IEAが昨日、エネルギー変革の最前線をまとめた『The State of Energy Innovation 2026』を公表したことから、この報告書をベースに、世界のエネルギー技術革新の現状と課題、未来への展望などを、以下にまとめてみた。
報告書では、かつてエネルギーイノベーションの主流は脱炭素であったが、2025年になると大きく状況が様変わりし、エネルギー安全保障が、コスト削減や排出削減などを押し除け、技術革新の推進要因として上位に躍り出ていると指摘する。
その理由を、ここ数年の間に地政学的な緊張やサプライチェーンの脆弱性が立て続けに露呈しており、各国政府は自国の産業競争力を高め、安定したエネルギー供給を確保するための技術開発に舵を切り始めているのが大きな要因であるとしている。
資金の流れにも変化が見られるとのことだ。長年増加傾向にあった公的エネルギーへのR&D支出は、2024年に頭打ちとなり、2025年は550億ドルへと微減する見込みである。企業のR&D支出も成長が鈍化しており、ベンチャーキャピタル投資は3年連続で縮小している。
VC資金の約30%がAI企業に流れており、エネルギー分野は厳しい資本競争に晒されているが、次世代地熱、低排出産業技術、核融合、重要鉱物などの開発難易度の高い領域への投資は急増しており、投資家は長期的で根本的な技術革新には目を向け始めているようだ。
特許動向では、バッテリー技術関連の特許が圧倒的に多い。エネルギー関連特許に占める蓄電池の割合は40%に達し、一つの技術がここまでシェアを独占した例は過去にないとのことである。これは、蓄電池が戦略的に不可欠な存在となっていることを示している。
地域別では、中国の存在感が際立つ。中国の発明者による国際特許出願数は2020年から倍増しており、米国、日本、欧州の2倍の水準に達している。ペロブスカイト太陽電池や固体空調システムなど、多くの分野で技術的なマイルストーンを達成している。
報告書では、「電力グリッドの強靭性」と「核融合」にも焦点が当てられているとしている。異常気象や再エネの導入拡大で、電力グリッドはかつてない負荷に晒されており、老朽化したインフラの更新だけでなく、新技術の導入が急務となっている。
核融合は、実用化に向けたレースの様相を呈している。2025年には、中国、フランス、ドイツなどの政府系施設でプラズマ保持の記録が次々と更新され、民間セクターの期待も高まっている。商用化を見据えた、初期のエンジニアリングの段階に入ったと言って良い。
イノベーションには時間がかかるため、基礎研究から市場投入まで数十年単位の公的支援が重要である。そのため、各国の政策立案者は、競争力やレジリエンス(強靭性)、エネルギー技術のシナジーを追求していく必要がある。
報告書では、AIへの資金集中や高金利といった逆風の中で、有望なスタートアップが「死の谷」を越えられるよう、政府は資金調達のギャップを埋め、リスクを分担する役割を果たさなければならないとしている。
エネルギーイノベーションは、単なる技術開発競争ではなく、将来の経済的繁栄と国家の安全を守るための長期的な投資である。IEAの報告書は、不確実な世界情勢の中で、揺るぎない政策的コミットメントと国際協力が不可欠であることを強く訴えた内容となっている。
