さて、前回の記事の最後で、学校の先生は3足のワラジだけでなく、場合によっては4足目のワラジを履かされる事もありうる、と書きました。

 

ここで3足のワラジをもう一度おさらいすると、

 

[1] 授業や担任業務など、教員としての本来の業務

[2] 部活動指導

[3] 校務分掌

 

でしたね。

 

これだけでも既に多くの教員は疲弊しているのですが、そこに更に追い打ちをかけるかのごとくのしかかる4足目のワラジ。4足目のワラジとして追加されうる仕事はいくつかあるのですが、その中でもよくあるのは組合活動の仕事だと思います。

 

この組合活動、僕の勤めていた学校では職員会議が1時間あったそのすぐ後に、そこから更に1時間会議が行われていました。職員会議と組合の会議は原則毎週行われるので、毎週会議のために2時間拘束される事になります。

 

この組合活動は組合員としての役職が割り当てられていない人だったら、ただ会議で話を聞いているだけでいいのですが、役職を割り当てられた人は上記の3足のワラジに加えてこの組合活動にも時間を割かなければならなくなります。そしてこの組合活動の役職にも、部活動や校務分掌のように、キツイ役職と比較的楽な役職があり、キツイ役職はイジメの如く特定の人に集まるような仕組みになっているのです。

 

そこには「この人は既に他の仕事で大変だから組合の仕事までは回さないようにしよう」などという配慮などなく、むしろ「こいつならこの面倒な仕事を押し付けやすそうだ」という事で仕事の割当が決まってしまう、なんてこともあります。これが前回の記事の最後で僕が「イジメ」という表現を使った理由です。

 

具体例を挙げましょう。僕がまだあの学校で働いていた時、年度末にさしかかった所で組合の会長を新しく選び直す事になったので、そのために選挙が行われました。さて、ここで注意していただきたいのは、この組合の役員の選挙は立候補制ではなく推薦制であるという事です。

 

「この組合活動において、誰がどの役職にふさわしいと思うか」という紙が1人につき1枚ずつ渡され、その紙のそれぞれの役職の欄にみんなで好きなように教職員の名前を書き、それを投票箱に入れるのです。なので例えば、みんなの投票した用紙の中に、1人でも僕の名前を「組合会長」の欄に書いた人がいたとしたら、僕は自分では全くやりたくないのにもかかわらず組合会長に推薦された事になってしまうのです。

 

このように選挙は立候補制ではなく推薦制なので、選挙が始まる前に予め水面下で口裏合わせをして、特定の人に狙いを定めて票が集中するように仕向ければ、その人にメンドクサイ仕事をなすりつける事も十分可能です。そして、そのような事態は実際に起こってしまいました。

 

このイジメの標的となってしまったのは普段からマジメで働き者なY先生。授業も普通に教えているし、担当している部活動も文化系ではなく体育会系の部活(バレーボール)だったのでそこでもだいぶ時間をとられます。更には校務分掌では総務部長の役職についていました。

 

ちなみに、以前の記事で校務分掌では生徒会部と生徒指導部が特にキツイと書きましたが、それはあくまでも部長ではない人の話です。部長の仕事となると、あらゆる校務分掌の中でもトップクラスにキツイのは教務部と総務部です。(生徒が荒れた学校だったらやはり生徒指導部がキツイですが)

 

教務部長と総務部長は、校長、教頭についで、学校運営における事実上のナンバー3、4といっても過言ではないようなポジションであり、その職務は重責にして激務。教頭の仕事と並び、連日朝7時から夜11時まで働く、リアルセブンイレブン状態になるのもそう珍しくありません。

 

Y先生は既に総務部長の仕事も含めた3足のワラジで精一杯なのに、開票作業をしてみたら不自然なほどにやたらと票がY先生に集まっていました。そりゃもう、2位以下に大差をつけるブッチギリで。「はい、んじゃ次年度の組合会長はY先生で決まりッスね」みたいな感じで終わりそうな雰囲気になった所で、たまらずY先生は声をあげました。

 

Y先生:「ちょ、ちょっと待ってください!今まで総務部長の役職を持つ者には、業務の過度な負担を集中させないように、組合会長との兼務はさせないように配慮されてきたではありませんか!今回の決定には納得がいきません!」

 

イジメっ子:「しかしY先生、組合の選挙の規約上においては、『組合会長と総務部長の兼務は妨げないものとする』と定められております。従って何ら問題はないものかと思われます。」

 

Y先生:「規約上は問題なくても、なぜこれまで総務部長と組合会長の兼務にならないように配慮がなされてきたのか、その経緯をもう一度よく考えてください!なぜ総務部長をしている者にこれほどまでに票が投じられるのですが?承服できません!」

 

いかにも大人の難しい言葉でやりとりが行われていますが、これ、子供でもわかる言葉に意訳すると、

 

Y先生:「僕もう既にメチャクチャ忙しいのに、何で更に僕にばっかり仕事を追加すんだよ?」

 

イジメっ子:「別にいいじゃんよぉ。あんたにばっかり仕事をさせちゃいけないっていうルールでもあんの?」

 

Y先生:「1人の人間にばかり複数の仕事を集中させたらパンクするって事ぐらい、常識で考えりゃわかるでしょ!」

 

てな感じです。

 

結局はY先生の猛抗議が実り、再投票が行われた所、Y先生はなんとか総務部長と組合会長の兼務を免れる事ができました。

 

これも考えてみたら幼稚なもんですよね~。小・中・高を問わず、生徒たちが委員会や係の割当を決める時は、いじめられっ子にメンドクサイ仕事がなすりつけられるという事が少なからずありますが、それと全く同じ事を先生たちもやってるんですからねぇ。今回の事例ではY先生の抗議が通ったからよかったものの、これでもしY先生が組合会長まで兼務させられ、4足のワラジの過労によって倒れるなんて事態が発生していたらと思うとゾッとします。

 

Y先生は鬼の4足のワラジを何とか免れましたが、悲しい事にその4足目のワラジの餌食となってしまう先生もいらっしゃいました。それが組合活動で執行委員という役職についていたS先生。組合活動の執行委員はやたらとペーパーワークの多い厄介な仕事です。毎週の組合会議の司会進行や報告事項も執行委員が行うので、その準備にも時間をとられます。S先生も、他の先生たちと同じように普段は普通に授業を担当しているし、部活動はテニス部と、これまたやはりかなり時間をとられる部活。校務分掌の教務部でも多くの仕事を抱えており、その中で更に執行委員の仕事も兼務しているのです。

 

あまりの激務に、

 

S先生:「さすがに私の今の状態はかなり厳しいです。来年度こそは、来年度こそはどうか業務負担の軽減の配慮をお願い致します…!」

 

悲痛に訴えるも、軽くスルーされるという鬼畜な仕打ちを受けておりました。

 

さて、組合活動のキツイ仕事を既に激務でいっぱいいっぱいの人になすりつけるというイジメを紹介しましたが、この「不平等な仕事の割当の仕方をする」といったパターンのイジメは、何も組合活動のみに限った話ではなく、他のいろんな場所でも行われております。

 

例えばテストの採点。夏休み明けや冬休み明けの新学期には全学年共通の実力テストが行われます。僕のいた学校では1学年につき40人のクラスが9つなので、360人の生徒がいるという事になります。という事は採点しなければいけないテストの答案は360人分。

 

ここで読者の皆様に質問なのですが、例えばこの360人いる1学年分の生徒たちを4人の教員で担当していたとしたら、答案の採点はどのように振り分けると思いますか?

 

360人(生徒)÷4人(教員)だから、1人の教員あたり90人分を採点するのでしょうか?

 

9クラス(生徒)÷4人(教員)だから、1人の教員は3クラス分(120人分)を採点、残りの3人の教員はそれぞれ2クラス分(80人分)を採点するのでしょうか?

 

ブーッ、ハズレ~(・´з`・)どちらも違います。

 

答えは立場の弱い教員が1人で360人分の採点をする、です。

 

英語科の教員で唯一の若手だった僕は、長期休暇明けの実力テストの採点を1人で360人分やる事になりました。あの時期は、来る日も来る日も丸つけ丸つけ。その分だけ帰りが遅くなるのは言うまでもなく、週末に採点のためだけに出勤した事もありました。僕と同じ年に別の府県で同じく教員として働き始めた友達に話を聞いても、やはり1学年全員分の採点を若手1人に押し付けられるというのは当たり前に行われていたようで、おそらく日本全国各地でこういう事が行われているのだろうな~と思います。

 

さて、これまで学校内で行われている教員間でのイジメについて氷山の一角をご紹介しましたが、このような話を聞いていると、なんか学校の先生って嫌な奴で溢れかえっているみたいな印象がありますね。僕も実際働いている時は半分ぐらいは悪い人、みたいな感覚を持っていた事もありました。

 

しかし、今冷静になって、具体的に「コイツはイカン!」という教員の名前を改めて自分の頭の中で列挙してみると、思い出せたのは15人ほどでした。これを当時のあの学校の全教職員数75人で割ると、全体の約2割という事になります。今の時点で思い出せていない嫌な奴がもう何人か出てきたとしても、多くても3割いかないぐらいでしょう。つまり、逆に言えば、学校の先生の8割ぐらいはマジメで働き者で優しくて良い人、という事になります。

 

皆さん、ここで1つ疑問が挙がりませんか?教員には嫌な奴よりも良い人の方が多いはずなのに、なぜこんなにも日常的に不条理がまかり通るのでしょうか?

 

それは、この8割の「良い人」の教員の多くが優しすぎて、理不尽な事が起こってもあまり闘わないからだと思います。また、なまじ働き者で優秀だから、人に面倒を押し付けて平気な顔してる教員に対して抗議をするよりも、衝突を避けて、それでも上手くやれてしまう人がけっこう多い。

 

同じ職場に嫌な奴がいても、その人と衝突せずに上手くやっていく技術は確かに時には必要だし、持っていて損はない技術だとは思います。でも、毅然とした態度を取る事なく衝突を避けてばかりというのも、それはそれでやはり問題だと僕は思うのです。8割の優しい人が衝突を避けて上手にやりくりし続けていたら、残りの2割の嫌な奴らはいつまでたっても調子に乗ったままで、自分たちの言動を改めようとはしないでしょうから。

 

ところで皆さん、10月24日って何の日か知っていますか?この日はアイスランドの女性が、女性を軽視していた男性たちへの抗議のために、あらゆる仕事を一斉に休んだ日です。今でこそアイスランドは世界トップレベルの男女平等が保障された国となっていますが、それは最初から女性たちに与えられていたものではありませんでした。

 

懸命に働いていたのにないがしろにされていたアイスランドの女性たちは、権利を勝ち取るために闘ったのです。これは逆に言えば、マジメに頑張っているのに報われない人間たちというのは、権利を勝ち取るために立ち上がらなければいつまでたっても報われないままであるという事の裏返しとも言えるかもしれません。

 

とはいえ、最近になって、割を食っている教員たちも黙っているばかりではなく、例えば部活動指導の仕事の実態があまりにもブラックであるとして、状況の改善のための署名活動が始まるなど、少しずつではありますがまともな方向に向かい始めたとは思います。

 

僕は今はもう既に教員ではありませんが、これからも教員が理不尽な環境にさらされていたら声をあげていきたいですし、1日でも早く彼らの劣悪な労働環境が改善される事を願っています。また、以前の記事でも書きましたが、過酷な労働環境によって精神や肉体を壊され、最悪の場合には自ら命を絶ってしまうという悲しいケースは教員の世界のみならず、残念な事に民間企業でも少なくなく、日本の労働市場全体で見られる事です。

 

実際、日本では毎年2,000人が過労による極度のストレスが原因で自殺しています。

(↑出典元↑

 

いつの日かアイスランドの10月24日のように、日本でも「職場でのハラスメントが撲滅された日」みたいな日ができるといいなと思っています。