磨き抜かれた鋼の塔のてっぺんに流れる重い沈黙。
それを破ったのは何とも間抜けな音だった。
要するに……腹の虫。
「誰だよこんな真剣な状況でっ!」
「腹が減るのはしょうがねえだろ!」
俺の叫びに、純平が自分の腹を押さえながら返してくる。ああ、お前のような気がしてたよ、ったく。
「じゃあ一回降りて、ごはんにする?」
友樹が階段を指差しながら言うけど、純平がすごい勢いで首を横に振った。
「ムリムリ! 俺もうあんな階段降りる体力残ってねえよ! しかも降りたらまたのぼんなくちゃいけないしさぁ」
そう言って床にへたりこむ。俺はそんな純平を見ていらいらしてきた。
「いちいちわがまま言うなよ! 上り下りが辛いのはみんな同じだろ?」
俺の言葉に純平は口をへの字にする。
でもすぐにぱっと顔を明るくした。
「そうだ、ガードロモンに昼飯持ってきてもらおうぜ! ガードロモンならマシーン型デジモンだから階段もきつくないだろ!」
みんなの視線が案内役のガードロモンに向く。
「私、賛成!」
泉が笑顔で片手を挙げる。
「分かりました。ではここまでお持ちしましょう」
ガードロモンまで、あっさりそう言って下りていこうとする。
「俺は、自分達で行くべきだと思うけどな」
俺の言葉に、その場が静まり返った。
主に純平の方を見ながら続ける。
「俺達は別に、ここにいなきゃいけない理由はない。なのに案内役のガードロモンに昼飯持って来させようなんて、ずうずうしいんじゃないのか? ガードロモンは俺達の召使じゃないんだぞ」
「それはそうだけど……」
泉が困った顔になる。純平は俺の顔をにらみ返して、立ちあがった。
ガードロモンはというと、俺達の意見が割れたんで塔を下りるべきか下りざるべきか迷ってオタオタしている。
俺の視線の端で、輝一と友樹がそうっとそこに歩み寄った。俺達の方をちらちら見ながら話しかける。
「とりあえず、下におりてた方がいいと思うよ。お昼ご飯の事は置いといて」
友樹が、にらみ合う俺と純平を見比べながら言う。
「このままじゃあの二人、しばらく収まりそうにないからな。ガードロモンまで二人につきあう必要はないよ。あんまり見てて楽しいものじゃないし……」
輝一がため息をつく。
「そ、そうですか。では……」
ガードロモンはまだ少し混乱しながら、階段を下りていった。
「これで話しやすくなったな」
俺が話を振ってやると、純平が俺に視線を向けたままうなずいた。
「信也の方こそ。不満な事があるなら黙ってないで言えよ」
ああ言わせてもらうさ!
「ち、ちょっと二人とも……」
泉が俺達の間に割り込もうとする。
それを純平が手を挙げて止めた。
「泉ちゃん、今はほっといてもらえるかな? こいつとはいっぺんじっくりと話した方がよさそうだからさ」
「それはこっちのセリフだっての」
純平と俺の言葉に、泉は足を止めて、頭を抱えた。
「もう、どこかの誰かさん達じゃないんだから……」
泉は視界から外して、純平に向き直る。
「そりゃ、純平達はこの世界を救った伝説の人間かもしれないけどさ。だからって、言えば何でもやってくれると思うのはおかしいんじゃないのか?」
「別に何でもやってくれるとは思ってねえよ」
純平がむっとして返してくる。
「思ってるだろ。ガードロモンだって疲れは知らなくてもデジモンだし、生き物だ。それを自分が歩きたくないとか、おなかがすいたとか、そんな理由で動いてもらうのかよ」
俺は腕を組んで純平を見上げる。3つも年が違うから、純平の方が背は高いし体つきもいい。だけど気持ちだったら俺だって負けてない。
「人をナマケモノみたいに言うなよ! もしここで敵が襲ってきたら、戦えるのはスピリットを持ってる俺達だけなんだ! 少しでも結界のそばで見張ってて、少しでも体力を温存しておくのが大事なんだよ! お前そんなことも分からないのか?」
純平の声が大きくなってきた。俺も負けずに声を張り上げる。
「へえ? てっきり俺は、純平がへとへとでもう戦えないのかと思ってたけど?」
「今はもう回復してきてる! 昨日今日に進化できるようになった信也と違って、俺は前の冒険で回復力を鍛えられてるからな」
「なんだよ、まるで俺が純平達に比べて弱いみたいじゃないか!」
「だってそうだろ? 信也はまだヒューマンスピリットを制御するので精いっぱいじゃんかよ」
「そ、それは……」
痛い所を突かれて、俺は口ごもる。
ボコモン達の話で、十闘士にはそれぞれ二つのスピリットがある事は知っている。
一つは俺が今使ってるアグニモンのような人型の「ヒューマンスピリット」。
もう一つは獣型の「ビーストスピリット」。ヒューマンスピリットより力が強いけど、その分制御が難しい。こっちも俺のデジヴァイスには入ってるんだけど、俺がまだ使いこなせないからって、元三大天使の一体、テイルモンにロックをかけられている。
でも……俺だってすぐに!
「俺だってすぐにビーストスピリットを使いこなせる所までいってやるよ! それで純平なんて軽く追い越してやる」
「なんだと!?」
純平がこぶしを握って一歩踏み出した。俺も手のひらにこぶしを打ちつける。
それを破ったのは何とも間抜けな音だった。
要するに……腹の虫。
「誰だよこんな真剣な状況でっ!」
「腹が減るのはしょうがねえだろ!」
俺の叫びに、純平が自分の腹を押さえながら返してくる。ああ、お前のような気がしてたよ、ったく。
「じゃあ一回降りて、ごはんにする?」
友樹が階段を指差しながら言うけど、純平がすごい勢いで首を横に振った。
「ムリムリ! 俺もうあんな階段降りる体力残ってねえよ! しかも降りたらまたのぼんなくちゃいけないしさぁ」
そう言って床にへたりこむ。俺はそんな純平を見ていらいらしてきた。
「いちいちわがまま言うなよ! 上り下りが辛いのはみんな同じだろ?」
俺の言葉に純平は口をへの字にする。
でもすぐにぱっと顔を明るくした。
「そうだ、ガードロモンに昼飯持ってきてもらおうぜ! ガードロモンならマシーン型デジモンだから階段もきつくないだろ!」
みんなの視線が案内役のガードロモンに向く。
「私、賛成!」
泉が笑顔で片手を挙げる。
「分かりました。ではここまでお持ちしましょう」
ガードロモンまで、あっさりそう言って下りていこうとする。
「俺は、自分達で行くべきだと思うけどな」
俺の言葉に、その場が静まり返った。
主に純平の方を見ながら続ける。
「俺達は別に、ここにいなきゃいけない理由はない。なのに案内役のガードロモンに昼飯持って来させようなんて、ずうずうしいんじゃないのか? ガードロモンは俺達の召使じゃないんだぞ」
「それはそうだけど……」
泉が困った顔になる。純平は俺の顔をにらみ返して、立ちあがった。
ガードロモンはというと、俺達の意見が割れたんで塔を下りるべきか下りざるべきか迷ってオタオタしている。
俺の視線の端で、輝一と友樹がそうっとそこに歩み寄った。俺達の方をちらちら見ながら話しかける。
「とりあえず、下におりてた方がいいと思うよ。お昼ご飯の事は置いといて」
友樹が、にらみ合う俺と純平を見比べながら言う。
「このままじゃあの二人、しばらく収まりそうにないからな。ガードロモンまで二人につきあう必要はないよ。あんまり見てて楽しいものじゃないし……」
輝一がため息をつく。
「そ、そうですか。では……」
ガードロモンはまだ少し混乱しながら、階段を下りていった。
「これで話しやすくなったな」
俺が話を振ってやると、純平が俺に視線を向けたままうなずいた。
「信也の方こそ。不満な事があるなら黙ってないで言えよ」
ああ言わせてもらうさ!
「ち、ちょっと二人とも……」
泉が俺達の間に割り込もうとする。
それを純平が手を挙げて止めた。
「泉ちゃん、今はほっといてもらえるかな? こいつとはいっぺんじっくりと話した方がよさそうだからさ」
「それはこっちのセリフだっての」
純平と俺の言葉に、泉は足を止めて、頭を抱えた。
「もう、どこかの誰かさん達じゃないんだから……」
泉は視界から外して、純平に向き直る。
「そりゃ、純平達はこの世界を救った伝説の人間かもしれないけどさ。だからって、言えば何でもやってくれると思うのはおかしいんじゃないのか?」
「別に何でもやってくれるとは思ってねえよ」
純平がむっとして返してくる。
「思ってるだろ。ガードロモンだって疲れは知らなくてもデジモンだし、生き物だ。それを自分が歩きたくないとか、おなかがすいたとか、そんな理由で動いてもらうのかよ」
俺は腕を組んで純平を見上げる。3つも年が違うから、純平の方が背は高いし体つきもいい。だけど気持ちだったら俺だって負けてない。
「人をナマケモノみたいに言うなよ! もしここで敵が襲ってきたら、戦えるのはスピリットを持ってる俺達だけなんだ! 少しでも結界のそばで見張ってて、少しでも体力を温存しておくのが大事なんだよ! お前そんなことも分からないのか?」
純平の声が大きくなってきた。俺も負けずに声を張り上げる。
「へえ? てっきり俺は、純平がへとへとでもう戦えないのかと思ってたけど?」
「今はもう回復してきてる! 昨日今日に進化できるようになった信也と違って、俺は前の冒険で回復力を鍛えられてるからな」
「なんだよ、まるで俺が純平達に比べて弱いみたいじゃないか!」
「だってそうだろ? 信也はまだヒューマンスピリットを制御するので精いっぱいじゃんかよ」
「そ、それは……」
痛い所を突かれて、俺は口ごもる。
ボコモン達の話で、十闘士にはそれぞれ二つのスピリットがある事は知っている。
一つは俺が今使ってるアグニモンのような人型の「ヒューマンスピリット」。
もう一つは獣型の「ビーストスピリット」。ヒューマンスピリットより力が強いけど、その分制御が難しい。こっちも俺のデジヴァイスには入ってるんだけど、俺がまだ使いこなせないからって、元三大天使の一体、テイルモンにロックをかけられている。
でも……俺だってすぐに!
「俺だってすぐにビーストスピリットを使いこなせる所までいってやるよ! それで純平なんて軽く追い越してやる」
「なんだと!?」
純平がこぶしを握って一歩踏み出した。俺も手のひらにこぶしを打ちつける。