エルヴィス | Get Up And Go !

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エルヴィス・プレスリーの半生を描いた話題の伝記映画 『エルヴィス』 を観てきました。 大好評のようです。 映画で描かれたエルヴィスについて、エルヴィス・プレスリー自身について、あれこれと記事にしてみました。 少し長くなりますが良かったら。

僕がいつも聴いている山本さゆりさんDJのラジオ番組でも、さゆりさんは絶賛されていました。 一方でピーター・バラカン氏などは、やはり自身のラジオ番組の中で、演出過剰で苦手な映画だと言ってましたが… 。どうでしょうね。 ドキュメンタリーではない劇映画なので、少々おおげさな脚色/演出があっても良いし、僕自身は2時間39分という時間を忘れて楽しむことが出来ましたが。





近年はこういった、音楽界のレジェンドを描いた伝記映画が次々に作られています。 2018年公開の、クイーンを描いた 『ボヘミアン・ラプソディ』 の大ヒットがきっかけになったのか、2019年公開の 『ロケット・マン』(エルトン・ジョン)。 昨年公開された 『リスペクト』(アレサ・フランクリン)。 少し前になりますが、2014年のフォー・シーズンズを描いた 『ジャージー・ボーイズ』もそうでした。 『エルヴィス』は、そういった伝記映画のとどめを刺すものといっても良いのかも。

こういった伝記映画は、主役が本物にどれだけ近づけるかがヒットの重要なポイントですが、今回エルヴィスを演じたオースティン・バトラーという俳優さんはかなり良かったと思います。 顔かたち以外の雰囲気だとか仕草だとか、相当の時間を割いて役作りしたのではないでしょうか。 歌のほうのトレーニングも同様にしたはずです。



一般的なエルヴィスのイメージとしては、フレアパンツにヒラヒラのついた派手な上着を着た格幅のいいエンターテインメント・シンガー、といったところでしょうか。 あとはモノマネ芸で強調されたもみあげとか。 デビュー以前の若い頃に、ブルースやゴスペルなどの黒人音楽から多大な影響を受けたということが、エルビス・プレスリーの音楽の肝であることを知らない方は多いかと思います。

そのあたりのエルヴィスのバックボーンも、映画ではきちんと描かれています。B.B.キング、リトル・リチャード、ビッグ・ママ・ソートン等が登場し、とりわけB.B.キングとの交流が、映画での重要な場面として描かれています。 ブルース音楽のファンのひとりとしては、思わずニヤリとしてしまいました。

初期のエルヴィスは、まるでパンクロッカーのような精神性を持ったアーティストであったこととか。 有名なマネジャー、パーカー大佐って悪い奴だったんだなぁとか。 エルヴィスが世界ツアーをせず本国でばかりコンサートをやっていた理由であるとか。 この映画で初めて知った事実も多く、そういった意味でも、“エルヴィスの一般的イメージ” しか知らない方に薦めたい映画です。そして女性の中には、エルヴィスを演じたオースティン・バトラーの魅力の虜となってしまう人はきっと多くいるはずです。

エルヴィス(原題:ELVIS)(2022 / アメリカ)
● 監督・脚本・制作:バズ・ラーマン
〇 出演:オースティン・バトラー / トム・ハンクス / ヘレン・トムソン / オリヴィア・デヨング / リチャード・ロクスバーグ





ここからは、映画の話ではなくて個人的なエルヴィスにまつわる話を。
1973年1月に、「アロハ・フロム・ハワイ」 と題されたエルヴィスのハワイ公演が行われたんですね。 このコンサートは、日本にも生中継され、夜7時からのゴールデン・タイムに日本テレビで放送されました。 父が 「エルヴィスだ、エルヴィスだ」 と言いながら、テレビを見ていたのではっきりと記憶しているのです。 と言ってもコンサートの内容はまったく憶えていなくて、記憶しているのはエルヴィスがヘリコプターで会場入りしたシーンぐらいです。

父のレコード棚には、エルヴィスのレコードもあったのでそれなりに好きだったのでしょう。 1950年代が全盛のエルヴィス・プレスリーは両親たちの世代のスターですよね。 父はテレビで西城秀樹や本郷直樹といった歌謡歌手が出るたび 「こいつらプレスリーのマネだ」 と言っていたのも憶えています。



ELVIS PRESLEY / American Trilogy (Hawaii 1973)


そんなわけで、十代も半ばとなりロックを聴くようになってからも、僕にとってのエルヴィス・プレスリーは過去のひと、オールディーズ・シンガーという認識でした。 実際、読んでいた音楽雑誌に載ることもほとんどなかったので。

そしてその日は突然やってきました。1977年8月16日、エルヴィス死去のニュースが。 この知らせもショックを受けていたのは両親です。 そんなわけで、新聞を切り抜いてとっておいたのです。 アナログ・レコードのジャケットの中に保管してあったのですが少し傷んでいます。 当時の読売新聞の記事です。 湯川れいこさんのコメントも載っています。 スキャンしたものをそのままアップしておきます。





映画では最後に、エルヴィス本人のピアノの弾き語りによって 「アンチェインド・メロディ」 を歌う実際の映像が挿入されます。それまでの2時間超で描かれた波乱万丈の物語の後では、涙なくして見ることはできない映像です。死の直前である1977年6月のライヴです。

新聞記事の湯川さんのコメントでは、「異様に太る病気に苦しみ、無理な食事制限、大量の薬品投与を繰り返してきた」 ことを死因としてあげています。映画で描かれたとおりだとすると、その病気をさらに悪化させ、追い詰めたのはパーカー大佐に他ならないと思わざるを得ません。ですが、エルヴィスの才能を見抜き、それを世に広めたのもまたパーカー大佐なんですよね。






本編終了後のエンドロールで、「イン・ザ・ゲットー」 が流されました。 この曲の意味を知る人にはやはり涙を止めることが出来ない曲です。 良心と理解のある人たちによって、この映画が作られたことを嬉しく思えた瞬間でもありました。