真正国家幻想(恋・愛詩Ⅲ) 伏久田喬行

 

 

たちどころに襲うは冷ややかなる眼の引力か

そは大いなる発掘につきまとう

あからさまな風鳴りのごと

化石の人身をなでてゆく

また葬送の地獄絵に

天動の音楽が流れゆく

 

 

荒涼の大運河

わたる

水面(みなも)にひとしくゆらめくは

黄金のかすかな息吹き

波うちよせる

際に浸れれば

大気を失うばかりに

はや呼吸は陶然と停止する

 

 

勇躍の声鳴りはさも断末魔の恍惚か

もうもうと鳥肌たつ五官よりさまよい

皮膚感覚にケロイドは煮えたぎり

声鳴りの一滴がしたたりおちる

あれぞあたたかきセカンドの

あれよ声も少くなにツツー汫(はし)る

さも銀の音

黄金の息吹をさまし

皮相の矛盾感覚より

真正を確として幻想する

ここに

声鳴りのぬけ出でて

沈黙の

内部支配が展開する

 

 

かくて

ひとかどの扉を押せば

まっ赤なる鍵の喪失して

めくりきたる嵐に泳げよ

流水にまどう

流水に

こころ乱れて

いやさ!

毒喰わばさらに皿まで!

さらに弾ねよ黄金の水面を廻転して全身をそそぎ

かくも一血の

源については我しらず

一血の

源についてはまったくの

関するところなき

おや?

地球?なリズム

やあやあ快き心地よき

混濁の総乱節!

ひしひしと肉体を流れゆく

 

 

神殿の名残りは深く碧空に叫び

迸(はし)ることなき聖天に

くずおれ落ちていく

大理石(ロゴス・ストーン)はるか

風鳴りにあおられて

飛沫は乾き

散り散りに降り積もる火山灰台地のふもとには

かがやかしい閃きの残像はなく

地形は芒洋として

焔の前兆はいまや

奇形の肉体に宿るのだ

 

 

火散る飛び散る

波のごと

隠れたる内乱は

ひしひしと潜行する

夏草の繁みには露たりともおかず

叙事の水滴に別れをつけよ

もはや熱すらも皮膚をしのぎ

やわらかな聖人を割る

観 きわまれるか

流線の存在地形に

感覚の息吹がほとばしる

 

 

このさわやかな風の一じん

このさっそうたる風の趨勢

このあきらかに

透きとおったる風の領域は

宴の熱の焼きつくす

かすかな再生の音楽か

さほとアルチュウル

<優れた音楽がわれわれの欲望には欠けている>

さほど

優れた欲望がわれわれの音楽には欠け

たゆたう弦におく掌に聞け

永遠の叛発磁場のうねりにのせて

 

 

やれ総乱

海潜舞曲

やれ総乱

熱砂のマラカス

また雲海に泳ぐのか

(1973/7/?)

 

 

 

詩篇は、1973年8月1日発刊の伏久田喬行の個人誌・小冊子6号に書かれたものです。コピー状態がかなり悪く、七月の文字は読めたものの、日にちについては完全に消えていて分かりませんでした。

 

この号の表紙は、駅の一番先端から撮った写真。写っている線路は前方がハレーションしていて、先が見えない…線路の永遠のロマン…。