犬と私と恋の甘言

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見た目は悪い、確かに悪い

が、しかし中身は悪くない、

むしろいい、非常にいい、という

雑種雄犬9歳との散歩を終え

保護犬収容施設に戻った私。

 

がに股スケベ面加齢臭ありの

もはや卑猥の域に達した件の犬の

散歩綱を施設の係に返しながら

「ところでこの子、

訓練を受けている犬ですね。

散歩の時に綱を

引っ張ることがなかったです。

どんな前歴の犬なんですか?」

 

「えーとこの子はですね、

前の飼い主さんが突然死してしまって・・・

それで貰い手が無くてウチに来た子です」

 

「・・・ああ!

 

「飼い主さんはこの子と一緒に

純血種の犬をもう1頭飼っていて、

そっちの子も一緒にここに来たんだけど

その子は来てすぐに貰われて行って」

 

・・・ああ?(低音)

 

いや、わかる、わかるんです。

 

犬の多頭飼いはとても大変。

 

無理をして2頭も3頭も引き取って

余裕のない飼育をするよりは

1頭だけを選んでその子に全精力を注ぎ

大事にするのも正しい選択。

 

でもさ、飼い主を突然亡くして

施設に追いやられた犬2頭の

片方を引き取るなら

そこでもうちょっと頑張って

残りの1頭も引き取ってあげるのが

犬好きの理想といえば理想なんでない?

 

まあそこで2頭は無理だから

1頭だけを、ってことになった場合

『見た目の悪い方』を先に引き受けるのが

犬好きの矜持というものではない?

 

純血種君のほうは

さっさと貰われて行ったって!

 

そんでこの子(文句なし不細工)は

施設に残されてそこでの滞在記録を

順調に伸ばしてしまっているって!

 

何だよ、世間はそんなに外見が大事か!

 

21世紀の先進国で

それは違うんじゃないのか!

 

この瞬間私の淡い恋心は

義憤の炎に煽られた!

 

「・・・この子、9歳ということですが

健康状態はどんなものでしょうか」

 

「健康です。少なくとも現時点で問題なし。

あ、でもね、これは善意の獣医さんが

出してくれた現時点での所見でね、

たとえば将来的に精密検査をしたら

『昔からの健康問題』が露見する可能性が

ゼロってわけじゃないんだけど・・・」

 

「大丈夫です、それはわかります。

でもたとえばこの時点でこの子は

特別なケアを必要とする子じゃないんですね」

 

「そういうのは必要ありません。

でもご存知のようにもう9歳なので

ここから色々健康問題は出てきます。

それはどの犬もそうなんだけど」

 

「はい、それもわかります」

 

「・・・この子のこと、好きになったのね」

 

「はい。好きになりました。

明日、家族の者と一緒にまた来ます」

 

胸の奥の温度が上がるのを感じながら

私は車でいったん帰宅。

 

ハンドルに犬ニオイがついたのはご愛嬌。

 

しかし犬って本当にニオイが強いですね・・・

 

夜になって帰宅したわが夫(英国人)に

「私はとうとう『自分が飼いたい犬』を見つけた。

明日、一緒に保護施設に行ってもらえるか」

 

「へえ!どんな犬ですか?」

 

「頭が良くて躾が行き届いている。

散歩をするにあたって何の支障もない。

大きさも中型犬だから万一があっても

私の力で抑え込めると思う。

ただ年がもう9歳なのでそこが

心配といえば心配かもしれない」

 

「そこは心配しなくて大丈夫でしょう。

いざというときは僕たちでちゃんと

看取ってあげる心構えさえあれば」

 

「そうだよな。あとは猫との相性だけど

これは対面させてみない事にはなあ」

 

「で、どんな犬なんですか?色は?」

 

「色・・・は黒地に白って感じかな」

 

「へえ!君はこの間、希望犬種は

白い犬って言っていませんでしたっけ?

色の濃い犬はニオイも強いから、とか言って」

 

「そうだ。それなんだ。その子、

ちょっとニオイのある子なんだ。

でも調べてみたところ犬のニオイは

餌とシャンプーで変わるらしい。

短毛だから散歩のたびにタオルで

乾布摩擦をするようにすれば・・・」

 

「短毛ってどれくらい?柴犬みたいな?」

 

「いや、もう、剃りあげ感があるくらいの・・・

うん、つまりね、見た目だけを言えば

この子は私の好む所の対極にあるんだ。

顔はハンサムじゃないし、体も不格好だし、

なんかもう衝撃的なまでにバランスが

悪い犬なんだが、でもな、いい子なんだよ。

いい子なのに貰い手がないんだ、あれは

絶対に見た目が災いしているんだ。

でもこれは好機、見た目以外は本当に

我々にとって条件のいい犬だと思うんだ」

 

「その子、いつから施設にいるんですか?」

 

「それだよ。その子の来歴を聞いてくれよ。

その子はそもそももう1頭の純血種と一緒に

どこぞの家で飼われていたらしいんだが・・・」

 

見目麗しいであろう純血種は

さっさと貰い手が見つかったのに対し

しかし外見に難アリなこの子は

保護施設滞在が長引いてしまっている、

犬好きとしてこの悲劇に介入せざるは

勇無きなりと思わんか!と熱く語る私を前に

夫は妙に何かを達観した笑顔で

「・・・なるほど、君は見事に

甘言にのせられましたね」

 

・・・か、甘言っ?

 

「夫よ、君はまた何を言うんだ。

施設の人が嘘をついたとでも言いたいのか」

 

「いや、まったくの嘘じゃないと思いますよ。

でもこれはあれですよね、

『猟犬として飼育されたのに

小さな生き物を殺すことに耐えられない

繊細な神経を持っていたが故に

処分されそうになっていた犬』とか

『趣味の乗馬用の馬としては

問題がないものの

競走馬として一流ではないために

馬肉にされてしまいそうだった馬』とか

そういう引き取り手の心を上手にくすぐる

素敵な『おはなし』のひとつではありますよね」

 

「お・・・『おはなし』って・・・」

 

「あ、勘違いしないでください、僕は

こういうお話に心を動かされる君のことが

嫌いじゃありません、むしろ好きです。

いや実際のところ君はこういう話を

鼻で笑うタイプかと思っていたんですが・・・」

 

「何だよ『こういう話』って!じゃあ

君はあの犬を引き取りたくないんか!」

 

「いえいえ、そんなことはないですよ。

明日その子に会いに行きましょう。

そういう話に説得力を持たせられる

外見の犬、というのに興味もありますし」

 

「だから何だよ『そういう話』って!」

 

ともあれ我々は翌日連れだって

保護犬収容施設に向かったのです。

 

続く。

 

 

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