域未来戦略」の3つの原案は、この流れを変えようとする政策転換の設計図である。この3つに共通するのは、強い経済と責任ある積極財政である。ここでいう積極財政は、単なるばらまきではない。

 

政府が一歩前に出て、民間投資を呼び込み、供給力を高め、雇用と所得を増やし、消費と企業収益を拡大させることで、税率を上げずとも税収が自然に増えていく経済の好循環をつくるという考え方である。この3つの文書は、今月中に閣議決定の予定である。

守りと攻めの投資で成長を牽引

中核に置かれているのが、日本成長戦略である。そこでは、AI・半導体、デジタル・サイバーセキュリティ、量子、防衛産業、航空・宇宙、海洋、造船、バイオ、創薬、GX、フュージョンエネルギー、防災、フードテック、コンテンツなど、17の戦略分野が示されている。

 

さらに、その中から62の主要な製品・技術を特定し、2040年度までに官民で370兆円超の国内投資を想定している。これは、国家として、どの分野に投資し、どこで国際競争力を確保し、どの技術で日本の不可欠性を高めるかを示した成長戦略である。

 

この成長戦略の特徴は、投資を2つに分けている点である。ひとつは、経済安全保障、エネルギー、食料、医療、防災、サイバーセキュリティなど、国のリスクを減らす「危機管理投資」である。もうひとつは、AI、半導体、量子、宇宙、バイオ、コンテンツなど、日本の技術力を世界市場で稼ぐ力に変える「成長投資」である。

 

守りと攻めを別々に考えるのではなく、守りを産業競争力に変え、攻めを国家の不可欠性につなげる発想である。ここに、今回の成長戦略の新しさがある。

 

なかでも注目されるのは、AIトランスフォーメーション、すなわちAXの位置づけである。日本には、製造業、医療、物流、サービスなど、現場に蓄積された質の高いデータがある。

 

これを活用し、フィジカルAI、AIロボット、領域特化型AIを育てることで、人口減少下でも高付加価値を生む経済構造へ転換しようとしている。AIを単なる効率化の道具ではなく、産業全体を作り替える基盤と見ている点が重要である。

 

投資額の面でも、重点は明確である。AI・半導体分野では、フィジカルAI、AI時代の半導体、バーティカルAIに大規模な投資が想定されている。デジタル分野では、クラウド、データセンター、医療DX、自動運転、サイバーセキュリティが重視される。

 

さらに、創薬・先端医療、バイオ、GX、コンテンツにも大きな投資が見込まれており、ハードとソフト、安全保障と生活産業を含めた総合的な産業政策となっている。

地方を成長の現場に

そして、この成長戦略を地方に広げる役割を担うのが、地域未来戦略である。従来の地方創生は、移住促進、観光振興、地域活性化といった個別施策に分かれがちであった。

 

しかし、地域未来戦略は、地方に大規模投資を呼び込み、産業クラスターを形成し、働く場所をつくり、人材育成の仕組みを整えることを中心に据えている。地方を、日本全体を成長軌道に押し上げるエンジンとして位置づけている。この地域未来戦略の柱は3つある。

 

第1は、成長戦略の17分野に関わる大規模投資を起点とする「戦略産業クラスター計画」である。半導体、造船、宇宙、GX、フードテックなどの投資を地方に呼び込み、必要な道路、港湾、工業用水、鉄道、造船ドック、ロケット射場などのインフラ整備を一体で進める。

 

第2は、都道府県が主体となり、地域の強みを生かした「地域産業クラスター計画」である。第3は、農林水産業、食品加工、観光、スポーツ、伝統工芸など、地域に根ざした産業を高付加価値化する「地場産業成長プラン」である。

 

この三層構造は、よく考えられた構造となっており、必ず押さえておくべきである。大規模な国策産業だけでは、全国の地域を支えることはできない。一方で、地場産業だけでは、人口減少と市場縮小を跳ね返す力に限界がある。

 

そこで、国家戦略に直結する大規模投資、都道府県単位の産業育成、市町村単位の地場産業の成長を重ね合わせることも可能にした。地域の規模や産業構造に応じて、複数の成長ルートを用意している点に、この戦略の現実性がある。

予算の作り方を変える

予算面でも、従来とは異なる。骨太の方針2026では、「強く豊かな日本」投資枠を設け、シーリングに縛られず、複数年度で計画的に投資できる仕組みを整えるとしている。

 

地域未来戦略の予算イメージでも、戦略産業クラスター、地域産業クラスター、地場産業成長プランのそれぞれについて、複数年度の特別枠、インフラ・拠点整備、サプライチェーン投資、人材育成、地域未来交付金の拡充が示されている。

 

これは、従来のように単年度ごとに細切れで予算を付けるのではなく、民間企業が長期投資に踏み切れるよう、政府側も予見可能性を高めるという発想である。

 

もちろん、課題は少なくない。370兆円超の官民投資という数字は大きいが、政府支出だけで実現できるものではない。民間企業が本当に投資に踏み切るには、規制改革、需要創出、政府調達、標準化、税制、金融、人材供給が一体となって動く必要がある。

 

また、地域の側にも、産業戦略を描き、企業を巻き込み、人材を育て、インフラ整備を進める実行力が求められる。最大の懸念は、これらが「美しい計画」にとどまることである。

 

17分野62技術は広範であり、すべてに均等に資金を配れば、結局は総花的な政策に戻ってしまう。成功には、勝ち筋のある分野に重点を置き、進捗を検証し、成果の乏しい施策は見直すという厳しいPDCAが欠かせない。

問われるのは本気度

今回の3文書は、日本の停滞の核心を「投資不足」と見定め、それを財政、産業、地域、人材、インフラの問題として、一体的に捉え直した点が注目される。

 

緊縮か積極財政かという古い対立を超え、必要なのは「成長につながる投資」をどう設計し、どう実行するかという段階に入ったことを示している。

 

骨太の方針2026は、その財政運営の土台を示した。日本成長戦略は、何に投資するのかを示した。地域未来戦略は、その投資をどこで実装し、誰の暮らしに結びつけるのかを示した。

 

これらの原案が掲げる言葉は、単なるスローガンではない。停滞を前提とした国から、投資によって未来をつくる国へ変わることができるのかを問うている。

 

その成否は、これから行なう予算編成や税制改正、規制改革、地域での具体的な実行にかかっている。閣議決定後の正式文書が、どのような形でまとまるかを注目したい。