フロリダのケネディ宇宙センターから、オリオン宇宙船が月を目指して飛び立った。宇宙船にはNASAから3名、カナダ宇宙庁から1名の宇宙飛行士が乗り込み、月の裏側を含む自由帰還軌道を飛行し、約10日後に地球に帰還する。
アルテミス計画初の有人飛行であり、今回は月面着陸は行わないが、深宇宙における生命維持システムの実証や有人運用の最終確認という重要な目的を担っている。人類は、1972年12月のアポロ17号以来54年ぶりに、月の重力圏に足を踏み入れる。
このミッションでは、有色人種、女性、米国人以外の飛行士が、それぞれに初めて月の近傍に到達することになる。月の裏側に回れば、アポロ13号が記録した地球からの最遠到達距離を上回る可能性があり、人類が到達した最も遠い地点を更新する見通しでもある。
1969年7月20日、アポロ11号のアームストロング船長が月面に降り立ち、人類の宇宙開拓は歴史的な一歩を歩み始めた。その後、アポロ計画は17号まで続き、合計12人の宇宙飛行士が月面を歩いたが、1972年のアポロ17号を最後に人類は月から遠ざかってしまった。
その理由は複合的であるが、冷戦下の宇宙競争という政治的動機が薄れたことや、莫大な予算への批判、スペースシャトル計画や国際宇宙ステーション(ISS)建設といった地球低軌道での活動に重心が移ったことなどが大きな理由とされる。
月は、行ける場所であることが証明された途端に、政治的には行く理由を見失ってしまったとも言える。しかし、21世紀に入ると状況は大きく変わった。月の南極付近に水氷が存在する可能性が示され、将来の月面基地建設や火星探査の燃料源として注目され始めた。
さらに、中国で嫦娥計画が動き始めて、月の裏側への軟着陸やサンプルリターンに次々と成功したたことから、新たな「宇宙競争」の構図が生まれたことも、米国を再び月に向かわせる強力な推進力となった。
こうした背景のもとに、2017年にアルテミス計画が正式に始動した。ギリシア神話の月の女神アルテミスの名を冠したこの計画は、太陽神であるアポロの双子の姉妹にちなんでおり、半世紀の時を経て「兄」の遺志を継ぐ形となっている。
アルテミス計画では、2028年初頭を目標として、アポロ17号以来となる有人の月面着陸が行われる見通しとなっている。宇宙飛行士2名が月の南極付近に降り立ち、約6.5日間の月面滞在と少なくとも2回の船外活動を行う計画である。
NASAは、3月に月周回宇宙ステーション「ゲートウェイ」の建設休止を発表し、月面基地構想を前面に打ち出した。これにより、アルテミス計画は単発的な月面着陸ではなく、恒久的な月面拠点の建設という、より野心的な方向へと舵を切ったことになる。
このアルテミス計画には、日本も参加している。それも単なる参加国ではなく、技術面でも運用面でも不可欠な存在として、計画の根幹を支える存在としてである。さらに、日本人の宇宙飛行士も2名が、将来月面に着陸することも正式に合意されている。
これは、米国人以外で月面に降り立つの初めての人物となる見通しでもある。日本の宇宙開発史においては、画期的な到達点であり、1人目は2028年のアルテミスIV以降、2人目は2032年頃を目標としている。
日本が月面着陸の切符を得た背景には、日本が提供する技術的貢献の大きさがある。その象徴が、JAXAとトヨタが共同で開発する与圧式月面探査車「ルナ・クルーザー」である。これは、宇宙飛行士が宇宙服を着用せずに居住でき、移動式月面基地として活用される。
月面上の広範囲を持続的に移動しながら探査活動を行う車で、ブリヂストンやタカラトミーなどの日本企業が開発に参画している。さらに、月面基地の建設には、清水建設や鹿島建設などの日本のゼネコンも参画を表明しており、三菱重工業も計画への貢献を進めている。
日本の宇宙技術は、ISSの「きぼう」日本実験棟や「こうのとり」補給機、小惑星探査機である「はやぶさ」「はやぶさ2」で培われた知見の蓄積の上に成り立っている。月面着陸は、それらの集大成として位置づけられるものとなっている。
加えて、JAXAの小型月着陸実証機「SLIM」が月面への精密着陸に成功したことも忘れてはならない。姿勢は逆さまとなったものの、目標地点からわずか55メートルという精度での着陸は、ピンポイント着陸技術として世界に認められた技術となっている。
アルテミス計画の究極の目標は、月面着陸にとどまらない。月での持続的な活動を通じることで技術と経験を蓄積し、その先にある有人火星探査を実現することにある。NASAは2030年代の有人火星探査を長期ビジョンとして掲げ続けている。
この壮大な目標は、直ちに現実となるわけではないが、半世紀の空白を経て、人類が再び月への扉を開いた意味は大きい。月の南極にある水氷は、飲料水や燃料になる可能性があると言われ、資源開発にも期待が寄せられている。
しかし、月面は地球上のどの国も所有しておらず、未開であることから、各国間で開発めぐる対立が激化する恐れもある。このような対立を避け、各国が協力して開発を進めて欲しいと思うが、中国のような国が参入し利害が対立すれば話し合いは難しくなる恐れもある。
かつて、アポロの宇宙飛行士が撮影した「地球の出」の写真は、人類の宇宙観を一変させた。アルテミスも今回、月の裏側から独自の「地球の出」の瞬間を捉えようとしている。半世紀の時を経て見る新たな地球は、きっと何か大切なことを教えてくれるかもしれない。
