2026年1月の訪日外客数は359万7,500人となり、前年同月比で4.9%減となった。中国からの訪日客が38万5,300人で、前年同月比60.7%減と激減したことで、日本のインバウンドに急ブレーキかと受け止める向きもある。

 

しかし、結論を先に述べるならば、中国市場の回復が当分は見込めないとしても、悲観をする必要は全くない。中国市場がこの先も長期低迷するという前提を置いてもなお、インバウンドの全体像は力強いということが、昨今の訪日客の動向から明らかである。

 

中国は、2019年以前は訪日外客の約3割を占める最大市場であったが、ゼロコロナ政策が長引いたことから、コロナ禍を経た現在においては、すでにその比率が大きく低下しており、他市場の成長が中国の穴を埋めて余りあるという状況になっている。

 

今回の統計発表でも、中国からの訪日客の急減により約59万人が失われた計算になるが、韓国だけで前年比約21万人の純増を記録し、台湾は約10万人増、米国は約2.5万人増、豪州は約2万人増など、各市場が分散して訪日客を積み上げている。

 

このことから、インバウンド市場のポートフォリオは、コロナ禍を経て多様化が進んでいるということが言える。中国からの訪日客が構成比で圧倒的な地位を占めていた時代は終焉し、中国なしでも成り立つ市場構造が形成されつつあると認識した方が良い。

 

中国からの訪日客については、日中関係の悪化もあり、短期的な回復を楽観視することは難しい状況である。これは、中国政府の一方的な経済的威圧の結果によるものだが、この種の政治的圧力は一朝一夕に解消されることはない。

 

威圧の結果、航空座席の供給が制約されており、中国系航空会社による日中間路線の減便が、需要回復の物理的な障壁となっている。政治的な関係が改善に向かったとしても、供給面の回復には一定の時間を要するため、先行きは当面不明である。

 

さらに、中国国内の経済環境も見過ごせない。不動産不況に端を発した景気停滞感は、中間層の海外旅行意欲に影響を与えている。富裕層や若年層の訪日需要は根強いものの、大衆旅行の裾野拡大には経済回復が前提となるため、過度な依存は期待できない。

 

こうした複合的な抑制要因を踏まえると、2026年中に中国市場がコロナ前水準に回帰するシナリオは現実的ではない。当面はこのような低水準が続くとの前提で、インバウンド戦略を設計することが、政策的にも合理的な判断となる。

 

中国市場の長期低迷という前提を置いた上でもなお、日本のインバウンド市場は悲観する必要がないという理由は、今回の統計が示す全体像が力強いということにある。17市場が、1月として過去最高を記録したという事実は、そのことを如実に物語っている。

 

東アジアでは、韓国が117万6,000人と全市場初の単月110万人を突破し、台湾も69万4,500人と単月の過去最高を更新した。東南アジアではタイ・インドネシア・フィリピン・ベトナム・シンガポール・インドが軒並み1月過去最高を達成している。

 

欧米豪の成長も見逃せない。米国は20万7,800人、豪州は16万700人とそれぞれが1月過去最高を記録し、欧州勢も高成長を維持している。中東地域や北欧地域も過去最高を更新しており、地理的な裾野の広がりが明確となっている。

 

これらの市場に共通するのは、円安という価格優位性に加え、ウィンタースポーツ・スキーリゾートへの需要という日本固有の観光資源への評価が高まっている点にある。中国依存とは無縁に、日本の観光競争力は確実に多方面に浸透しつつある。

 

今回の最大のハイライトは、韓国の117万6,000人である。これは、訪日旅行が韓国人の日常的な選択肢として完全に定着したという質的変化を意味している。韓国市場は既に「成長市場」から「成熟安定市場」への移行期に入りつつある。

 

中国市場は当面、外交的摩擦・航空供給制約・国内経済の停滞を背景に低水準が続く公算が高いが、韓国や台湾を筆頭とするアジア市場の安定的な成長や欧米豪の旺盛な訪日需要、新興市場の開拓が、不足部分を補う構図が鮮明となっている。

 

そのため、「中国なき成長」のシナリオは現実的となっている。中国への依存度の低下によって、日本のインバウンド戦略は、地政学的リスクに対してより耐性を持つ構造へと移行しつつある。この事実を、前向きに評価すべきである。

 

この先も訪日外客数が2025年と同程度の水準を維持できるかは、春節需要の取り込みと各市場のスノーシーズン後の動向が大きく影響する。中国以外の市場の現状を見る限りは、その意味でも日本の観光競争力の本質的な強さは損なわれていないと見ることができる。