HEATH OF 2006 ~僕たちのセント・エルモス・ファィアー #3 (5) | I am say'S'

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「香り」をテーマにいろんなエッセイと小説を掲載します

        HEATH OF 2006 #3 出会い 
               ~First HEATH In Winter(5)


僕はチナミにはじめてHEATHに来たときのことを事細かく説明した。
マスターもそれに相槌を入れてくれる。
話しながら僕はいつものペースでグラスを手のひらの中でころがしていると
「何をしているの?」とチナミ。
さっきまで「ですます体」で会話していたのが、少しずつ友達言葉が混じってきている。
適度なお酒はほんの少しだけど僕たちの距離を縮めてくれる。
「こうやって空気に触れていると、少しずつ香りが広がったり、味がなめらかになったりするんだよ。
ちょっと匂いをかいでみない?」
僕はチナミにグラスを差し出した。このウィスキーは花のような香りが特徴的だ。

「とてもおいしそうな匂いね。」
「ためしにちょっとだけ、口にしてみる?」
「えっ、ストレートでしょ。いままで飲んだことないのよ。」
「大丈夫、そんなに口当たりが強いものではないから。」
「じゃあ一口だけ。」
これがチナミの最初のストレートウィスキーとなった。
「それほどきついというわけではないわね。少しだったら飲めるかも。」
「じゃあ、とっておきの1本を飲んでみる?」
「えっ、何?」
「マスター、ストラスアイラの例のボトル出して。」
「かしこまりました。」

奥の棚からうすいクリーム色に金色の文字と小さな赤いマークが真ん中に印された、
わりとスタンダードな形のボトルが目の前に出てきた。やや濃い琥珀色のウィスキーをグラスに注ぐと、
「チナミさん、だまされたと思って飲んでみて。もしきつければシゲルさんが飲んでくれるから。」
マスターが奥の棚から出してきたのは、ストラスアイラの特別バージョン、
亡きプリンセス・ダイアナとチャールズ皇太子の結婚記念ボトルだ。
ロイヤルマリッジ・ウェディングという名前がついている。
僕はこのボトルのエピソードをチナミに話した。
そしてチナミの目の前で注がれた1杯。それを口にしたチナミの大きな目は点になった。

これが僕たちにとって最初の思い出の1杯になった。
そしてその日は偶然にもチナミの誕生日の前日。僕たちは再度、乾杯した。

                              ・・・to be continued