週刊プロレスで諏訪魔のインタビューが掲載されている。

 

諏訪魔は新人レスラーの育成について真剣に語った。

 

今、コロナで試合数が減っている。諏訪魔ほどのベテランになると、試合数が少なくなっても、前哨戦がないぶっつけ本番のタイトルマッチを組まれても、何とかできるものだ。

 

しかし新人レスラーは違う。年間50試合のレスラーと年間200試合のレスラーでは、実力に差が出てしまう。

 

世界の荒鷲・坂口征二も現役時代に「試合は最高の練習」と語っていた。

 

諏訪魔が人材育成に熱心なのは、デビューの頃の記憶が残っているからだろうか。

 

私は諏訪魔のデビュー当時を知っているが、印象的な出来事があった。

 

諏訪間はベイダーと対戦し、あの巨漢をジャーマンスープレックスでぶん投げた。

 

観客も驚くし、諏訪間も自信を深めた。

 

そして、佐々木健介とも対戦。

 

ベイダーと比べれば佐々木健介のほうがはるかに体重が軽いので、佐々木健介もぶん投げようと諏訪間は燃える。

 

いよいよ佐々木健介のバックを取ってジャーマンスープレックスを狙った諏訪間だが、投げられない。

 

何度投げようとしても投げられない。

 

諏訪間は気づいた。ベイダーは、投げさせてくれたのだ。

 

佐々木健介のような一流のベテランレスラーが本気で粘ったら、新人レスラーの力では、ジャーマンスープレックスで投げることなどできないのだ。

 

諏訪間は激しく落ち込んだ。試合後、諏訪間は「やる気なくしますよね」と意気消沈。

 

根性がない選手なら潰れてしまうかもしれない。

 

これが佐々木健介流の人材育成だ。根性がある者だけが這い上がって来る。

 

プロレスは勝負の世界だから、舐めてかかったら危険だ。

 

新日本プロレスのリングでも、佐々木健介は口達者な若いレスラーには厳しかった。

 

若手が逆水平チョップやドロップキックをやっても、佐々木健介は微動だにせず「何してんの?」という冷たい顔で睨む。

 

逆水平チョップというのは、こうやってやるんだとばかり、バチーンと胸板を叩き、若手は宇宙遊泳のようにふらついてしまう。

 

最後は強烈なラリアットで一回転。フォールに行かずにレフェリーに10カウントを数えさせて完全KOだ。

 

 

諏訪間は「やる気なくしますよね」といじけてグレて、ヒールに転向したわけではないだろうが、諏訪魔はヒールに転向して成功した選手だと思う。

 

実力がつけば、ベビーフェイスもヒールもない。内藤哲也もベルトを鉄柱にぶつけたりするような意味不明なことをしなくなった。

 

人気と実力を勝ち取れば、制御不能で売る必要もない。諏訪魔もヒールにこだわる必要がなくなった。

 

諏訪魔はデビューして数年でトップレスラーの仲間入りを果たしたが、この急成長は、佐々木健介の仕打ちが正しかった証拠か。

 

 

今、プロレス界はスーパースター不在の時代だ。

 

力道山やアントニオ猪木やジャイアント馬場のような、プロレスを見ない人でも知っているという巨頭はいない。

 

会社が無理やり演出してスターを作ろうとしても、メッキが剥がれるし、目の肥えたファンには見破られてしまう。

 

だから小手先ではない人材育成が必要なのかもしれない。

 

常に全体を見て考えている諏訪魔も、新人レスラーの育成は先輩レスラーの責務という気持ちが強い。

 

時間はかかるかもしれないが、団体の未来やプロレス界の未来を考えるならば、将来トップレスラーとして活躍するような人材を育成することが大事になってくると思う。

 

一ヵ月や二ヵ月では大樹には育たない。

 

試練の10番勝負や、試練の7番勝負という企画を復活させるのも面白い。