昨日、マンションから見える飛行船を見て、父が一句つぶやいた。

 「飛行船 静かに浮いて 十二月八日」

 なんのことかと思っていると、父は続けた。
 「今日は真珠湾攻撃の日だよ。日本があやまちの一歩を踏み出したのが今日、十二月八日だからね」
 それを知って味わうと、即興の句はなかなかよかった。
 父はさらにしみじみ言った。
 「そして、今日はジョン・レノンが殺された日でもある」

 77歳おそるべし。
 ジョン・レノン情報まで操るとは……。

 
 そして、本日。
 まさにそのジョンが暗殺された日本時間から、ジョン・レノン・ミュージアムで柳生真吾さんと対談。

 今まで必死に書かないで来たが、柳生さんは園芸家としてジョン・レノンに関する世界的な大発見をしたのである。
 今日はその公的な発表の日であった。

 ジョン・レノンが長い沈黙から復帰した作品『ダブル・ファンタジー』について、これまでマニアックな文献にだけ「ジョンがバミューダ植物園で見た花の名からとっている」とか、「それはフリージアである」と言われてきた。

 だが、誰もきちんとした同定をしてこなかったのである。
 ロック界の知識と、園芸界の知識が合体されなかったためだ。
 したがって、同名のクリスマス・ローズなどとの混同さえ起こっていた。
 
 
 柳生さんはミュージアムに頼まれて、二ヶ月ほど前からこの『ダブル・ファンタジー』を調査し始めていた。
 そして、日本園芸界が誇るべきプラント・ハンター、荻巣樹徳(おぎすみきのり)さんにまで、話は伝わった。
 荻巣さんは海外からは園芸界のノーベル賞のようなものをもらっている偉大な人物である。だが、学歴主義の日本でだけ評価が低い。数十の種を発見している大変な人なのにである。

 それはともかく、荻巣さんは話を面白がった。
 そして、世界中に広がる園芸家のネットワークを使って、調査を進めた。
 アルバムが出た1980年、ファンタジーというフリージアがあったことはわかった。だが、「ダブル・ファンタジー」がない。
 なぜだ。では、なぜジョンはそれを見たというのか?

 荻巣さんはそこではたと思い当たったのである。

 園芸の世界で、「ダブル」は「八重咲き」という意味を持つことに!


 調べると、「ダブル・ファンタジー」が確かに存在したという記録が出てきた。
 ジョン・レノンはバミューダ植物園で間違いなく、この八重咲きのフリージアを見、その花にインスパイアされて最後のアルバムを作ったのだった。
 これは世界の研究者の誰にとっても、発見なのであった。

 では、その画像はないか。
 ミュージアムでの発表時には、画像がなくちゃいけない。
 柳生さんに僕はそう言った。
 そこで、柳生さんは荻巣さんと再び連絡をとって調べた。

 1980年の花のカタログを調べよう!ということになったらしい。

 だが、そんなカタログはオランダにもない。
 イギリスにもない。
 二人は頭を抱えたらしい。 

 しかし、執念とは恐ろしいものである。
 最終的に彼らは見つけ出したのだ。
 たった一冊のカタログが、なんと偶然にもこの日本にあったのだった。

 八重咲きのフリージア。
 写真の下に、「ファンタジー」と書かれている。

 この写真はじきに柳生さんのブログにアップされるだろうから、それを見て欲しい。
 労を尽くしたのは柳生さんだから。

 http://www.yatsugatake-club.com/

 
 柳生さんは現在、このファンタジーの球根を世界中の園芸家ネットワークを通して入手しようとしている。
 我々は咲かせたいのである。
 ジョン・レノンに傑作を作らせた花を。

 そして、その花をシンボルにしたピース・ムーブメントを起せないか、と我々は夢見ている。
 武器の前に指し出す花として、「ダブル・ファンタジー」ほどふさわしいものはないではないか。